電柱が社会インフラとして注目を集める理由

急速充電器の設備や、地図データ補正役として電柱に熱視線集中

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▲電柱が社会インフラとして活用される可能性が高まってきた

 日本は電柱大国である。日本の首都である東京で、23区内の電線類地中化率は8%。率としてはこれが最高で、日本全体では2%以下だ。パリ、ロンドン、フランクフルトなど欧州の大都市は軒並み完全地中化されており、米国でもニューヨークやロサンゼルスは80%以上の地中化率だ。日本でも無電柱化の推進に関する法律が3年前に制定され、11月10日を無電柱化の日に定めた。電柱地中化は国策となったが、なかなか進んでいない。

 その一方で、電柱をインフラとして活用しようという検討が各方面で始まっている。ひとつはBEV(バッテリー充電式電気自動車)のための急速充電設備を電柱に設置しようというアイデアだ。東京電力は、電柱の真下の地面を掘らずに直接電柱に充電設備を備え付ける方式を開発し、特許を取得した。市街地など急速充電需要が見込め、路上駐車枠の確保ができる場所の電柱にこの急速充電器設備を設置することを検討している。

 急速充電設備は高電圧に対応した電線を使うため、通常はその電線を地中に埋め込む工事と、急速充電設備を水平に設置できるよう地面を掘る基礎工事を行う必要がある。そのため、急速充電設備設置コストの半分は基礎工事など土木作業関連が占める。東京電力が開発した電柱抱き合わせシステムは簡単な基礎工事で済み、電流は電柱上の変圧器(トランス)から電線に沿って充電設備に導く。1基当たりの設置費用は150万円程度と、コスト面で効率がいい。

 山間部の送電線には数十万ボルトという高電圧が流れているが、配電区間と呼ばれる市町村内では3000〜6600ボルト、さらにそこから分配された低電圧電線は最高で400ボルト。BEV用急速充電設備はこの電圧のまま使用できる。現在、国内の急速充電設備は約8000基にとどまっているが、電柱利用方式を活用して市街地の充電インフラを拡充させることを東京電力は検討している。

 自動運転のためのマーカーとして電柱を利用しようという計画もある。まだ検討段階だが、電柱に位置情報を記録したマーカーを設置し、自動運転に必要な道路データを提供しようというアイデアである。完全自動運転の場合、精密なデジタル地図が必要になり、これをトレースする運転精度の誤差は5㎝以下が求められるという。"5㎝ズレると縁石にタイヤがぶつかってしまう"ためだ。

 日本は地震国であるため、1年間に数㎝程度の地盤移動が起きる場所は非常に多い。東日本大震災直後は、1年間に15㎝以上移動した場所も少なくなかった。地表の移動をデジタル地図にどう反映させるかがひとつの課題になっている。

 そこで、電柱にマーカーを取り付け、そのデータを取り込むことで道路地図を補正する案が浮上した。マーカーは非常に小型で、自動運転車両が通過するときにだけ信号をやり取りする。道路のセンターライン下やガードレール用もすでに数種類開発されているが、約30m間隔で立っている電柱は、設置場所として適しているという。また、これから日本政府が整備する準天頂衛星を使ってこのマーカーの位置を読み、デジタル地図の補正を行うことも可能だという。

 電柱が車両電動化や自動運転という新しいニーズを受けて見直されようとしている。将来的には、電柱にさまざまなセンサー類が搭載されるかもしれない。

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