1994年式マセラティ222SR。222SRはデ・トマソが統治していた時期(1976年〜93年)の主力車ビトルボの最終型。コンパクトボディに2.8ℓ・V6ツインターボ(225ps)を搭載したGTスポーツ
2025年に創業111周年を迎えたマセラティは、5つの時代に分けられる。①創業者のマセラティ兄弟がコントロールしていた時代(1914〜37年)、②実業家オルシ氏が支配した時代(37〜65年)、③フランスのシトロエン傘下にあった時代(65〜76年)、④スポーツカーメーカーのデ・トマソが統治した時代(76〜93年)、⑤フィアット・グループ(ステランティス)の一員となった現在(93年〜)だ。
このうち④デ・トマソ時代の主力車種が、今回紹介する222SRを含むビトルボ・シリーズである。1981年に発売されたビトルボ(イタリア語でツインターボを意味する)は、その名称どおりV6ツインターボユニットと、トランスアクスル方式のFRレイアウトを組み合わせたスポーツモデル。世界中で人気を集めたヒット作である。ボディは2ドアクーペを基本に、ホイールベースを伸ばした4ドアセダン、ホイールベースを縮めたスパイダーの3タイプがあった。
1990年に発売された222シリーズはビトルボの車名を“222”に変更したクーペを指す。当初の222Eから、バンパーやサイドシル形状をリファインした222SE、グリルとヘッドランプを一新しボンネットスポイラーを追加した取材車の222SRへと進化していき、2.8リッターV6ツインターボをOHC8VからDOHC24V化した222・4Vも少数販売された。
222SRのボディサイズは4185×1715×1305mm。最新のVWゴルフより小さい。天然素材をふんだんに使った内装は華麗そのもので、パワースペックは225ps/37.0kgmと、当時の4リッター自然吸気に迫る最大トルクを誇る。加速は豪快。イタリアンGTならではの魅力を小柄なボディに凝縮した1台である。
取材車は、222SRの最終1994年モデル。ディーラー輸入車で複数のオーナー歴がある。各部はオリジナル状態をキープしており、走行距離は約4万2000㎞と、年式のわりに少ない。ボディは左側フロントホイールアーチと、トランクリッド右側上部に小さなキズがあるもののコンディションは悪くない。ただし塗装はルーフ部のクリア層に劣化が見られた。将来的に、本格的な補修が必要になるだろう。また、取材車のエンジンタイミングベルトは、そろそろ交換時期。修理費用は、同時にウオーターポンプやファンベルトを交換して20万円ほどだという。
室内の状態はいい。本革とアルカンターラ、そしてウッドで構成されたインテリアは、マセラティ独特のエレガントな雰囲気。劣化しやすいインパネ上部やシートに配したアルカンターラのコンディションは上々。スイッチなど樹脂製パーツにべたつきはなかった。オートACも正常に作動する。ただし電動テレスコピック機構は不調だった。シートの座り心地は良好で、ソフトな着座感としっかりとしたホールド性が心地よかった。
エンジンは快調である。2.8ℓのV6ツインターボは軽やかに回転を上げ、1330㎏のボディを強力に加速させる。独特のビートを奏でるエンジンと、重低音の排気ノートがミックスしたサウンドは、マセラティの世界そのもの。乗るものを魅了する。
ハンドリングは、ギアボックスを後方に配置するトランスアクスル方式の利点で素直な印象。ボディは小柄だし、4速AT仕様だから、ドライブはリラックスして楽しめる。222SRは、優雅なイタリアンGTの世界が味わえる、意外に身近な存在である。