中国「節能車」が想定する日本車の省燃費技術と、普及プランの青写真

▲トヨタが中国で販売するRAV4ハイブリッド 風車を背景にクリーンなエネルギーの利用をアピール
▲トヨタが中国で販売するRAV4ハイブリッド 風車を背景にクリーンなエネルギーの利用をアピール

 中国でHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル、HV)開発が活発だ。独・ダイムラーと中国民営の吉利集団はHEVパワートレーンの共同開発と、中国でのバッテリー工場建設を行っている。SUVトップメーカーである長城汽車は檸檬(れもん)プラットフォームと名付けた独自開発のHEVパワートレーンを発表した。
 
 ほかにも国営系と民営系自動車メーカーの多くがHEV開発を進めているほか、サプライヤー(部品メーカー)もHEV用ユニット生産のための準備を進めている。2035年には年間の乗用車販売台数の半数をHEVにすることが中国政府の思惑だ。

▲2020年11月にメルセデス・ベンツは吉利汽車と「ハイブリッド車のパワートレーン技術で協業を進める」と発表した
▲2020年11月にメルセデス・ベンツは吉利汽車と「ハイブリッド車のパワートレーン技術で協業を進める」と発表した

 昨年10月、中国政府は「2035年をめどに新車販売のすべてを環境対応車にする方向で検討する」と発表した。中国汽車工程学会(日本の自動車技術会に当たる)が中国政府の指示で作成した「節能および新能源汽車技術路線図2.0」に示されたもので、技術路線図とは技術ロードマップである。結論は「2035年には新能源車(NEV=新エネルギー車)が50%、節能車(低燃費車)が50%であることが望ましい」というものだ。

 このロードマップ発表と前後して節能車の扱いが発表された。中国政府が定める燃費基準を満たしたモデルを節能車として優遇し、2021年は通常燃費車1台に対し節能車は0.5台、2022年は0.3台、2023年には0.2台に計算するというものだ。

▲長城汽車のハーバル・ビッグドッグ(大狗)はレモン・プラットフォームを利用したSUV
▲長城汽車のハーバル・ビッグドッグ(大狗)はレモン・プラットフォームを利用したSUV

 中国では
・BEV=バッテリー・エレクトリック・ビークル
・PHEV=プラグイン・ハイブリッド・エレクトリック・ビークル
・FCEV=フューエル・セル・エレクトリック・ビークル(燃料電池電気自動車)
 以上の3カテゴリーをNEVと呼び、自動車メーカーごとに一定数の販売を義務付け、販売台数に応じて優遇策を提供している。今後はNEVに加えて節能車も優遇されることになった。

 中国政府は、NEV以外のクルマを1台販売したときに自動車メーカーに「マイナス1クレジット」を課している。節納車を販売した場合は前述のようにクレジット面の優遇は段階的に小さくなるが、内燃機関だけのクルマを販売するよりはメリットがある。現時点で節能車に該当すると指摘されているモデルが、HEVだ。

▲トヨタC-HR(ハイブリッド)  トヨタのハイブリッド技術は中国の節能車規制で有利になりそう
▲トヨタC-HR(ハイブリッド) トヨタのハイブリッド技術は中国の節能車規制で有利になりそう

 中国政府は「節能車はHEVに限る」とはいってないが、年内に発表される節能車の燃費水準は「HEVでなければ達成が難しいだろう」と指摘されている。だから、中国の自動車メーカー各社がHEVの開発を進めている。

 節能車の燃費基準は25km/リッターという水準に落ち着くという見方が濃厚だ。中国政府は今年7月、燃費目標の「乗用車燃料消耗量限値」の計算方法を従来のNEDC(ニュー・ヨーロピアン・ドライビング・サイクル)からWLTC(ワールドハーモナイズド・ライトビークル・テスト・サイクル)に切り替えると発表した。目標数値は従来同様に2025年時点で4リッター/100km(25km/リッター)だが、欧州の旧試験方法のNEDCと、現在の国際基準WLTCを比較すると、WLTCは15%くらい厳しい。

 この4リッター/100kmは、各自動車メーカーが1年間に販売したモデルの全数の燃費を合計したときにクリアしなければならないメーカー別平均燃費、いわゆるCAFE(コーポレート・アベレージ・フューエル・エフィシェンシー)である。中国はCAFC(コーポレート・アベレージ・フューエル・コンサンプション)と呼んでいるが、CAFCも燃費規制であり、達成できなければNEV規制とは別にマイナスクレジットが課せられる。つまり二重規制だ。

▲トヨタ・イゾアEV   トヨタは中国市場に対してEVも積極的に投入している
▲トヨタ・イゾアEV トヨタは中国市場に対してEVも積極的に投入している

 現在、中国でHEVを積極的に販売しているのはトヨタだ。従来は燃費のいいHEVを売ってもNEVクレジットの割引はなかったが、今年は節能車割引の0.5が適用される。たとえば天津一汽トヨタは昨年、58万2351台を販売しCAFCクレジットではプラス6万9882、NEVクレジットではマイナス4万6183で、合計でプラスを保った。
 
 これでHEVが0.5台のカウントになると、燃費目標を達成したCAFCクレジットのプラス分だけでなく10万台以上のHEVを販売した実績により「最初に与えられるマイナスのCAFCクレジット」が減る。
 
 プラスになったクレジットは、規制未達成の他社に販売することができる。

▲日産は2021年9月にシルフィのe-Power仕様を公開した
▲日産は2021年9月にシルフィのe-Power仕様を公開した

 すでに現在までにも中国メーカーのHEV投入発表は何件もあった。欧州勢も中国での販売モデルに48VのマイルドHEVを投入する。フォルクスワーゲンは新型ゴルフのマイルドHEV仕様を中国で生産する予定で、冒頭に紹介したダイムラーやBMWも投入を計画している。日産は中国市場に対して、シリーズHEVのe-Powerを搭載したモデルを設定する。いずれ世界中のHEVが中国新車市場で覇を競う状況になる。

 中国政府の思惑どおりに進めば、2035年に年間新車販売台数が3500万台になったとき、HEVは約1750万台を占める。この台数は、欧州市場がそっくりHEVになったのに等しい数字だ。HEVを得意とする日本勢がどこまで実績を伸ばせるか、期待がかかる。

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