
スズキ・マイティボーイは、クーペフォルムのセルボをベースにしたパーソナル・ピックアップとして1983年2月にデビュー。カタログでは“小粋で気軽なデイパック・カー”と表現し、4ナンバーの商用モデルながら“遊びのクルマ”の魅力を強調。ラインアップはベーシックなPS-A(45万円)と充実装備のPS-L(49万8000円)、PS-LをベースにしたAT仕様のPS-QLを設定していた
「スズキのマー坊」こと、スズキ・マイティボーイは、可愛らしくてカッコいいクルマだ。洒落たミニ・ピックアップが発売されないかなあ、と考えていたところだったから、うれしくなった。
マイティボーイのベースになっているのは、セルボである。ほぼ共通なのがセンターピラーまでで、後ろをスパッと切り落としてピックアップ化している。うまくバランスをとったプロポーションだし、とにかくボクの目には素敵なクルマに映る。荷台回りのデザイン処理は実に巧みなものだ。軽自動車の場合、クルマの性格や用途をハッキリさせ、スタイリングにしろ機能にしろ、目的に合わせてスッパリ割り切ってしまうほうがいい。アルトが成功したのは、そのいい例だ。アルトは経済性と合理性を真正面から追求してデビューした。「軽自動車のメリットは何か」に徹底して迫った点が、アルトの勝因になった。
マイティボーイにも、スズキのポリシーがハッキリと表れている。マイティボーイの特徴は「安くて」「カッコいい」「個性的なアクセサリーがたっぷりある」「荷物運び専用ではない」「遊び心いっぱい」という点である。「ほしい」か「ほしくない」かは、君の世界や生活にフィットするか、しないかで選択すればいい。
試乗車はPS-L型、価格は49万8000円だ。いちばん安いのはPS-Aで45万だが。LタイプにはAMラジオ、シガーライター、リアデッキカバーなどが付く。
それにしても50万円以下とは安い。250㏄クラスのオートバイだって、最近は50万では買えないものがどんどん出てきている。マイティボーイは、キャビンがあって、雨でも風でも快適に走れるし、リアにはたいていの遊び道具が載せられるデッキスペースもある。ちょっと投資してアクセサリーを装着するだけで、原宿なんかを流してもバッチリ目立つカッコよさもうれしい。
スタイリング同様、キャビンもいい雰囲気だ。ダッシュボード回りはアルトと共通である。シンプルで機能的、しかも安っぽくない。センターコンソールはなく、足元は広々としている。シートの後方には大人ひとりが横座りでゆうゆう乗れるほどのスペースがあり、キャビンのゆとりは十分だ。シートバックを適度にリクライニングさせてステアリングを握っていると、軽自動車に乗っているような気がしない。
シートはサイズが大きく、見かけもいいが、機能的には完全に落第だ。クッション部はすぐに底突きしてしまう。座り心地が悪く、疲れやすい。マイティボーイ最大の弱点だ。
エンジンはもちろんアルトと同じで、4段ギアボックスも共通である。車重はアルトより20㎏ほど軽く520㎏だ、走りはなかなか活発だった。実用上で困る非力さは、まったくない。一般の流れに乗って走るなら。エンジン回転に余裕を残してシフトアップしていける。
ハイウェイの80㎞/h走行でも、けっこうゆとりを感じる。メーターが100㎞/hを指すあたりまでなら、それほど苦し い感じはしない。静粛性もなかなか。ハイウェイの連続走行でも、騒音で疲れる感じはあまりなかった。小さいわりにマイティボーイは頑張っている。
低速性のよさは、まったく文句なしである。4速は25㎞/hから使えるし、30㎞/hになればもう十分に実用になる加速を見せる。小回りが利く小さなボディもあって、一般道路を走り回るのは本当に楽だ。それに燃費もいい。テスト燃費は22.35㎞/ℓをマークした。
ハンドリングは軽快なフィーリング。操舵力・保舵力とも軽く、ステアリングを切るとクイックにノーズが向きを変え、キビキビと走り回る。高速走行でのスタビリティは、軽自動車としてはいいレベルである。もしタイヤをラジアルに履き替えれば、マイティボーイのハンドリングは一段と軽快になり、グッと楽しくなるだろう。
マイティボーイは、シート以外の仕上がりはいいし、魅力的である。ヤングドライバーに大いに勧めたいクルマである。とくに若い女性には絶対に似合うだろう。キミのガールフレンドに最高だ……とボクは思うのだが、どうだろう。
※CD誌/1983年6月号掲載
【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員
