
ホンダN-ONE e:L/価格:319万8800円。N-ONE e:は商用車のN-VAN e:に続くBEV。日常のパートナーを目指して開発。ファーストカーとしても十分な295kmの航続距離(WLTCモード)が魅力。モータースペックは64ps/162Nm。静粛にしてパワフル
KカーBEVに新顔が加わった。すでに軽商用車N-VAN e:を販売しているホンダが第2弾として送り出したN-ONE e:だ。N-ONE e:は「e:Daily Partner(イー デイリー パートナー)」をグランドコンセプトに掲げる、スタンダードBEVという性格。日々の暮らしを生き生きと活発にしてくれる「日常のパートナー」を目指している。ちなみに話題の「スーパーONEコンセプト」はN-ONE e:のエボリューションモデルという性格になる。
N-ONE e:のラインアップはシンプル装備のe:G(269万9400円)と、ナビなどを標準とした上級タイプのe:L(319万8800円)の2グレード構成。購入にあたって国のCEV補助金は57万4000円。東京都の場合、さらに40万円ほどの上積みが期待できる。車両価格そのものはKカーとしては高額だが、実質的には、通常のエンジン車と同等の負担で乗れる身近な電動車である。
パワートレーンはN-VAN e:と共通。モーター出力/トルクは47kW(64ps)/162Nm、バッテリー容量は29.8kWhだ。注目は一充電あたりの航続距離。N-VAN e:比で大幅に軽量で空力にも優れることから、大幅増の295km(WLTCモード)を達成した。最大のライバル、日産サクラ(同180km)を115kmも上回っている。サクラは近距離用のBEVだが、295kmも走るN-ONE e:なら休日のドライブも安心。1台でオールマイティに使える、と考えていいだろう。
ボディサイズは、3395×1475×1545mm。最近のKカーはスペース性を重視した結果、車高が高いモデルが主流。そんな中にあってN-ONE e:は、数少ない立体駐車場対応モデルである。あえてN-BOXでなく、N-ONEをベース車に選んだのは、背が低いほうが空力に優れ航続距離が伸びる利点があることと、どんなシーンでも便利という点にこだわった結果と聞いた。
室内は広く快適だ。N-ONE e:は、小さいながらも大人4名が不満なく快適に乗れる。使い勝手も優秀だ。リアシートをダイブダウンして荷室と連続したフラットなスペースを作り出せたり、チップアップ機構で座面を跳ね上げれば背の高い荷物が積める。N-ONEと同等の利便性を持ち、荷室には大きなアンダーフロアボックスもある。
フロア下に搭載されたバッテリーの影響でフロアは微妙に高くなった。それでも乗車位置はN-ONEと同等だから、ヒール段差はやや小さめ。違和感を感じるほどではないが、N-ONEと異なるのは確かだ。
美点は、より自然な運転姿勢が取れるよう、N-ONE比でステアリングを37mmドライバーに近づけたこと。また、フロントフード形状の工夫で運転席からの視界が向上し、前走車との間隔がつかみやすくなっている。
車内デザインはシンプルな印象。インパネ造形はN-ONEとは異なる。Lに標準の9インチディスプレイにはBEVとして必要な情報が表示されるようになっているほか、カーナビは充電スポット検索が容易だ。インパネ上面がトレイ状に仕上げられているのも実用的である。
外観は独自のフロントマスクを採用。充電リッドはフロントグリルに設定した。これは充電中でも乗降性に影響を与えないための配慮だ。
試乗車はLグレード。横浜みなとみらい地区でドライブした。印象的だったのは、非常に乗りやすい点。加速の立ち上がりはあえて控えめに設定され、出足はナチュラル。アクセルを操作したとおり素直に応答してくれる。まさに自然体で走るイメージだ。何も気になることはなく、物足りなさも感じない。
山手方面に向かってきつい上り勾配に出くわしても、平坦な道を走っているときと同じ感覚で走れた。トルクが大きくレスポンスのよいBEVなればこそである。
減速も気持ちよかった。電動サーボブレーキにより自然なフィーリングを実現している。スムーズで扱いやすい。ホンダがKカーに初めて採用したシングルペダルコントロールの仕上がりは上々で、アクセル操作だけで加減速から完全停車までイメージしたとおりに動かせる。
取り回しもバツグンにいい。交差点やコーナーでステアリングを切ると、そのとおり何も気になることなく向きを変える。小柄で軽量な強みと、床下にバッテリーを配置したことで重心が低く、走行安定性に優れることが効いているに違いない。
乗り心地は、路面の段差や継ぎ目を乗り越えても衝撃がほとんど伝わってこないことに驚いた。日本の道路を深く研究し、日々の生活において快適に使えることを最優先して味付けされていることがよくわかった。
当初は、「N-BOXをベースにしたほうが商品力は高かったのではないか」と思ったが、実際に乗るとN-ONEだからこその魅力が満載だった。自然で素直な走りと取り回しのよさ、そしてなにより長い航続距離は大きな魅力だ。気軽に運転して出かけたくなるキュートで頼れるパートナーである。KカーでBEVを選ぶのが特別なことでなくなるのは、意外に早いタイミングかもしれない。
