シトロエン2CV

経済アナリストでミニカーのコレクターとして知られる森永卓郎さんの連載エッセイ。シトロエン2CVを紹介。

パリの風景を彩った名車

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■プロフィール もりながたくろう●1957年、東京都出身。東京大学経済学部卒業。経済アナリスト、獨協大学経済学部教授。個人のコレクションを展示する「博物館(B宝館)」を、埼玉県・新所沢で一般公開中(毎月第1土曜日)0b1fef943f04c76ab00ca860c3bfb46c6830a4af.jpg▲シトロエン2CVチャールストン ノレブ製(左)とビテス製(右) ノレブ製はヘッドランプやシートなどの作り込みがビテス製品よりも凝っている

 シトロエン2CVは、1948年の発表以来、42年間も生産が続けられた20世紀の名車の1台だ。発表された時点で、2CVの評判は芳しくなかった。あまりに個性的なスタイルは、〝みにくいアヒルの子〟などと、揶揄されるほどだった。

 しかし、燃費がよく、メンテナンスがしやすく、税金も安い2CVは、着実にファンを増やしていった。ボクは、スイスのジュネーブに住んでいたとき、初めて2CVを見かけたのだが、フランスに出かけると、街中が2CVであふれていると感じるほど、あちこちで使われていた。バリバリの実用車だった。しかも、その異様なスタイルが、パリの街と奇妙に調和していた。

 2CVチャールストンは、80年に2CVの限定車として登場した。オリジナルの塗装と専用のインテリアデザインを与えただけだが、みにくいアヒルの子をまるで超高級車のブガッティのようなお洒落なクルマに変身させるカスタマイズは、自動車の歴史の中で、最高傑作だとボクは思っている。

 世間もそう思ったらしく、当初は限定だったチャールストンは、そのままカタログモデルとなり、2CVの生産中止まで販売が継続された。

 ボクが所沢市に引っ越したのは、1985年だった。当時、ディーラーのショールームに、この2CVチャールストンが展示してあった。ほしいなと思ったのだが、当時は住宅ローンを差し引くと、月給が手取り6万円しかなかった時代で、当然2CVは、高嶺の花だった。

 チャールストンの塗装は、マルーン×黒、灰×黒、黄×黒の3パターンあり、それぞれのカラーリングがミニカー化されているが、最も人気が高く、種類が多いのは、マルーン×黒だ。

 写真は、左がノレブ(フランス)製、右がビテス(ポルトガル、現在は中国のイクソ系列)製チャールストンだ。どちらも一流メーカーの作品だからレベルは高いのだが、ボクはノレブのほうが、チャールストンのお洒落さをより表現していると思う。全体のプロポーションが自然だし、シートのチェック柄は細かいし、ヘッドライトのレンズがイエローになっているなど、いかにもフランス車らしいからだ。フランスのミニカーメーカーの本領発揮といえる。

 こんなお洒落なクルマが、日本の軽自動車よりも小さいエンジンを積んで、空冷の「バタバタ」という音を立てて走る姿を想像すると、やっぱりフランス車はいいな、と改めて思ってしまうのだ。

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