モデナのフェラーリ博物館に現在展示されている唯一のF1。1981年にジル・ビルヌーブ選手が駆った126CK。マラネッロ初のターボF1。120度V6ホットツインターボで、F80や296への歴史的繋がりを示唆する
マラネッロを訪れたことのある人はフェラーリ社の運営する公式ミュージアムが2施設あることをご存じだろう。ひとつは以前は“ガレリア”と呼んでいた“ムゼオ・フェラーリ・マラネッロ”。もうひとつつが今回紹介する“ムゼオ・エンツォ・フェラーリ・モデナ”、通称“カーサ”だ。名前を見てもわかるように、前者がマラネッロの本社ファクトリーに隣接するのに対し、後者はモデナ市内にある。
カーサとはイタリア語で家の意味。創始者エンツォ ・フェラーリの生家があった場所で、エンツォの父アルフレードが使っていた工場兼住居の建物もレストアされ博物館の一部として使用されている。カーサに行くたびに目を見張るのは、新たに建てられた近代的なパビリオンのほうだ。モデナ市の色でありフェラーリのカンパニーカラーでもある鮮やかなイエローに塗られ、1950年代イタリアンスポーツカーのボンネットを模した巨大なルーフで覆われている。
マラネッロのほうはF1を頂点とした跳ね馬の歴史を網羅しているのに対して、モデナでは時折、自動車文化全般を展示することもあって訴求範囲は少々広い。とはいえフェラーリ中心であることは間違いないので、ファン必訪の場所だ
私もマラネッロに訪れるたびに足を運ぶ。というのも広大なパビリオンの展示内容が毎年のように変わるから。今回は4月に訪ねたが、昨年の10月とは展示車両がすっかり変更されていた。ちなみに2025年5月現在のメインテーマは“スーパーカー”。昨年秋に発表されたF80にちなんだ特集である。マラネッロは288GTOに始まる一連の限定モデルを“スーパーカー”と呼ぶ。そのため由来となる歴史的モデルやレーシングカーとともに歴代“スーパーカー”、F40やF50、エンツォなどが展示されていた。
308GTB Gr.4は1978年に実戦デビュー。ラリーシーンで大活躍した。開発を主導したのはミケロットだったが、ラリーでの成功を受けてグループB参戦をマラネッロは決意し、GTOプロジェクトへと発展していく。跳ね馬スーパーカーの出自はやはりモータースポーツだった
マラネッロの博物館とは違ってF1色が薄い企画だったが、それでも1台のF1マシンが飾られひと際目立っていた。これは何も人気取りのために展示されたわけではない。きちんと意味があった。マシンは1981年の126CK。こう書けばティフォシなら展示された理由がわかるだろう。フェラーリF1初のターボカーであり、そのエンジン形式は120度V6ツインターボと現代のF80や296シリーズと“同じ”だからだ。
誌面の都合でもう一方の有名な博物館については割愛したが、フェラーリの歴史を知るにはまず2つのミュージアムを訪ねてほしい。2つのミュージアムを割安で訪問できる共通チケットでぜひ。
レースカーからロードカーへ、そして再びレースカーへ。そんな輪廻こそマラネッロの本質。エンツォ・フェラーリやラ・フェラーリをベースに開発されたレーシングカーはXXプログラムとしてVIP顧客に提供された。XX活動を通じて得たデータは新車開発へと活用されていく