
フェラーリ849テスタロッサ。849テスタロッサは「500TR」登場70周年を記念したメモリアルモデル。クーペと電動オープンのスパイダーを用意。「849」は8気筒エンジンと、1気筒当たりの排気量(499cc)を意味する。駆動方式は前輪をモーターで駆動する4WD
マラネッロのニューモデル攻勢が続いている。フェラーリは今年2025年になってすでに2モデル、296スペチアーレ(クーペ&スパイダー)とアマルフィを発表済み。さらにもう2台あるといわれてきた新車のうち1台は、今年のハイライトというべき「エレットリカ(=フル電動モデル」のF244で、10月上旬にその先進テクノロジーの全容が披露された。そして最後のピースが、今回の主役、話題の849テスタロッサ(クーペ&スパイダー)である。
フェラーリ通なら開発コード(F173M)とエンジン型式(F154FC)でこの新型車がSF90シリーズの後継フラッグシップ=パイロットカーであることを理解しただろう。
マラネッロは近年、ロードカーのラインアップをオーナーのキャラクターによってレンジ分けしている。最もハードなドライビング志向をもつカスタマーレンジをピロータ(=パイロット)と名付けた。ピュアなスポーツカーだ。従来ならSF90シリーズが最右翼で296シリーズが続く。対極はツーリング志向のドライバーを想定したプロサングエやアマルフィといったいわゆるGTモデル。ちなみに両方の性格を兼ね備えたV12・FR2シーターのドーディチ・チリンドリはレンジの中心=ブランドのコアというべきロードカーとなる。
今回、849テスタロッサの本国発表会に出席した。パイロットカー系の発表およびテストはマラネッロで行われるのが常。今回もSF90後継モデルの発表だというウワサだったから、マラネッロを訪れるつもりでいた。だが「ミラノへいらっしゃい」というので驚いた。
ミラノはイタリア第2の都市。ファッションの都であり、伝統もありつつ変化に富み進化を喜ぶ街である。「アウトレーシング・アウトレージアス(=レーシングカーではないけれどもとんでもない性能を持つ)」を標榜する新型スポーツカー発表の場所としてこれ以上にふさわしい場所はなかった、というのがマーケティングのボス、エンリコ・ガリエラの弁。もちろんメディアのみならずVIPカスタマーも招待する(今回も世界から約500名が招かれた)から、そうそうマラネッロばかりへ呼んではいれられない、という判断もあったのだろう。
速報系メディアは「テスタロッサ復活!」を連呼する。筆者のようなアラカン世代には確かに懐かしいネーミングの再登板だ。けれども単に1980年代に一世を風靡した、あのテスタロッサが復活したといってしまうと、新型車の意味を浅く捉えてしまうことになりかねない。マラネッロは車両キャラクターを細部まで吟味したうえで伝統的なネーミング方法(=3桁数字+ペットネーム)を採り入れ「849テスタロッサ」の名を冠した。ちなみに849とは8気筒+499cc(1気筒あたりの排気量)を意味する。
テスタロッサとはマラネッロにとって極めてアイコニックな名前である。同時に究極の高性能エンジンを積むマシンを言い表す単語でもあった。その昔、赤いシリンダーヘッドを持つ2リッター・4気筒のレーシングエンジンを積んだバルケッタに初めてその名が与えられている。500TR=テスタ・ロッサ(赤い頭)だ。史上最も価値あるテスタロッサといえばV12をフロントミッドに積んだ250テスタ・ロッサだろう。もちろん私のような世代には1984年デビューのテスタロッサが心に刺さりまくる。
それゆえテスタロッサの復活だけをアピールすれば、やれサイドフィンがないだとか、12気筒ではないといったマト外れな批判が生じてしまう。テスタロッサとは決してそんな見かけやスペックを意味するキーワードではない。
だからといって849テスタロッサがヘリテージへの敬意を表現していないかというと、そうではない。リアセクションは明らかに往年のスポーツプロトタイプ512Sの面影がある。
「アウトレーシング・アウトレージアス」が849テスタロッサの本質を突くキーワードだ。それゆえパワートレーンはもちろんエアロダイナミクスやシャシー制御の進化がSF90と比べて著しい。否、ダイナミックパフォーマンスに関する技術の進歩が日進月歩であったがゆえに、いまなお戦闘能力が高いSF90をモデルチェンジするに至った、ともいえる。ちなみにSF90と849テスタロッサとの共通点はフロントスクリーンとサイドガラスを含むキャビン回りとエンブレムのみだ。
V8ツインターボエンジンはブロック、シリンダーヘッド、エキマニ、バルブシステムなどほとんどが新設計。さらに大型のIHI製タービンを積んでエンジン単体で830cvを実現した。その設計にはF80や296GT3の知見も大いに生かされている。もちろんハイブリッドシステムも進化し、モーター類も中身は完全に新しい。
結果、システム総合で1050cv&1250Nmという強大なスペックを実現。ライバルの現状を十分に想定した数字でもある。性能向上に見合うようブレンボブレーキも最新デザインとし、F80にも採用された予測ダイナミック制御システムのFIVEも導入されている。
アウトレーシングでアウトレージアス。それは、素人であってもまるで玄人のようにオーバー1000cvのモンスターを手なづけることができる、という意味でもあった。
