軍用車が持つ実用性を機能美を描く/寺田敬さんの好きな作品・代表作

軍用車が持つ実用性を機能美を描く/寺田敬さんの好きな作品・代表作

クルマや飛行機など乗り物系のイラストレーションを手がける寺田敬さん。往年の軍用車などをテーマにした作品は、歴史的資料としても、芸術性という点でも高い評価を受けています。寺田さんが語る軍用車の魅力は、古典的な機能美、実用性と機能性を組み合わせた形状、そして、1960年代に流行した“ミニマル・デザインの魅力”にも通じるといいます。今回は、現代のSUVにも受け継がれる要素を備えた軍用車2作品をご紹介いただきます。

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 作品1は、ドイツ軍のキューベルワーゲン「不整地走行型軽乗用自動車フォルクスワーゲン82式」、つまり「VW Typ 82」です。「キューベル」とはドイツ語で「バケツ」という意味で、直訳すると「バケツ自動車」になります。この呼び名は、もともと座席にバケットシートを採用していたことから「バケットシート自動車」と呼ばれていたものが省略され、またスチール製でプレス加工の武骨な外観がバケツにたとえられて定着したとされています。

作品1)キューベルワーゲンVWTyp82

 キューベルワーゲンは、もともとポルシェが設計していたフォルクスワーゲンタイプ1の軍用車バージョンで、空冷フラット4で排気量985㏄。2輪駆動で、出力は23.5馬力。床の高さとリアエンジンならではの駆動輪荷重の大きさから、不整地走破性は良好でした。4ドア4人乗りのオープンボディでフロントガラスは前方に折りたたみ可能。ジープなど当時のクルマに装備されていたハシゴ型フレームは設置されておらず、内装パネルや装備は極力省かれていました。計器類は、速度計と方向指示器のみだったとか。特徴としては、「軽量」「シンプル」「低コスト」が徹底していた軍用車という印象です。

 のちに、四輪駆動の水陸両用型(シュビムワーゲン)も開発され、デザイン的にもユニークで、今日でも面白いクルマだと思います。

 作品2は、ボクと同世代の人たちに大人気だった1960年代のテレビ番組『コンバット!』『ラット・パトロール』で主演キャラクターのように走り回っていた「ウィリス・ジープMB」です。クロスカントリービークルのパイオニアとして自動車史に残る傑作車です。ボクもリアルタイムでドラマを見ていて、翌日の中学校の教室では男子が大盛り上がりで話題にしていました。

作品2)U.S.JeepWillys M.B

 ウィリスMBは、第2次世界大戦中にドイツ軍のキューベルワーゲンに対抗したアメリカ陸軍が発注して開発された1台で、初代Jeep®モデルです。その後、現代にいたるまでさまざまなバリエーションを広げると同時に、世界中の4×4モデルに影響を及ぼしました。

 1951年、ニューヨーク近代美術館(MoMA)では、自動車デザインの美学についての特別展『Eight Automobiles』が開催されました。卓越した芸術性と、最高水準の機械性能を持つ自動車8台の中にジープが選ばれ、「きわめて稀な機械芸術表現のひとつ」との評価を受けて展示されました。

 ちなみに、MoMAの当時の図録を見ると、この他に選ばれたクルマは、1930年型メルセデス・ベンツSS、1939年型ベントレー(Coachwork by James Young)、1939年型タルボ、1949年型チシタリア、1937年型コード、1941年型リンカーン・コンチネンタル、1948年型MG-TCという個性的なラインアップでした。どのクルマも個性が際立っていますが、こうしたラインアップの中にあっても、1951年型Jeepは異色のセレクトだったと思います。図録のジープの写真には「移動のための美しいツール」というキャプションが添えられていました。

 キューベルワーゲンとウィリス・ジープMB、この2台に共通する「悪路走破性」「乗員の居住性」「多彩なシートアレンジ」という言葉を並べると、まるで現代の最新SUVのカタログのようです。快適装備はほとんどないものの硬派のアウトドアなどには現代でも通用するクルマかもしれません。

 そしてデザインについていえば、この2台ともすべてそれぞれの機能のための形で全体像を創り上げています。必要性を重視したデザインがボクは大好きです。  作品の制作は約20年前で、画風が古臭いと思われるかもしれませんが、実は、制作当時から油彩画風をイメージしていました。大戦当時の軍用車の“質実剛健”を表現するには油彩画風がふさわしいと思っています。  デジタルペインティングで作品制作を行うとき、最近では油彩画風にペイントできるアプリがいくつかありますが、機能が優れている分、そのアプリ特有のスタイルが気になっていました。

 今回の2作品については、時間と手間はかかりましたが、Photoshopの基本的な機能だけで表現してかえってよかったなと思います。

 軍用車を描くときのボクの制作スタイルは、ミニマル・デザインの軍用車のように、基本的な装備だけでさまざまな機動力を発揮したいと思いながら作品に取り組んでいるのかもしれないですね。そんなことも、あらためて感じました。

インタビュアー/山内トモコ

てらだたかし/1950年、横浜市出身。リアル系イラストからポップな作品まで多彩に手がける。最近はおもに飛行機、クルマなど乗り物系のボックスアートを描いている。AAF オートモビル・アート連盟会員。横浜市在住

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