リモートか出社か。トヨタやホンダだけでなくサプライヤー各社をも悩ませる問題を報告する

 コロナ禍で進んだ在宅勤務、いわゆるテレワーク、リモートワークに変化が見え始めた。政府が打ち出した「感染防止と経済活動の両立」を受け、出社しなければ仕事にならない製造現場や研究開発部門を中心に、「原則出社」に踏み切る企業が増えている。

ホンダ青山本社入り口

ホンダ青山本社 事務系の仕事はリモートワークでも対応できるジャンルが一定数存在する

 自動車メーカーではホンダが研究所や営業本部を対象に原則出社に踏み切ったが、トヨタは東京・名古屋では出社率がまだ5割に届いていない。7月中旬現在、オミクロン株の変異種BA5への置きかわりで、第7波と呼べる感染拡大状態になりつつあるが、欧米に比べてウィズ・コロナ(コロナと共存)への転換が遅れている日本に求められるのは、経済活動をどう円滑化するかの方法論である。

 2020年の春、日本で新型コロナウィルス感染症(COVID-19)の蔓延が始まったあと、自動車のような製造業でも在宅勤務が本格化した。2020年秋に実施された保険会社のアンケートでは「何らかの方法での在宅勤務を導入した企業」は8割に近かった。ただし、従業員数1000人以上の大企業では9割を超えるものの、従業員50人以下の企業では5割弱にとどまった。小規模の下請け業者は「かえって業務が煩雑になった」という例も報告された。
 自動車メーカーや部品メーカーでは、2021年に入って商品開発部門でも在宅勤務を選択できるようにした例が増えたものの、たとえば「会社から支給されているノートパソコンはネットワークに接続しての使用を制限する」といった条件を設ける例も多い。
「こうした条件が作業の効率を大きく下げている」との指摘もある。企業によっては「メール送信も不可」という制限がある。同時に「IT(情報通信)企業と新たな機密漏えい防止契約を結ぶなど、コスト負担増になった」という例も多い。

日産の個体電池試作風景

日産が公開した個体電池の試作風景 試作や生産・組み立てなど「現場」でないと取り組めない仕事もある

 自動車関連企業が公表した数字を見ると、日産は2021年8月実績で横浜本社の出社率が25%、三菱自動車は今年4月の本社および製造部門での出社率29%、スズキは今年2月の本社で出社削減率45%、トヨタは今年4月の本社地区出社率が50〜60%、アイシンは執務スペースの在籍率50%以下、マツダは21年7月の広島地区出社率約40%……となっている。製造部門は出社し、それ以外の部門はできるかぎり在宅という印象だ。
 一方、自動車販売店は在宅勤務が難しかった。とくにサービス工場を持つ店舗では、定期点検や車検のための整備に対応しなければならない。
「万全の感染対策を敷き、会話をしなくても作業を進められるようマニュアルを作った」という例もあった。2020年と2021年は新車販売台数が落ち込んだが、その中でも自動車販売店や整備工場は仕事をしていた。
 一方、働く側には「出社しなくてもいいのであれば郊外に引っ越す」「大都市ではなく自然の中で暮らしたい」とのニーズが生まれ、大都市を脱出する人たちもいた。しかし、2021年10月時点での総務省人口推計では、2020年統計では人口が増加していた東京をはじめ神奈川、千葉、埼玉、福岡の5都県で人口が減少に転じたものの、増減率よりは小幅だった。東京都内の住宅価格は依然として高く、専門家も「明らかな傾向としての首都圏脱出は起きていない」と分析する。

ホンダ鈴鹿製作所

ホンダの鈴鹿製作所

 在宅勤務だけで事業が完結する業種もあるだろうが、自動車のようなモノづくり産業は部品生産、その運搬、車両工場での最終組み立て、販売した後のメンテナンスなどが必須であり、コロナ禍ではやったエッセンシャルワーカーという言葉で表現できる業種だ。
 また、在宅勤務は「家庭の物的負担」が増えるほか、ネット接続時のセキュリティという重要なテーマを抱えている。ネット接続で完結できる業種は、そうは多くない。いたずらに在宅勤務を礼賛するメディアの風潮にも違和感をおぼえるのだ。

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