世界で転換期を迎えた自動車環境規制。脱炭素と産業競争力の新たな均衡点

 

 上記表は経済産業省がまとめたもの(資源エネルギー庁の資料より抜粋)。自動車業界は今、電動化一辺倒から「脱炭素と産業競争力の両立」を模索する新たな局面を迎えている。CO₂排出規制、排ガス規制、燃費規制は依然として強化の流れにあるものの、2026年現在、各国・地域で制度の見直しが進み、補助金政策も「EV普及支援」から「産業育成支援」へと軸足を移しつつある。

 最も厳しい環境規制を導入してきた欧州連合(EU)では、Euro 7の導入準備が進み、窒素酸化物(NOx)やブレーキ・タイヤ由来の粒子状物質まで規制対象が拡大された。一方、メーカー全体の平均CO₂排出量を管理するフリート規制は維持されるものの、EV市場の成長鈍化や欧州メーカーの競争力低下を背景に、制度運用には一定の柔軟性を持たせる議論も進んでいる。2035年以降の内燃機関車販売終了という目標は維持されているが、e-fuel(合成燃料)の活用など例外措置も検討されており、脱炭素と産業競争力の両立が重要なテーマとなっている。

 一方、米国では政策が大きく転換した。バイデン政権ではEPAの温室効果ガス(GHG)規制やNHTSAのCAFE(企業平均燃費)規制を強化し、事実上EV比率の拡大を促してきた。しかし2025年以降はトランプ政権が「市場が技術を選択する」という考え方を掲げ、EV購入税制の縮小や燃費規制の見直しを進めている。EPAはGHG排出規制の再検討を開始し、メーカーは内燃機関やハイブリッド車への投資余地を取り戻しつつある。

 その一方で、カリフォルニア州のゼロエミッション車(ZEV)規制を巡っては、法廷闘争が続いている。2025年には連邦議会がCongressional Review Act(CRA)を用いてEPAによるカリフォルニア州の適用除外(Waiver)承認を無効化し、大統領が署名した。これに対しカリフォルニア州やCARB(カリフォルニア州大気資源局)は連邦政府を提訴しており、州独自のAdvanced Clean Cars II(ACC II)などの将来は司法判断に委ねられている。全米市場では連邦政府と州政府の規制が交錯する状況となり、自動車メーカーは商品企画や投資判断において高い不確実性を抱えることとなった。

 中国は世界最大の新エネルギー車(NEV)市場として独自路線を歩む。購入補助金は段階的に縮小されたものの、NEVクレジット制度や税制優遇を活用しながら電動車比率を高めている。燃費規制も年々強化されており、企業平均燃費とNEV販売比率を組み合わせた政策によって、EVだけでなくプラグインハイブリッド車も含めた総合的な電動化を促進している。現在では「補助金による市場形成」から「世界市場で勝てる産業育成」へ政策の重点が移りつつある。

 日本はハイブリッド車を含めた「マルチパスウェイ戦略」を採用している。2030年度燃費基準では2016年度比で約3割の燃費改善が求められる一方、2035年までに新車販売を電動車100%とする方針を掲げる。ただし、その「電動車」にはHEV、PHEV、BEV、FCEVが含まれており、特定技術に限定しない点が特徴だ。CEV補助金も継続されているが、近年は単なる車両購入支援ではなく、電池調達、GX(グリーントランスフォーメーション)への取り組み、サプライチェーンの強靱化などメーカーの総合的な競争力を評価する制度へと進化している。

 補助金政策も各国で共通した変化が見られる。かつてはEV購入時の価格差を埋めることが目的だったが、現在では電池の現地生産、重要鉱物の確保、サプライチェーン構築、雇用創出など産業政策としての色彩が強まっている。単にEVを販売するだけではなく、国内で付加価値を生み出す企業を支援する方向へ制度は進化している。

 世界の自動車規制は依然として脱炭素を目標に掲げながらも、その実現手段は地域ごとに大きく異なってきた。欧州は規制主導、日本は多様な電動化、中国は産業育成、米国は市場競争重視へと舵を切り、それぞれ異なるアプローチを採用している。これからの競争で問われるのは、単一のパワートレーンを選ぶことではない。地域ごとに異なる規制や政策へ柔軟に対応し、多様な技術を組み合わせながら持続可能なモビリティを実現できる企業こそが、次世代の自動車産業をリードしていくことになるだろう。

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