※本記事は雑誌『CAR and DRIVER』(2025年3月号)の巻頭コラム「from Editors - カー・アンド・ドライバー編集部の視点」より抜粋したものです
クルマにはたくさんの魅力がある。自動車メーカーはもとより自動車関連企業の各社が、もっとクルマの楽しさを伝えたい、と口を揃えてありとあらゆる施策に動いている。年初の恒例イベント、自動車5団体賀詞交歓会に足を運べば、自動車関連企業の重鎮たちや、現役大臣をはじめとした有名政治家が集い、嬉々として新年を祝っている姿を見ると、この業界の益々の発展に期待せずにはいられない。
また、クルマ好きの祭典ともいえる東京オートサロンの会場を見渡してみれば、すべての来場者それぞれの眼差しには光り輝くものがあり、その熱気たるや不景気などという言葉を微塵も感じさせないパワーに満ちていた。
2025年3月号(1月24日発売)の巻頭企画のテーマはズバリ、「クルマの魅力」だ。この中で、弊誌の執筆陣を編集部に招き、対談形式でディスカッションを行った。それぞれのバックグラウンドなどの違いはあるが、基本的にベクトルが同じ人達が集まっているので、話が盛り上がることは必至。皆、根っからのクルマが好きだなとあらためて実感。スーパーカーのこれから、今後出てくるかもしれない魅力的なモデルの紹介、そしてITSやスマートモビリティも含めた、幅広い「クルマの魅力」を特集したので、フレッシュな気持ちで読んでいただきたい。
そして、2025年。日本の自動車業界は大きな転換期を迎えようとしている。昨年末に発表されたホンダと日産、そして三菱も含めた経営統合に関するニュースが業界を震撼させた。それぞれのブランドが残ることは自明ながらも、かつての様相からみれば想像だにしなかった世界である。
しかし、個人的にはそんなに違和感はない。すでに電動化に関する協業検討は発表されていたのもそうだが、世界的にみてこれだけの自動車メーカーがひしめくここ日本の状況がむしろ異様だった。もちろん、集約することがよし、といいたいわけはないのだが、これからますます厳しくなる自動車市場の競争環境において、必然ともいえる出来事でもあろう、と。
ブランドがある、ということは、そこには思想と共にファンがいることを示している。同じ種類の工業製品を作っているとはいえ、そのブランド同士が融合されるということはあり得ない。しかし、ブランドは維持しつつも、工業製品を作るための体制で協力・協調体制を構築することは、極めて合理的だといえる。が、それが実際に結実し、さらに成功するかどうかはまた別問題だ。
過去にも自動車メーカーの業務資本提携は数多あれど、果たしてどれだけのわかりやすい成功事例を挙げられるであろうか。ただ、いずれも時代・背景も異なれば、現時点から今後の状況も変化し続けるという中で、希望を持たずして発展なし、とも思うところではある。
ホンダは「夢」のために「技術」を磨き続け、日産は「技術」の先にある「未来」を描いてきた。これまでは、どちらも魅力的なクルマを創り出すには正しいアプローチであったと思う。ただ、時代は変わった。
両社の「技術」が融合することは、その文化の違いからいってもまずあり得ないと思う。ただ、同じ「夢」や「未来」を見ることはできると思う。そのために、手段としての「技術」が磨かれ、そして協調し合うことで、よりよい商品が生まれることを切に願ってやまない。
文/山本善隆(CAR and DRIVER / FM STATION 統括編集長)
<プロフィール>やまもとよしたか/東京都生まれ。株式会社カー・アンド・ドライバー 代表取締役CEO。ITコンサルティング会社、自動車Webメディア、広告制作会社を経て、マーケティング会社でさまざまな大手企業のマーケティング戦略の立案・推進、新規事業開発などのコンサルティング業務に従事。2020年に独立、2021年より現職。クルマを運転している時間が一日の中で最も好き。1995年以降は大のF1ファン。2022年より日本カー・オブ・ザ・イヤー実行委員
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