新車の開発領域は拡大の一途。重要性を増すエンジニアリング会社の役割

 ソニーが1月のCESで発表した電気自動車が話題を呼んだ。ソニーは、このコンセプトモデルを通じてソニーの車載用音響技術やディスプレイ技術をアピールすることに成功した。EVのプラットフォームは、マグナ・シュタイヤー社など、クルマ関連技術のエキスパートが担当している。マグナ・シュタイヤー社といえば、トヨタ・スープラなどの生産でも知られた存在だ。現在の新車開発で重要性を増しているエンジニアリング会社、メガサプライヤーの存在についてレポートする。

100年に一度の自動車変革期。専門性の高い技術集団の協力は不可欠

 クルマの開発事情が変わってきた。いまや自動車メーカーが車両開発を自社内だけで行うという例は皆無といえる状況になっている。

ソニーのビジョンフロント決まり斜め.jpg▲ソニーが1月のCESで発表したVISION-S

 こうした変化の理由は、ひとつには自動運転やコネクテッド(外部ネットワークとの接続)など新しい技術トレンドが登場した点がある。そしてもうひとつは、エンジニアリング会社とメガ(大手)サプライヤー(部品メーカー)による開発支援だ。

 昔から欧州ではエンジンや変速機(トランスミッション)、さらにはボディとシャシーを複数の自動車メーカーが共同開発する例はあった。また、ブレーキやエンジン周辺、内装も含めて専門のサプライヤーが開発のすべてを担当するケースは多かった。

フォルシア内装インターフェス.jpg

フォルシア手放し運転.jpg▲フォルシア・グループ/フォルシア・クラリオンはインテリアを総合的に開発して快適で心地よい移動空間を提供(写真上) 自宅玄関から近距離の駐車スペースまでを走行軌跡を記録してスマホの呼び出してクルマが自動的に玄関まで移動する高度運転支援などの技術を研究開発し実用化に近づけている(写真下)

 1990年代以降に欧州で生まれたエンジニアリング会社の中には、設計、試作、テストまで担当するところもあった欧州の自動車メーカーは、全体的に見ると日本の自動車メーカーに比べて開発を外注する比重が大きかった。

 米国勢は、かつてはGMとフォードが傘下にサプライヤーを置き、開発はそのグループ内でほぼ完結するという例が多かった。ところが、欧州同様に90年代からは開発の外部発注が増えた。

 21世紀に入るとGMとフォードも傘下のサプライヤー集団を手放して、欧州メーカーと似た開発体制になった。米国にもエンジンやエレクトロニクスモジュールなど部門ごとに自動車メーカーを支援する企業が出現した。

マグなのHP.jpg▲マグナ・グループはボディ/シャシー/エンジニアリング/完成車作りなど幅広い領域で自動車産業に関与している

 そして現在、自動運転やコネクテッドといった分野は、サプライヤー同士が提携したり、あるいはメガサプライヤーが自社にない部門を持った中小サプライヤーを買収して一貫した開発〜製造体制を敷く体制になった。  中でもAI(人工知能)ソフトウエアの構築は、経験した実験走行距離や読み込んだ画像の枚数によって完成度が大きく変わるため、ほとんどが専門企業で行われる。AI開発メーカーがGPU(画像処理コンピュータ)にチップ開発を行う例も多い。

 ソニーはCESで自動運転BEV(バッテリー電気自動車)のコンセプトカーを披露して話題になったが、車両諸元の決定など基本設計はマグナ・シュタイヤー(マグナ・グループ)が担当し、駆動系やブレーキなど各パートはそれぞれ専門のサプライヤーが行った。

vinfastHP.png▲ベトナムの自動車メーカー、ビンファストはBMWの旧世代プラットフォームを購入 マグナ・インターナショナルらに開発支援を委託して量産車の生産を始める(写真はHP画像から)

 過去にマグナは、中国・奇瑞汽車とイスラエルの政府系投資会社が設立した観致汽車でも車両設計から開発、試作、テストまでを担当した実績がある。ソニーが同社を選んだ理由は、高い技術力を認めたからだろう。  新しい例としては、ベトナムで投資会社や不動産会社などの企業グループを営むビン・グループが立ち上げた新しいベトナムの自動車メーカー、ビンファストがある。同社はBMWから旧世代プラットフォームを購入し、マグナ・インターナショナルとオーストリアのエンジニアリング会社、AVLに実際の開発支援を委託する。この方式で、今年から生産を開始する予定だ。

観知汽車.png▲中国・観致汽車は奇瑞汽車とイスラエルの政府系投資企業が設立したメーカー(写真は観致汽車のHPから)

 異業種が自動車に参入するという例は新興国で見られるものの、日欧米では見当たらない。ソニーの場合は、自動車そのものを生産し自社ブランドで販売するのではなく、自動運転やコネクテッドの分野でキーサプライヤーになるための技術と知識を蓄積するために「車両設計を経験する」という目的が大きいように思われる。

 世の中では「BEVはエンジン車よりも構造が簡単だから、家電などの異業種も自動車に参入できる」との見方があるが、実際にクルマを製造して販売する段階では、数々の安全基準を満たし、すでに販売されているクルマと同等以上の走行性能に仕上げ、販売とアフターサービスの体制を整えなければならない。こうした部分を他社と共同で行うにしても莫大な投資が必要だ。電動車両の普及を国家事業として推進している中国でも、新興の電動車メーカーが操業停止に追い込まれている。投資はAI企業などに集中しているのが実情だ。

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