モビリティサービスの充実でマイカー販売が増加する可能性がある

販売が減少する国、新車販売のキッカケになる国

Uber Eats with Phoneのコピー.png▲ウーバーはライドシェアサービスの代表的企業 提携レストランの料理を運んでくれるウーバーイーツも普及している photo:Uber

 料金を支払って相乗りするライドシェアリング(ライドシェア)は、「オンデマンド型の交通サービス」といわれる。これと同じ形態でも、ライドヘイリングは送迎サービスの一種だ。そして、短時間のクルマ貸し出しサービスがカーシェアリング(カーシェア)である。

 これらはモビリティサービスと呼ばれ、クルマを個人が所有せず、その「価値」だけを「利用」する新しいクルマの使い方だといわれる。では、こうしたサービスが普及すると、自動車販売にどれくらい影響を及ぼすのだろうか。

 世界的な調査会社として知られるIHSマークイットによると、米国は「全販売台数の1〜2%」が、「中国は3%程度」が、こうしたモビリティサービス普及の影響を受けて「新車販売台数が減少する」と予測している。また、ある自動車メーカー系の調査会社は「日本はまだモビリティサービス自体が導入されていないため、今後3〜5年間は新車販売への影響がほとんどない」という。さらに欧州について、IHSマークイットは「現時点では販売への影響は限定的だが、将来は脱マイカー指向が出てくる可能性がある」とし、ある欧州の自動車メーカーでは「ドイツ、フランスといった主要市場ではせいぜい1%程度の影響が販売台数に表れるだろう」との見方だ。

 米国市場について、IHSマークイットは「ウーバーやリフトに代表される配車アプリによるサービスはすでに人気を得ており、他人が運転するクルマの空いた席に同乗、相乗りして目的地まで移動することで、各世帯の所有車の減少につながる可能性がある」と見ている。しかし、米国の自動車保有率は世界でも有数の高水準であることから、「モビリティサービスがいっそう普及しても、いま所有しているすべてのクルマを手放したり代替購入をやめたりするのではなく、所有する複数台数のうちの一部の所有形態の変更を検討する段階にとどまる」としている。その影響は全販売台数の1〜2%程度、という予測だ。

トヨタのカーシェア・ハワイ.jpg▲トヨタは米国ハワイでカーシェアサービス「Hui」を展開 ホノルル市内に25カ所のステーションを開設して車両を貸し出している photo:TOYOTA

 さらに、自動車メーカー各社は、モビリティサービスを対象にした車両を電動化した場合、CAFE(企業別平均燃費)で優遇するよう連邦政府に要望している。カーシェアやライドシェアについては自動車メーカーが車両提供で提携している例が多い。たとえばトヨタは業界最大手のウーバーと提携している。米国ではレンタカーのようなフリート(大量台数運営)を対象にした販売は、大幅値引きを行わなければならないため利益が出ないといわれている。これに対してライドシェアの場合は、ドライバーが乗客(利用者)に「このクルマは運転しやすいですよ」といった口コミの営業活動を行うことができる。

 モビリティサービスを対象にしたBEV(バッテリー電気自動車)やOHEV(プラグインハイブリッド車)を販売すれば、口コミ効果でそのメリットを利用者に伝えられる。またマイカーの運転が減れば燃料消費の削減にもつながるとして、自動車メーカーはCAFE優遇のロビー活動を行っている。将来的に自動運転ロボットタクシーが登場した場合は、二酸化炭素排出ゼロ1台分のクレジットに加え「最も燃費の悪いクルマ数台分の販売を帳消しにする」といった優遇策の実施を訴えている。

 中国については、「自動車保有率は依然として低いものの、一部の大都市などでは大気汚染と渋滞が問題となり、流入規制やナンバープレート交付規制が導入されている。しかし、移動に対するニーズは大きく、制度面でも受け入れ態勢は整っている」としたうえで、「中国ではクルマを運転すること自体に対する欲求・要望の度合いは必ずしも大きくなく、優先事項ではない。この点は、モビリティサービスに適した市場といえる」と、IHSマークイットはコメントしている。

 欧州でモビリティサービスの販売影響が小さいと予測されている理由は、国ごとに異なる「旅客事業」の規制にある。一般的にイギリス、フランス、ドイツなどの西欧諸国ではタクシーのような旅客運送事業に対する規制が厳しく、東欧や北欧では規制が緩い、あるいは規制がないという図式だ。「規制緩和がどう進むかという点がモビリティサービスの行方を左右する」といわれている。日本の事業環境も西欧と同じである。

 一方、モビリティサービスの普及が自動車販売に好影響を与える、と予想されている国もある。その筆頭がインドだ。最大の理由は「モビリティサービスの利用が2輪車から4輪車へのステップアップを促す」という点だ。

 インドの新車マーケットは、ようやく年間400万台の規模になったが、市場の伸びはゆっくりしている。中国に近い13億人の人口を擁し、自動車市場としては「将来的に非常に有望」と指摘されているが、現時点では需要を喚起させる起爆剤がない。クルマを利用した経験がないユーザーがいまだに多く、自動車購入の意欲が中国のように盛り上がっていないのが現状だ。

 そこで、まずはライドシェアでクルマで移動する楽しみを経験してもらう。そして、運転免許を取得したらカーシェアを体験できるような環境を作れば、人々の意識がクルマに向くのではないか、と期待されている。同時に、モビリティサービスを仕事にした人々は、自らが事業者になるという体験を得る。インド政府もモビリティ事業に支援を行う用意があるという。これによって年間30万台程度、インド市場の7〜8%に相当する販売台数が上乗せされる効果が生まれるのではないか、と見られている。

 モビリティサービスの普及と聞いて、個人消費が減少するのではないか、というだけではグローバルな思考とはいえない。国ごとに市場背景が異なり、モビリティサービスをきっかけに、個人がクルマを買うようになるケースも考えられるのである。

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