N-BOXの持つ広い室内空間と使い勝手のよさに加え、遊びゴコロを刺激する内外装デザインで幅広い層から支持を集め、瞬く間に大ヒットを記録したN-BOX JOY。2025年上半期販売台数ナンバー1のN-BOXの魅力を高めるカゲの役者に実際試乗して、その成功の裏側にあるユーザーニーズを捉えた巧みな戦略を探ってみた。
「え~っ! このチェック柄って、後付けのシートカバーとかじゃないわけ? 最初からこんなにチェック柄なんてすごい♪」と、初めて見た方は全員いうような気がします。とにもかくにもチェック柄が目をひくN-BOX JOY。ある種の振り切ってる感がいいです。
さて、日本の新車販売の約4割を軽自動車が占めているという状況は相変わらず続いていて、もう完全に地方だけでなく都市部でも市民権を得たばかりか、指名買いされるクルマとなりました。そうなると、メーカー側もさまざまなバリエーションを増やし、指名買いしてもらえるような車種をたくさんリリースするわけですよね。
そんな流れの中、いま人気があるのは軽自動車販売割合の6割を占めるというスライドドア車であり、中でも最大スペースをウリにするスーパーハイトワゴンの人気は、価格が高いにもかかわらず依然として目を見張るものがあります。
そしてそのスーパーハイトワゴンの中でも、近年台頭してきているのが、アウトドアテイストを盛り込んだタイプ。SUVとスーパーハイトワゴンのクロスオーバー車というと、わかりやすいかもしれません。最近はなんでもクロスオーバーだったり、ハイブリッドだったりしますからね(笑)。
当然のことながら、このカテゴリーは各社からリリースされておりまして、スズキ・スペーシアギア、ダイハツ・タントファンクロス、三菱デリカミニと、いずれも人気を博してまして、ホンダのN-BOX JOYは、現在のところの最後発としての登場となっています。いずれもギア感とか、たくましさとか、楽しさなどをアピールしている感じが伝わってきますが、N-BOXの場合はもはやそのまんまの“JOY(ジョイ)”。このクルマの楽しさ、このクルマを使った喜びをメインに押し出してきたわけです。
そして楽しさのいちばんのポイントは、ズバリ室内。もともとN-BOXは広い室内空間が最大の魅力となるクルマですから、その大きなスペースをいかに楽しく仕上げるかに注力したというのは、個性を際立たせる意味でも大正解ですよね。アームレストなんていう細かいところまでチェック柄で、さすがユーザーの心をわかっているという感じがしました。
面白いのはシートアレンジした時の快適性にこだわった点。最初から後席を前に倒した前提でのこだわりを盛り込んでいるんです。たとえばN-BOXは、シートを前に倒したときにラゲッジスペースとの間に大きめの段差ができてしまっていたのですが、座面を80㎜上げる工夫で極力段差を少なくし、さらに後席の背面にプレートを入れるアイデアで凸凹を削減。フロアのストラップ機構にもヒンジ式のリッドを設けることで凸凹をなくすなど、広くてフラットなフロアで快適にくつろぐことを想定して作られているんです。
もちろん生地は撥水加工済み。座面、背もたれ、後席背面、スライドボード上面に施されています。そもそもこのチェック柄も、汚れが目立ちにくいベージュに、補色関係にあるオレンジやブルーの色糸をミックスし、落ち着いた色合いに仕上げたということですから、すべて計算ずくのトータルコーディネートなんですよね。
止まっているときのユーティリティ性は完璧ですが、クルマですから走っているときはどうかといいますと、基本的にそのまんまN-BOXです。初代は「動かなければいいクルマ」なんて揶揄されたりもしましたが、代を追うごとに運動性能が進化を続け、いまでは「箱型なのにこれだけしっかりしたんだ~」ということが、乗っているだけで伝わってきます。
大きなスペースにたくさん荷物と人を詰め込んでロングドライブし、お出かけ先でゆったりくつろげるという、このクルマに求められそうなニーズを、しっかりと応えています。
だからこそ安全性が必要という配慮で、ホンダは早い時期から全車標準で安全装備を盛り込むという仕様にしていますし、内容的にも現在軽自動車界隈で盛り込まれていると思えるものは、すべて網羅されているので申し分ないでしょう。 唯一他車にはあるけど……という装備で気になるのは、空調系でしょうか。
最近のスーパーハイトワゴンは、前席後席の間の上部にシーリングサーキュレーターを備えているケースが多いのですが、N-BOXシリーズには設定がありません。重量物を上の方に付けずに運動性能を優先しながら何も出っ張りのない空間を取るか、快適性を取るか、ここは考え方の違いといいますか、ニーズの違いとしてユーザーの選択となるところでしょうか。
この装備ひとつ取ると細かい点ですが、ここにホンダのクルマに対する考え方が表れているように思えます。
しかし、こういう遊びゴコロに徹底してこだわる姿勢は、何よりホンダっぽくていいなぁ~と思うのは、決して私だけではないはず。それがN-BOX JOYのヒットの真相だと思います。
1)ベースとなるN-BOXの室内の広さを活かしながら、個性を際立たせた遊びゴコロのあるインテリアデザインがクルマの楽しさを演出
2)後席を倒したときに荷室として使うだけでなく、人がゆったり座ってくつろげるような工夫を徹底。きめ細やかな配慮がうれしい
3)撥水加工が施されたチェック柄のシートなど、実用性とオシャレ感を見事にバランス。ちょっとお出かけしたくなる仕掛けが満載!
たけおかけい/各種メディアやリアルイベントで、多方面からクルマとカーライフにアプローチ。その一方で官公庁や道路会社等の委員なども務める。レースやラリーにもドライバーとして長年参戦。日本自動車ジャーナリスト協会・副会長。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。