【岡崎宏司カーズCARS/CD名車100選】キャッチコピーは「面白4WD」。1982年トヨタ・スプリンター・カリブは、地球とつきあう元祖ニューアクティブビークルだった

カリブは、1981年10月の東京モーターショーに参考出品された多目的4WD車、RV-5の市販モデルとして1982年8月に登場。当時のトヨタのコンパクトカー、カローラ2/ターセル/コルサの「エンジン縦置きFF」のメカニズムを活用した4WD機構と、ハイルーフのワゴンボディにより優れたユーティリティを実現。行動派ユーザーにスマッシュヒットした

カリブは、1981年10月の東京モーターショーに参考出品された多目的4WD車、RV-5の市販モデルとして1982年8月に登場。当時のトヨタのコンパクトカー、カローラ2/ターセル/コルサの「エンジン縦置きFF」のメカニズムを活用した4WD機構と、ハイルーフのワゴンボディにより優れたユーティリティを実現。行動派ユーザーにスマッシュヒットした

行動半径を広げる元祖クロスオーバー。ただしちょっぴり非力だった

 スプリンター・カリブは、快適でファッショナブルな4WDモデルである。乗用車の性格に4WDの機能をプラスして、行動範囲を広げたニューカマーだ。本質的には、行動的シティ派のクルマといった感覚である。もともとジープ・タイプの4WD車は、戦車の次にタフな軍用車だった。兵士を積んで戦場を駆け回るが目的で、悪路、悪条件下の酷使に耐えることが第一義。ハイウェイを快走する能力など、問題にもされなかった。

 カリブはまったく違う。スバル・レオーネ4WDと同じように、完全に乗用車タイプの4WDである。最低地上高は170mmと、一般乗用車とさほど変わらない。オフロードをガンガン走るために設計されているのではなく、ふつうの積雪路や、雨で滑るじゃり道などを2WD車より安全に、快適に走れるようにと、4WD化されたクルマだ。

リア

 カリブのバリエーションは、AV-ⅠとAV-2の2種。両車の基本メカニズムは共通、違いは装備類の差だけだ。試乗車はAV-2、アピアランスはなかなかゴキゲンだった。シックな2トーンカラー仕上げで、テールゲートを持つ5ドア仕様。高いルーフ、スパッと切り落としたテールと、いうなればワゴン型ボディだが、別格のカッコよさがある。

 キャビンは、大人4名が長距離をこなすには十分だ。身長165㎝の男性が前後に座ったとして、後席のひざ元にたっぷり余裕ができる。ゆとりいっぱいのヘッドクリアランスも大きくプラスして、快適な室内空間を構成している。

 シートのデザインはカローラ2・SRと同じ。中央に大柄なチェック地をあしらって若々しい。フロントシートは8種類の調整機構を備えた8ウェイ・スポーツシートだ。前席のヘッドレストを外してリクライニングさせると、シアシートと一体になった仮眠ベッドになる。

室内

 カリブの中身を見ることにしよう。カローラ2/ターセル/コルサの3兄弟と同じ系譜のクルマである。エンジンはお馴染みの3A 2型を縦置きに積む。4WDをオフにしてFWDにもできる。

 サスペンションのフロント回りは3兄弟と共通。リアは4リンク式リジッドで、カローラからの流用だ。ポイントは、このサスが支えるウェイトだ。AV-2の車重は1015kgある。カローラ2やターセル/コルサの5ドアは、ほぼ850kg前後だから、1.5リッターエンジン搭載車としてはかなり重い、同じエンジンを組み合わせるには、ギアリングをぐっと低くしなければ同等の走りは期待できない。ところが、カリブは同じ5速ギアボックスに、わずかにファイナル比を低くした(4%くらい)ギアリングを採用している。

 カリブの走りは、だいたいの見当がつくだろう。4WD車としては、力強さ、低速での扱いやすさが、少々物足りない。平坦路で3〜4名が乗ると、もう力不足感を感じるのは、どうだろう。4速で40km/hはとてもカバーできない。山道の登りにさしかかったりすれば、低いギアをかなり多用しなければならない。ギアリングが高すぎるのだが、どうもエンジンの力があまり感じられない。

メカニズム

 1500rpm以下のトルクはやせているし、4000rpm以上の高回転域でのパワーの伸びもよくない。「上も下もダメ」状態は、いささか情けない。テストしたのが軽井沢という高地だった点を割り引いて考えても、このパワーとギアリングには不満が残った。

 カリブには、4WDにした場合にだけ使えるEL(エクストラロー)が付いている。通常のローギアよりも28%ほど大きなギア比を持っていて。いざというときに大いに頼りになる。ELと4WDを組み合わせれば、オンロード派の4WD車とはいえ、その威力はさすがに素晴らしい。前進能力は、これでまず文句なしだ。

 ハンドリングは通常走行では軽快といえる。楽しいドライブ感覚が味わえる。カリブはスタイリッシュで、ちょっぴりタフな日常走行性能と、4WD車らしくワイドな行動力が魅力である。新しい分野を目指した、未来のあるクルマが誕生した。
※CD誌/1982年12月号掲載

表紙

諸元

【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員

 

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