
ボルボEX30ウルトラ・ツインモーター・パフォーマンス/価格:629万円。コンパクトBEVのEX30はエントリーモデルのプラス・シングルモーター(479万円)、SUVテイストのクロスカントリー(649万円)など全5グレード構成に成長。ウルトラ・ツインモーター・パフォーマンスは156psと272psのモーターを前後に搭載した4WD。ボルボ史上最速の0→100km/h加速3.6秒を誇る
ボルボのコンパクトBEV、EX30がグッと彩り豊かになった。SUVテイストのクロスカントリー(649万円)を新設定するとともに、標準モデルのバリエーションを、リン酸鉄バッテリーを搭載したエントリーモデルのプラス・シングルモーター(479万円)から、2モーターAWDモデル、ウルトラ・ツインモーター・パフォーマンス(629万円)までの全4グレードに拡大したのだ。
EX30は、完成度の高いBEVとしてすでに高い評価を確立している。従来はモノグレードで、どちらかというとシティカーのイメージが強かった。だがバリエーションの充実で、スポーツドライビングを好むアクティブなドライバーにも最適な選択肢に変化している。
というのも、最上級グレードのウルトラ・ツインモーター・パフォーマンス(以下、ツインモーター)は、0→100km/h加速をわずか3.6秒でクリアする俊足の持ち主だからだ。この数値は、かつてのRモデルや、ポールスターなど、数々のスポーツボルボを凌ぐ。ポルシェやイタリアンスーパーカーが横に並んでも、十分に戦闘力を発揮するパフォーマンスの持ち主、史上最速のボルボといっていい。
システムはフロント156ps、リア272psの2モーターAWD。総電力量69kWhのバッテリーを搭載し、一充電走行距離は535kmをマークする。ちなみに内外装は、20インチサイズの大径タイヤが存在感を発揮する以外は、他のEX30と共通。スポーティな「走りの演出」は施されていない。その意味では、ハイパフォーマンスを周囲にアピールしない究極の「羊の皮を被った狼」といっていいかもしれない。
今回、EX30ツインモーターを湘南のシーサイドと箱根のワインディング路で試乗。その狼ぶりを探った。
対面したEX30は、路面を鷲掴みにする大径タイヤとワイドトレッドが印象的なものの、ハイパフォーマンスモデル特有の威圧感は皆無。ボルボらしくモダンながら、控えめな印象を伝える。古風なクルマ親父にとっては、やや拍子抜けだ。
シンプルな室内も同様である。明るくクリーンな造形がインテリジェントな雰囲気だが、スポーツドライビングを楽しむ空間、という尺度で見るとプレーンすぎる。シートのサポート性もそこそこ。正直、本当に0→100km/h加速を3.6秒でクリアするスーパーBEVなのだろうか? というのが実感だ。
そもそもEX30は、ドライバーズシートに座ると自動的にシステムが起動。スターターボタンは存在せず、ステアリングコラムに配された走行セレクターを操作し、右足に力を込めると走り出す。つまり自身の操作でクルマを目覚めさせ、さぁ、走ろうと気分を高める所作が存在しない。ボルボはBEVのEX30で、新たなクルマとの関係性を模索しているに違いない。
ドライバー正面に一切の計器は存在せず、センターディスプレイの上部に控えめながら速度を表示したり、物理スイッチのほとんどを廃止し、スマホ感覚の操作系を構築したのも、そう考えると理解できる。誰もがイージーに、使い慣れると便利に使えるツールを目指しているように感じた。
海岸沿いのバイパスの流入で、アクセルを深く踏み込む。ツインモーターは、猛烈な勢いでダッシュした。しかも無音でだ。その速さはやはり圧巻。周囲のクルマを一瞬で置き去りにする。しかも駆動力は緻密に制御され、危なげなところは皆無。ちょっぴり荒れた路面でもじゃじゃ馬にはならない。
足回りの設定も的確だった。継ぎ目段差でも、ショックをうまくいなしスピードが上昇するほどフラットな乗り心地を提供する。これは立派なドライバーズカーだと気分をよくし、ワインディングを目指した。
急な勾配が続く山岳路でも速さはまったく衰えなかった。アクセルを踏めば踏むだけ湧き出すパワーと適度に引き締まった足回り、そしてコンパクトなボディのコンビがアクティブなひと時を演出する。これでステアリングの操舵力が、もう少し重ければいうことはない。
ちなみに登りでは電池容量が瞬く間に減るが、回生が利く下りでは逆に残量が明確に増える。BEVの面白さのひとつである。一般的なエンジン車との違いは音だ。BEVのEX30には明確なメカニカルサウンドは存在しない。速さを知る手立ては、縦そして横Gと、速度計のデジタル表示のみ。旧来のクルマ好きとしては、バーチャルなイメージが強い。新たなクルマとの対話といえる。
EX30ツインモーターは確かに速い。それは誰かに自慢したくなるレベルに達している。だが狼かというと、そうではない。速さは主役ではなく、さまざまな個性のひとつという印象だ。BEVとして完成度を高めていくと、結果的に速さも極まるということだろう。ツインモーターは、シティユースや高速クルーズはもちろん、ワインディングランもハイレベルでこなすクールなオールラウンダーである。だが自己主張はしない。クルマのパフォーマンスの可能性は電動化によって、さらに豊かになった。ボルボは確実に前進している。
