小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜17時50分~18時TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●あいかわらずぶっちぎり? それとも電動化優先品質?
今年の輸入車の中では最大の目玉であるドイツ車が登場した。新型8thVWゴルフ、通称「ゴルフ8」である。
1974年に誕生、1975年に日本上陸、一時は「27年連続輸入車販売ナンバーワン」となり、2019年には世界累計3500万台の大記録も打ち立てた。まさにコンパクトカーのベンチマーク、メートル原器といえよう。
だが、新型は大きな節目で、日本に本国から約1年半遅れで上陸している。理由は諸説あって、1つにVWの電動化戦略がある。同時期にゴルフと同サイズのピュアEV、ID.3を発売。いろいろな意味でそちらに注力していたという。
よってゴルフ8の出来映えには2説あり、1つは「再びぶっちぎりの性能でコンパクトカーの水準を引き上げた」説。もうひとつは「電動化に注力し過ぎて品質がやや落ちた」説。
結論からいうと、小沢的にはその中間ぐらいの出来映えだと思われた。
さっそく実車チェックだが、サイズは予想以上にゴルフっぽくマジメだ。イマドキ珍しく全幅を10mm縮小。部分的にダウンサイジングが測られている。
全長×全幅×全高は4295×1790×1475mmでホイールベースが2620mm。ゴルフ7より30mm長く、10mm狭く、5mm低い。ホイールベースも15mm削られている。
だが、これは主に歩行者安全に対するケアで、全長の増加分はほぼノーズに集中、見た目が伸びやかになるとともにボンネットが長くなっている。
居住性、積載性はほぼゴルフ7のままで、リア席には身長176cmの小沢が余裕で座れ、380Lのラゲッジ容積もキープした。
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一方、気になっていたのはインテリア品質。電動化戦略が打ち出された後のTクロスやT-Rocのインテリアがハード素材を多用していたので、新型ゴルフもそちらの方向に行くのか? と思われたのだ。
しかしそこは杞憂だった。ダッシュボードは一面上質なソフト素材で中段の樹脂パネルはハード表皮だが、色味はメタリック風で質感は悪くない。
個人的には唯一ATシフト回りの樹脂の質感が軽く、気になっていたが、さほどでもない。やはりゴルフはゴルフ、VWも簡単にレベルを落とすわけにはいかなかったようだ。
一方で進化していたのは走りだ。骨格は旧型と同じMQBプラットフォーム。それだけに目新しさはないが、足回りがよりしなやかになり、乗り心地は上質。しっとりとして剛性感溢れるステアリングフィールもいい。
判断が分かれるのは刷新されたパワートレインだろう。とくにベーシックグレードの「アクティブ」系に搭載される1LeTSIエンジン+7速DSGが悩ましい。
ゴルフに初めて搭載される3気筒ターボ、ピークパワー&トルクは110ps&200Nmと旧型1.2L4気筒ターボに加え、パワーで5%、トルクで14%向上している。
さらに最大62Nmの48Vマイルドハイブリッド用モーターも加わり、出足の伸びは明らかにひとクラス上。高速でも余裕だ。
だが、アイドリング時の3気筒サウンドは正直さほど高級ではない。
価格的には300万円台後半に突入するが、1.5リッターeTSIエンジン搭載の「スタイル」以上のほうが質感重視のゴルフ好きにはオススメ。
ただし、初めてのユーザーには1Lでも十分楽しめるはず。3気筒のラフさも、トヨタヤリスの1.5Lに比べるとたいしたことはない。
最後に格段に進化しているのはインフォテイメントと運転支援だろう。
まず全車標準装備のデジタルコクピットプロはグラフィック、機能ともに先進的。
運転席前はフルデジタルの10.25インチのモニターになり、運転支援の表示にしろ、テスラ顔負けの未来感覚。
ナビを10インチのディスカバープロにすると、よりデジタル度は増し、そのほか基本装備のエアコン調整にしろスマホライクなタッチスライダー方式。メカスイッチを優先する日本メーカーとは明らかに方針が違う。
ゴルフ初の同一車線運転支援システム「トラベルアシスト」も優秀でラクチン。
機能的には日産プロパイロットと似たようなもので、スイッチひとつで0〜210km/hまで追従運転と車線キープの運転支援を行う。
使い心地も安心感があっていい。しかもこれは全車標準装備なので、ある意味日産ノートe-POWERなどに比べてリーズナブルかもしれない。
質感は基本良好、部分的に落ちたところもあるが快適性、デジタル性、運転支援性能は確実に上がっている。
総合的にはゴルフはやっぱりゴルフ、間違いのない買い物だと思う。