
「カッコいい中古車」の筆頭はジャガー。ジャガーはかつてル・マンを席巻した名門スポーツブランド。全面的なBEV化を模索中のいまこそ、伝統が味わえるガソリン車に乗る価値がありそう。とくに名車Eタイプの後継車であるFタイプは魅力的
九島辰也(モータージャーナリスト) 最新のクルマはもちろん魅力的ですが、今は絶版になってしまった「ちょっと前のお宝クルマ」についてワイガヤしていきたいと思います。いつか購入しようと狙っていたのに、販売が終了してしまった憧れのモデルや、モデルチェンジしてコンセプトが変化してしまったクルマ、モデルライフが終わると聞いて、急に気になるものなど、色々とあると思います。今ならまだ手に入る、クルマ好きのワガママを満たしてくれるお宝クルマ、どんなものがありますか?
西村泰宏(カーセンサー統括編集長) もう終わり、という情報が流れると欲しくなるクルマってありますよね。先日、来年の6月での生産終了を発表したダイハツ・コペンや、ホンダS660、傑作エンジンEJ20型を搭載していたスバルWRXなどが思い浮かびます。
横田宏近(カー・アンド・ドライバー編集委員) マツダCX-8も、販売が終了してからの方が注目度が高まっていませんか?
山本善隆(カー・アンド・ドライバー統括編集長) CX-8は、日本で使いやすい全幅1845mmで3列シート、エンジンも傑作ディーゼルが選べて、あのたたずまいですから、再評価されるのは必然。後継のCX-80デビュー後も、できれば継続生産して欲しかったくらい。
九島 ボクは、英国の名門ジャガー、中でもFタイプが気になっています。ジャガーはル・マンも席巻したスポーツブランドで、中でもFタイプは名車Eタイプの正統後継車として2013年に登場した2シータースポーツ。ジャガーは英国車の中で最良のドライバーズカーといっていい。先日、趣味車としてアルファロメオ・スパイダーに加え、2002年式のジャガーXKRを増車したのですが、Fタイプもガレージに揃えたいな。
山本 ジャガーといえば、ミディアムスポーツサルーンの初代XFが印象的。室内に乗り込むとウッドパネルや、自動的に上昇するダイヤル式シフトセレクターなど、すべてが上質で洗練されていた。発表会に立ち会った当時は20代だったのですが、いつかこのクルマが似合うようになりたいと憧れました。後期型はいまでも通用するくらいカッコいいですよ。
横田:ボクは20代にMGBを乗っている時に、当時のジャガーXJで週末を過ごす機会がありました。今は似合わないけれど30代後半になったら乗りたい、乗れるように頑張りたいと思いました。ジャガーには独特の空気が流れていると感じます。
九島 現在、ジャガーは過渡期にありますね。新車販売は全面的にストップ中。次世代プランとして全面的なBEV化を推進したけれど、時代の変化にうまく対応できなかった。クルマとしての出来はいいのに残念ですね。だから余計にFタイプが気になるのだけれど。
西村 iペイスは先進的なBEVでしたね。でも街で全然見ない。Fタイプは確かに魅力的ですね。
山本 実はボクもFタイプは、ほしいクルマリストに入っています。幅が少しワイドすぎるのが唯一気になる点。
九島 FタイプにはV8、V6、そして2リッターの直4がラインアップされていたけれど、買うならどのエンジン?
山本 やっぱりV6かな、2リッターだと少し寂しいし、V8は憧れるけれどトゥーマッチ。
九島 そうだよね、ボクも同じです。
横田 現在、クルマの主流がSUVになりましたが、その流れの中で、かつてユーティリティカーとしてもてはやされたステーションワゴン系が寂しい状況です。
九島 MINIでいえば、伝統の観音式リアゲートを備えたクラブマンがそう。MINIは今電動化に積極的に取り組み、新世代化を図っているけれど、クラブマンの後継モデルは発表されていない。
西村 最終モデルが最新モデル、という状況が続いていますね。
九島 ボクもクラブマンのオーナーだった。乗っている人は、あの左右に開くリアゲートが好きなわけです。しかも最終型は4ドアになっているからオールマイティに使える。初期モデルは変形3ドアで、これはこれで人気なんですが、便利さという点では4ドアに敵わないでしょう。
山本 旧世代のクラブマン人気は、細部まで宿る「遊びゴコロ」という点にもあると思います。たとえば室内各部のスイッチ。最新モデルはシンプル路線で物理スイッチは減らす方向です。一方で前世代までのMINIの内装は、随所にトグルスイッチを使うなど、実に凝っていました。
西村 マップランプのスイッチまでトグル形状でしたね。
横田 MINIは、独自のデザインセンスが魅力の厳選ですからね。ところでステーションワゴンといえば、スバルのアウトバック、アウディのオールロード、ボルボのV90クロスカントリーなど、ワゴンの機能とSUVのタフさを融合させたモデルが軒並みディスコンという状況です。個人的に「河原に降りられるワゴン」は、一番刺さるジャンルなのですが……。
西村 ワゴン派生のクロスオーバーは、純SUVを買ってください、という判断なんでしょうね。
九島 SUVでは埋めきれないニーズに対応していたモデルは、受け皿がなくなってしまうことになります。
西村 個性的なクルマより世界戦略車が求められるビジネスの現実が影響していると思います。幅広いユーザーに受け入れられるためには、文句や不満が出ないパッケージングが求められ、デザインも嫌われないことが大切になる。現在は不満要素を消し去ったSUVを、さまざまなサイズで用意するのが王道です。世界戦略車から外れると車種ラインアップから消えていく。
山本 ステーションワゴンもそうですが、2シータースポーツのような趣味グルマも、新規開発が難しい状況ですね。グローバル戦略とかメーカーの合理性の追求を考えたとき、尖った個性や特徴を持ったクルマは作りづらくなってきた。そう考えると、少し前のモデルには、攻めたデザインや独特の個性の持ち主が多いので、いまのうちに手に入れるのが得策かもしれないですね。
九島 2シーターというと先代のBMW・Z4やメルセデス・ベンツSLクラスに心惹かれます。かつてZ3ベースのMロードスターに乗っていたのでZ3も大好きですが、電動リトラクタブルHTのZ4はスタイリッシュでBMWらしい。また先代SLは、「最高のパーソナルカー」という伝統を伝えるラストモデルだと思います。AMGの一員になった最新SLは、スポーツ色が鮮明になった反面、エレガント性が少し弱まった。大人のラグジュアリーモデルという意味で、先代最終のSL400がいい。
横田 SLは、ボクにはちょっと特別すぎるけれど、SLCやSLKだと現実的な選択肢ですね。ゆったり乗って似合うという点がいい。そういえば、2シーターもそうですが、パーソナルカーとして楽しめるコンパクトハッチバックも希少車の部類になってきましたね。長らくアイドルだったフィアット500や、アバルト595はBEVに移行。ガソリン車の販売は終了してしまいました。VWのTheビートルもなくなって久しい。
九島 フィアット500は、ツインエアに長く乗っています。魅力的なデザインと高効率を独自の解釈で実現したツインエアの組み合わせはベストだと思う。そういえば500にはグッチとコラボした特別仕様車もありましたね。
西村 アバルトには「トリブート・フェラーリ」やマセラティとのコラボ版もあります。手に入れられれば、まさにお宝ですね。
九島 アバルトは高級クルーザーメーカーのリーヴァとコラボしたリヴァーレもありましたね。個人的には先代DS3カブリオレのおしゃれさにも惹かれます。トップがモノグラム柄になっていて、さすがフレンチプレミアムと感心しました。
山本 自分はローバー時代のミニ、最終型のポール・スミス仕様との良い出会いがあれば買いたいと思っています。クラシックミニは、20代の時に買っておけば、という思いが詰まった、今なお気になるモデル。当時は「いつでも新車で買えるクルマ」だと思っていたけれど、いつの間にか消えてしまった。
九島 あれはいいよね、ポール・スミスだと、何色を狙っているの?
山本 イメージはブルーですが、ホワイトもありかな、と。
九島 最高におしゃれ!主流のブルーではなく、外してホワイトを選ぶセンス、さすがです。
山本 クラシックミニに乗りたいといっておきながら恐縮なんですが、先月号のヨンク特集に自ら感化されたのもあって、実は最近はじめてのアメ車、ジープ・チェロキー(KL型2022年式)を購入しました。チェロキーは、かつて日本でもポピュラーでしたが、現在はディスコン状態。本格派ラングラーと手軽なコンパスやレネゲードの間の中途半端な、もとい独特な味わいに惹かれました(笑)。使えるADASもついていながら、価格的にもリーズナブル。こういう埋もれたお宝クルマ、他にもたくさんあると思います。
九島 やっぱり愛車にするなら、自分らしさが表現できる個性的なモデルを選びたいですよね。自分にとってのお宝は何かを考えるのは楽しいと思います。今日はありがとうございました。西村さん、たび重なる出演お疲れさまです!