中国IT企業が自動車ビジネスに巨大投資を続ける理由

AI(人工知能)分野で中国企業が見せる存在感と、中国政府の思惑

Ford_and_Baidu_Announce_Joint_Autonomous_Vehicle_Testing縮小.jpg▲フォード(米国)とバイドゥが開発した自動運転車(レベル4水準) 2018年10月に公開された オンロードでのテスト走行を2年間にわたって実施する計画

 百度(バイドゥ)、阿里巴巴(アリババ)、騰訊(テンセント)といった日本でも有名なこれらの中国IT(情報通信)系企業は、さまざまな分野に投資している。その中心は自動車産業だ。

 自動車とインフラ間および自動車と自動車の間で情報をやり取りするコネクテッド(C)技術、自動運転(オートノマス=A)、そしてシェアやライドシェアなどのシェアリング(S)サービス、それと電動化(エレクトリフィケーション=E)の4テーマがCASEと呼ばれ、自動車のあり方やその周辺のビジネスを大きく変えようとしている現在、中国のIT系企業は重要な存在になった。

 彼らは自動運転のためのAI(人工知能)開発に着手している。これは画像をひとつずつ「説明付き」で覚えさせるというアナログ作業であり、大容量のコンピュータサーバーの維持費とオペレーターの人件費が、開発費の大きな部分を占める。

 バイドゥは2017年に発足したアポロ計画(2020年末に完全自動運転を目指すプロジェクト)で自動車メーカーやサプライヤー(部品メーカー)などを巻き込んだオープンソース(情報開示)型の開発を始めた。協力すれば成果を共有できる点が注目され、フォードやダイムラー、インテルなど120社以上がこのプロジェクトに参加している。

ダイムラーのサインセレモニー縮小.jpg▲2018年7月に北京でダイムラーとバイドゥが協力関係を締結 自動運転に関する分野とコネクティビティに関する分野で技術開発を進めると発表した

 中国政府はバイドゥを自動運転AI開発の国内リーダー企業に認定。これでバイドゥは資金調達面で優位に立った。一方、ライバルのアリババとテンセントは米国をはじめとする経験豊富なAI技術者をスカウトするなどして対抗している。自動車メーカーとの連携も進めており、自動運転分野で米中を軸とした勢力争いが活発になってきた。

 ただし、現状は「完全自動運転は小型バスやタクシーのような車両で、せいぜい時速40km/h程度までが能力の限界」である。

 BEV(バッテリー電気自動車)開発にも力を入れている。中国政府が大量普及を目論んでいる分野であり、リチウムイオン電池開発を含めて世界標準の地位を目指している。まだ販売台数の少ない分野だが、量産体制を整えなければ市場拡大はできない。

 そこで先行投資が必要になる。バイドゥとテンセントはBEVスポーツカーを生産するNIO(蔚来汽車)に出資し、米国進出を後押ししている。バイドゥは、NIOとはまったく毛色の異なる量産BEVを手がける威馬汽車(WMモーター)にも出資する。NIOのライバルでありBMWと日産の元社員が興したバイトン(BYTON)にはテンセントが出資している。アリババ集団は比較的安価なBEVを中心とする小鵬汽車(シャオペン)の大株主だ。小鵬汽車はシャープを買収したホンハイからも出資を受けている。

トヨタとDIDI.jpg▲トヨタは2019年7月に中国配車サービスの最王手、滴滴出行(ディディチューシン)と広汽トヨタ(GTMC)とともにライドシェア関連サービスを行う合弁会社を設立すると発表した

 2019年6月に中国政府が電動車への補助金を大幅にカットした影響で、BEV販売は急減速した。そこで各社はシェアリングサービスなどへのBEV投入を進めようとしている。配車アプリケーションで中国最大手の滴滴出行(ディディチューシン)は中国の大手金融グループやトヨタ、米・ウーバーテクノロジーズなどと提携している。バイドゥはアポロ計画で開発したAIを搭載する自動運転タクシーの公道試験に着手。中国内陸部でテスト走行を行っている。

 カーシェアやライドシェアといったサービスで使用する車両については、トヨタがウーバーと提携したように配車アプリを持つ企業と自動車メーカーとの間の提携が進んでいる。さらにテンセントのように決済アプリの強みを活用してカーシェア分野での存在感を増している例もある。滴滴出行は「トヨタのようなメジャーグループと提携したい」と公の場でアピールし、実際にトヨタおよびソフトバンクグループとの資本提携にこぎつけた。トヨタとホンダはバイドゥとも提携している。

 中国のIT大手が自動車分野に進出している最大の理由は、優れた資金調達力である。そのベースとなるのは企業の価値を表す時価総額だ。冒頭で紹介したアリババなど3グループは時価総額をバックに1000億円規模の資金調達をあっさりとやってのける。とはいえ、中国経済の減速と不透明な中国の金融収支を踏まえて、「すでにピークはすぎた」と見る専門家も少なくない。

 この2年間ほどは中国資本がCASE分野で大暴れしてきた。これは中国政府が狙う自動車強国を実現するための手段でもあった。中国企業はコンピュータ、スマートフォン、家電といった分野で世界のメジャー企業の仲間入りを果たした。

 現在の中国政府が取り組みを進めているのは、人材引き抜きであり、ソフトウエアだけでなくハードウエアの分野でも高額の報酬を武器に海外からエンジニアの獲得を進めている。

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