GMが豪州事業から撤退することで、あのクルマはどうなるの?

GMは2月、「オーストラリアのホールデン事業から撤退する」方針を明らかにした。ホールデンといえば、GM系列のメーカーとして1930年代から自動車ビジネスに携わってきた。オーストラリア国内での新車生産は2017年で終了し、以後はGM系のクルマを輸入販売してきた。GMはビジネス資源の投資先の選択を慎重に進めているが、ホールデンの撤退で気になる点がある。それは、右ハンドル仕様はどうなるのか、ということ。GMは新型シボレー・コルベットの日本販売に当たっては「右ハンドル車も設定する」と説明していた。右ハンドルのコルベットを運転するという話は、一炊の夢になるのだろうか。

気になる問題発生

ホールデンコモドア.jpg▲ホールデン・コモドア(タイ工場で生産) オーストラリアの左側通行に合わせた右ハンドル仕様を輸入している

 GMは2月17日、オーストラリアのホールデン事業から撤退する方針を明らかにした。オーストラリア国内で展開していた自動車ローンサービスなどの金融部門、メルボルン近郊のデザインセンター、エンジニアリングセンターなどすべてを今年中に閉鎖。新車販売からも撤退する。

 1856年に馬具関連の製品を扱うメーカーとしてスタートしたホールデンは、1931年にGMグループ入りした。左側通行の国情に合わせて右ハンドル車を販売し、一定の人気を得てきた。ところが、2017年10月にオーストラリア国内で最後まで自動車生産を続けていたホールデンの工場を閉鎖。以後は輸入車を市場に供給してきた。

 今後、オーストラリアに残されるGMの事業はサービスセンターなど、残存するクルマへのメンテナンスなどを提供する場所に限られる。GMはホールデンブランドの廃止決定を伝える声明の中で「グローバル・マーケットへのシフトを加速する」としている。

シボレー・エキノックス .jpg▲米国内ではシボレー・ブランドで販売 エキノックス(米国仕様の2018年モデル)

 GMのM・バーラCEOはインタビューなどに答え「インターナショナルオペレーションのリストラクチャリングを以前から進めてきた。その中で、リターンが得られる市場に注力すべきだという答えに達した。われわれは将来のリターンが見込める、さらにモビリティの未来を推進する市場、とくにEVや自動運転などへの投資を推進する」と語った。要するにGMは、採算性を重視して、成長が望める分野や投資が必要なフィールドを厳しく選択していく、という決意表明である。

 2019年のオーストラリアにおける新車販売台数は106万2867台(商用車を含む)。ブランド別で見ると、トップはトヨタの20万5766台(シェア19.4%)。2位がマツダで9万7619台(同9.2%)。ホールデンは4万3176台(同4.1%)。2019年のオーストラリア市場は全体で前年比7.8%減と厳しい状況だったが、それでもトヨタは5.2%減で抑えた。ところがホールデンは28.9%減と大幅に減少。トップ10ブランドの中で最大の下げ幅だった。

アーケイディア .jpg▲アーケイディア 米国内ではGMCブランドで販売(写真は米国仕様)

 現在の米国市場は乗用車、とくにセダンが売れない時代、といわれる。それはオーストラリアも同様だ。2019年の販売状況を見ると、乗用車は31万5875台(シェア29.7%、前年比16.5%減)、SUVは48万3388台(同45.5%、2.4%減)。GMはシボレー・エキノックス、GMCアーケイディアなどのSUVをホールデン・ブランドで販売していたが、ホールデン全体の売り上げを伸ばすところまではいっていなかった。

 GMは欧州で展開していたオペルをPSAグループに売却(2017年)している。グローバル市場の中でさまざまなブランドで地域に即したクルマを販売するよりも、EVなどに集約させてGM傘下のブランドで統一したグローバル市場を目指す方針を選んだ、ともいえる。

 オーストラリア発の唯一の自動車メーカーだけに、廃止を惜しむ声もあるが、GMとしては比較的小さなマーケットに適応させた右ハンドル車を製造するよりも、EVや自動運転など、世界的に苛烈を極める開発競争に予算をかけたい、という決断だろう。

 米国内でもオールズモビル、ポンティアックなど、惜しまれながらも整理されたブランドはある。一方で、ハマーのように一度は生産が終了したものの、スペシャルティEVとして復活(2021年秋にEVピックアップトラックとして発売予定)した例もある。そうした経緯を考えると、オーストラリアやニュージーランド地域を対象にしたEVブランドとして復活する可能性があるのかもしれない。

2020年コルベット・スティングレイ.jpg▲新型シボレー・コルベット(2020年モデル) GMは発表当初「日本では右ハンドル仕様も設定する予定」とコメントしていた 右ハンドルのコルベットの開発はどうなるのか気になる

 なお、GMが撤退方針を固めた市場はオーストラリアだけではない。ニュージーランド、そしてタイでのシボレー生産も中止する。これらはすべて右ハンドル車市場──という実態を考えると、GMは右ハンドル車市場から完全に撤退する意向なのだろうか。ミッドシップの新型コルベットは「日本で右ハンドルも販売する」と発表していたし、オーストラリアでも「新型コルベットは右ハンドルを設定する」とうたっていた。新型コルベットの右ハンドル問題が心配だ。

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