タイプ2のルーツはVW工場内で活躍していた超シンプルな荷物運搬車といわれる。1950年2月には市販版トランスポーターが登場。派生モデルとしてバスやピックアップトラックなど多彩なモデルが生まれた。米国を中心に海外でも愛され、1960年代には自由と平和を求める“フラワームーブメント”の象徴になった
ご存じのようにID.Buzzのデザインコンセプトは、日本でも大人気のVWタイプ2から来ている。空冷ワーゲン時代の産物で、1960年代アメリカ西海岸で大ブレイクしたクルマだ。当時若者を中心にトレンドとなったフラワームーブメントなどサブカル的なアイコンに使われていた。サイケデリックな色使いで反戦が叫ばりたり、サーファーに人気があったことからサーフカルチャーのシンボルにもなっていた。ロングボードを積み込んでハンティントンビーチやサンタモニカ、マリブの海岸を走る姿はサーフィン映画の中でもシンボリックに描かれている。
日本での愛称は「VWバス」や「デリバン」といったところだろう。1990年代後半から2000年初頭あたりにリバイバル的に人気を集めたことがある。個人的にもたくさん取材に行った時期だ。神奈川や千葉に空冷ワーゲン専門ショップがいくつかあって、そこにファンが集まっていたのを記憶している。しかもタイプ2にはタイプ2専門店があったのだから、いま考えるとすごい。VWはタイプ1/2/3でそれぞれショップが細分化されていた。
そんなタイプ2の誕生は1950年。そもそもはタイプ1(いわゆるビートル)を生産する工場の敷地内でパーツを運んでいる車両が原点。といってもそこにボディパネルはなく、フレームの上にフラットなベッドが置かれ、後方に操作台が載せられていただけ。まぁ、作業車両なのだからそれで不思議はない。
が、それがひとつのアイデアからバンへと進化する。フレームの上にキャビンとシート、そしてボディを取り付けたのがそれだ。フレーム、シャシー、エンジンはビートル用がそのまま使われた。空冷エンジンは排気量もビートルのものを流用する。なので、リアエンジンというユニークなパッケージングになった。
今回ID.Buzzのデザインコンセプトになったのはまさにその初代モデル。いわゆる「金太郎マスク」に「サファリウィンドウ」時代となる。とはいえ、フロントウィンドウを2分割し、さらに開閉ができるサファリウィンドウは装着不可能なので、金太郎マスクを再現したようなツートンのカラーリングが採用された。このデザインはオンリーワンのため、ID.Buzzがタイプ2の系譜であることが一発でわかる。このカラーリングがないと、その子孫に当たるトランスポーターのほうが似ている。
ちなみに、初代タイプ2にもいろんなバージョンがあってヒエラルキーが形成される。窓の数が多ければ多いほど希少性が上がり価値が高まるのだ。たとえば23ウィンドウ。これは前後とサイドウィンドウ、その上のルーフ両サイドに設けられた窓の総数を意味するのだが、その取引価格は頂点知らずとされる。原点を振り返ると恐ろしくなる。
それはともかく、あの世界観が戻ってきたのだからウェルカム。あとはID.Buzzがどんなカルチャーを生み出すのかだ。マーケットの動向が大いに気になる。