1981年いすゞ・ジェミニZZ。いすゞは、かつては乗用車の名門。初代ジェミニは、米国GM傘下だった1974年11月に誕生。ドイツのオペル・カデットをマザーカーに、世界のGM系メーカーが独自モデルを生産する「Tカー・プロジェクト「の一員だった。1.8リッターDOHCを積むZZシリーズは1979年11月にデビュー。ZZはスポーティな走りで独自のポジションを獲得した
ジェミニの人気は根強い。デビューしてからもう長い時間が経過しているが、新鮮さを失っていない。トップモデルとなる1.8リッターDOHCユニットを搭載したZZは、まさにパワフルでダイナミック。硬派なスポーツユーザーを魅了する高い性能を誇っている。
ZZシリーズにはRとTグレードがある。違いは足回りのセッティングだ。Tはツーリング志向、対してRはホットな走りにマトを絞っている。純スポーツ設定で、タイヤはハイグリップタイプが標準だ。
試乗車はRモデル。かなり荒々しいが、走りの喜びを存分に味わえた。最大のチャームポイントは、G180型DOHCエンジンである。1.8リッターのキャパシティから130ps/16.5kgmのパワーを発生する。ピックアップは全回転域で良好、まさにゴキゲンな走りっぷりである。
G180型エンジンはためらいなくタコメーターの針をハネ上げる。イエローゾーンの6500rpmを超え7000rpmのレッドゾーンまで、スムーズさをいささかも失わない。たいしたものだ。
最高に活気があるのは4000〜6500rpm。この領域をキープすれば、スポーツ派ユーザーを完璧に満足させる。G180型は爽快で強力なパンチの持ち主だ。ラリーでZZの勝利が多いのは、G180型エンジンの優秀さを物語っている。
それでいて低速性もいい。4速ギアで40km/h、5速ギアで50km/hは完全に守備範囲。性能は文句のつけようがない。
最新モデルの5速ギアボックスは、従来オプションだったGTレシオと呼ぶクロースレシオ仕様が標準装備になった。G180型のパワーをフルに引き出せるから、一段と元気に走る。
6500rpmのイエローゾーンまで引っ張ると、GTレシオは1速で約55km/h、2速では約90km/h強まで伸びる。このギア比は、日本の一般的な山岳ワインディングロードに最適。だから走りやすいし、結果的にハイアベレージになる。本格スポーツ派にとって、GTレシオの標準化は大いなるプレゼントだ。
エンジン音は全体に高めのレベル。5000rpmを超えると、かなりの音量だ。音質も少しガサつき、「金属的な」「乾いた音」と表現されるような快音とはいかない。最新モデルの騒音処理は、以前よりマシだが、キャビンには騒音が侵入してくる。それでも、レスポンスのよさとパワフルさに魅せられ、少々のうるささなど、忘れてしまう。
足回りをみよう。ガッチリと固められたサスペンションと、高性能タイヤの組み合わせは、コーナリング性能を大きく向上させている。強力なG180型エンジンのパワーを支える足だ。
ステアリングは可変ギアレシオを持つラック&ピニオン式。最新型は、マウント剛性を高め、応答性を上げた。クルマの動きはさらにシャープになった。しかし、コーナリング時の操舵力/保舵力は重め。ハイアベレージランには腕力がある程度、必要だ。
ステアリング特性は、フルパワーを使ってコーナーを攻めると、かなり強くアンダーステアが出てくる。もちろん、テクニックのあるドライバーであれば、ステアリングとアクセルを使ってリアを流し、アンダーを殺して走ることができる。リミテッドスリップデフ付きではあるが、テールの流れはスムーズで、とくにコントロールに苦労することはない。ZZ/Rのハンドリングとロードホールディングは、クセを理解して運転すれば、なかなかの戦闘力を発揮する。ちょっぴり古典的なスポーツカーのフィーリングを思い出させる。
乗り心地は、さすがに固い。路面の凹凸をかなり忠実に伝えてくる。リアからの反応はとくに強めだ。ラリー車的な感触に近い。しかし、ガツンとかドスンとかくる不快さはない。洗練された、とは言い難いが、ホットなスポーツ車として納得できる。
ZZ/Rはスパルタンなクルマだ。それが個性になって、スポーツ車としての面白みは一級品である。少々荒っぽく、洗練度には欠けるものの、とにかく走りにパンチがあって、ダイナミックなスポーツ走行を堪能させてくれる。
※CD誌/1982年2月号掲載
【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員