本格ヨンクほどのヘビーデューティ性能は使いこなせないし必要ないが、“なんちゃってヨンク”は性に合わない。高い日常性能を持ちながら、雪道やフィールドで頼りになるクロスオーバーSUVに乗りたい、と考えるユーザーは多いに違いない。新たに登場したボルボEX30クロスカントリーは、環境性能とSUVらしいオールラウンド性能を高めた待望のBEV。行動派の新たな選択肢だ。
EX30クロスカントリーは、ボルボの故郷、スウェーデンならでは豊かな自然が育んだ電動車である。評価の高いEX30をベースに仕立てられ、モーターを前後ツイン化することで4WDを実現。さらに専用サスペンションなど各部を強化している。オフロードでの走破性を図る尺度となる最低地上高は195㎜と十分なレベル。エクステリアはマットグラファイト仕上げの19㌅アルミや、ダークカラーで統一した前後パネル、ブラックルーフが精悍な印象を強調する。ディーラーopで、18㌅のオールテレインタイヤと専用アルミ、ルーフバスケットなどをセットした“アウトドア仕様”が選べるのも魅力的だ。
ちなみにフロントのブラックパネルには、北極圏に位置するスウェーデン最高峰のケブネカイセ山脈の地形図からインスピレーションを得たアートワークが施されている。最近のボルボは、デザインで選ぶブランドになっているが、EX30クロスカントリーは、その代表といえる。最新のボルボらしい優れたデザイン性と、適度な遊びゴコロの融合が楽しい。
対面したEX30クロスカントリーは、心地いい存在感の持ち主だった。BEVというと都会派のイメージが強いが、大自然のふところに飛び込んでも違和感を感じさせない“虚飾を廃した道具”という雰囲気である。ボルボは、1990年代半ばにワゴンボディのV70にクロスカントリーを設定して以来、アウトドアで光るクルマ作りには、豊富な経験を持っている。筆者も往年のV70クロスカントリーを“河原に下りられるワゴン”として愛用しているが、その系譜に連なるクルマだと第一印象で感じた。
室内はボルボらしく居心地がいい。内装はスカンジナビアの常緑松林をイメージした“パイン”仕様。明るさと落ち着きを巧みにバランスさせた色調でまとめている。前席は大型形状。初期型EX30と比較してクッション長が拡大され、一段と座り心地が向上していた。
各種の機能と表示系をセンターディスプレイに集約したインパネはシンプルでクリーン。BEVらしい新しさを感じる。操作系は使いやすく、回生ブレーキの強さと、走行モードがワンタッチで切り替えられるように改良されたのは朗報である。
モーター出力はフロント156㎰/200Nm、リア272㎰/343Nmの組み合わせ。ボディサイズが4235×1850×1565㎜のコンパクトクラスとしては、抜群にパワフルだ。一充電当たりの走行距離は、WLTCモードで500㎞。これだけ走れば、週末にフィールドに繰り出すのにもぴったりだろう。
走りは、しなやかで優しい印象と、BEVらしいシャープな味わいが絶妙にブレンドされていた。まず乗り心地のよさが印象的。標準仕様のEX30は、やや硬質な乗り味で、路面の状況をストレートにパッセンジャーに伝えてきた。だがクロスカントリーは違う。専用設定の足回りと厚みを増したタイヤの相乗効果だろう。サスペンションがスムーズに動き、巧みに路面の不整を吸収してくれる。快適で大人っぽい乗り味の持ち主である。しかも速度が上昇するほどフラットな印象が高まり、快適性は一段と向上する。街乗りはもちろん、高速クルーズでも疲れしらずのドライブが楽しめた。
驚いたのは圧倒的な加速フィールである。EX30クロスカントリーの0→100㎞/h加速データはわずか3.7秒。リアルスポーツも顔負けの俊足の持ち主である。そのダッシュ力はまさに驚異的に鋭い。右足に力を込めると瞬時で周囲の流れから抜け出せる。正直いって、通常ユースでこの速さは不要。だが、知り合いをパッセンジャーシートに乗せたとき、速さを披露したくなるエンターテインメント性を持っていることは確かだ。
ともあれパフォーマンスの余裕はリラックスしたドライビングを約束する。BEVならでは抜群の静粛性を味わいながらのクルージングは最高の瞬間だ。これだけ洗練されていながら、タフな使用シーンでも頼りになるのがEX30クロスカントリーの魅力だろう。一般的にBEVは各輪の駆動力制御を適切に行っているため、雪道などでの走破性は高水準。中でもボルボは、厳しい自然環境で鍛えられている。その走破性は期待できるに違いない。
スタイリッシュな造形と、パワフルなモーター、そして快適性が融合したEX30クロスカントリーの商品性はすこぶる高い。定評の安全性能も、もちろん最高水準。BEVだから、豊かな自然環境に踏み込む場合でも、排出ガスの心配が不要なのもプラスポイントである。新たなクルマ選びに最適の選択肢といえる。
