もう間もなくやってくる、5G通信時代の交通システムは何が変わるのか

クルマの発展に情報インフラが大きく関与

コンチネンタルの自動運転.jpg▲ドイツの大手サプライヤー、コンチネンタルが行っている自動運転の開発テスト 自動運転やコネクテッドカーの開発に高速・大容量の通信が行える5G規格は不可欠 写真:Continetal AG(以下同)


 次世代の高速大容量無線通信である第5世代移動通信システム(5G)の導入が間近に迫った。5G(周波数帯は3.6〜6GHzと、28GHz)は、現在使われている4G(周波数帯は3.6GHz以下)通信に比べて通信速度が約10倍速くなり、送受信時に発生する遅延が約10分の1に減少する。高速・大容量通信、高い信頼性を備える5Gは、人、クルマ、会社、病院などが「つながる」時代に不可欠だ。

 NTTドコモは年内にプレサービスをスタートし、東京オリンピック開催までに商用サービスを開始する予定。米国と韓国は今年4月から一部地域で商用サービスを開始、欧州でも近く運用が始まる。中国、アセアン、豪州なども2〜3年以内に5Gが使える見通しだ。このシステムの恩恵を最も大きく受けるのは自動運転やコネクテッドカー(外部の情報ネットワークとつながるクルマ)など、自動車関連だといわれている。

 総務省は2017年度から5G総合実証実験を実施している。この中でソフトバンクは、高速道路上でのトラック3〜4台による隊列走行を「先頭車両のドライバー」だけで実現するための車載カメラ画像転送実験を行った。先頭車両の後ろを走るトラックが備える車載フルHDカメラの高解像度映像を、先頭車両へリアルタイムに送る実験だ。自動運転に必要な豊富な情報を、リアルタイムに安定して送受信できるか、どうかが問われる。

 現在の4Gの場合、LTE(ロング・ターム・エボリューション)規格通信でもフルHD画像の送信には時間遅れや画像処理の乱れがつきまとう。ところが、5Gになると実用上問題のない通信速度とクオリティを持つことが確認されたという。5Gはどの帯域を使っても「同時に通信できる端末の台数が現在の100倍以上」といわれ、接続端末が増えても通信速度が落ちないという特徴がある。

 隊列走行トラックでの実験では、先頭車両から後続車両に加速度や操舵といった情報を送るテストも行われた。先頭車両が行った制御が後続車でも正しく作動するかどうか、双方向通信で確認するためだ。先頭車両の自動運転制御は、後続車両のカメラデータ(大容量データ)を活用する。

 現在のLTEの場合は40ミリ秒程度の遅れが発生する。5Gの大容量通信は、4K(走査線4000本)のテレビ画像でも車車間または路車間で時間差1ミリ秒(1000分の1秒、LTE比で40倍速い)以内に収められるという。100km/hで走行している場合でも、この程度ならデータ遅延の影響はないという。

 欧州では、大手サプライヤー(部品供給メーカー)の独・コンチネンタルが路車間でのデータ通信実験を行った。アウトバーン上を130km/hで走行する車両に渋滞情報、天候情報、工事情報などを送る場合でも、5Gを使うと双方向通信が可能だという。また、車載カメラでとらえた事故映像を道路管制センターがリアルタイムで見ることもできるという。日本では、トヨタとKDDIが走行中の車両の車載カメラ画像を共有する実験を行っている。

コンチネンタルの5G実験.jpg▲コンチネンルは先行するクルマから後続車両に道路工事の情報を提供する実験を行なった

 独・ボッシュは、車載レーダーやカメラを使った前方車両との車間距離自動維持装置であるアダプティブクルーズコントロールや、車両の車線逸脱を防ぐレーンキープアシストなどADAS(先進運転支援装置)の作動を、より正確かつ「乗り心地」に配慮したものにするため、5Gを利用する実験を行った。外部の道路データを受信できなくても、自車の周囲を走行する車両と高速データ通信を行い、前方300mまでの道路状況を加味したADAS制御が可能だという。

 将来的には自動運転のためにも5Gが活用される。進路上の道路状況や交差点カメラの情報などを取り込み、AI(人工知能)の状況判断に生かせる。同時に自動運転から手動運転へハンドオーバー(受け渡し)する判断にも、5Gのデータ量と送信スピードが役立つ。

コンチネンタルの渋滞情報調査.jpg▲コンチネンタルの調査によれば「日本のドライバーの43%は道路工事の情報が提供されるとうれしい」と考えているという

 将来の自動車にとって、外部とのデータのやりとりは非常に重要であり、5Gになれば〝できること〟は多い。その一方で、通信方式の標準化も必要だ。日本では14年に5GMF(第5世代モバイル推進フォーラム、NTTやKDDIなど120社以上が参加)が立ち上げられ、通信仕様の統一や技術開発の方向性のすり合わせなどが進められている。16年には毎秒20ギガバイトの大容量通信に成功。これは現在のLTE通信比で約100倍に相当する。また、KDDIは17年に「5Gと高速道路を走行中の車両との間で、通信基地局の切り替えに成功した」と発表している。周波数の特性上、5Gは4G比で通信距離が短くなる。このため、基地局間で通信を引き継ぎ、途切らせない技術が重要になる。

 日本の5GMFのような標準化団体は韓国、欧州、米国にも存在する。日本車が世界中で販売されている現状では、地域ごとの5Gに適合しなければならない。スマートフォン端末は、米・アップル、韓国サムスン、中国ファーウェイがビッグスリーだ。端末メーカーと自動車メーカー、あるいは通信事業者と自動車メーカーがどのように連携していくかという点で、日本の発言力はそれほど大きくない。欧州では欧州なりのルールが敷かれ、中国では中国のルールが敷かれる。

 この点について、日本の自動車メーカー各社は「過大な負担にはならない」と考えているようだが、日本メーカーの世界生産台数2700万台のうち日本国内需要は約550万台、全体の約20%にすぎない。場合によっては〝世界標準に日本が合わせる〟という展開もあり得る。

 IoT(インターネット・トゥ・シングス)やM2M(マシン・トゥ・マシン)など「ヒト対モノ」ではなく「モノ対モノ」の高速通信を可能にする5Gが、どのようなカーライフをもたらしてくれるか。この全容が明らかになるのは、わずか数年後である。

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