FIAフォーミュラE世界選手権への参戦を2021年シーズン限りで終了したアウディは、次の挑戦に「世界で最も過酷」と称されるダカールラリーを選んだ。2022年1月2日から14日にかけてサウジアラビアで開催されたダカールラリー2022にアウディが持ち込んだのは、RS・Q・e-tronと名づけた専用のレース車両である。
この車両、電動パワートレーンの搭載を示すe-tronを車名に掲げてはいるが、フォーミュラEやアウディの量産e-tronシリーズのようなバッテリーEVではない。最大800kmにも達する一日の走行距離をカバーしようと思ったら、バッテリーだけで相当な量になってしまい、競技どころではなくなってしまうからだ。
ダカールラリーを「未来の技術の実験室」に位置づけるアウディは、シリーズハイブリッド(エンジンを発電専用に使う方式)を選択した。毎日のステージの開始時点ではバッテリーに蓄えた電気エネルギーでモーターを駆動して走る。この状況では実質的にEVだ。電気エネルギーが足りなくなるとエンジンを始動。ガソリンを燃料に発電して、必要な電気を供給する仕組みである。
ハイブリッドシステムを構成するコンポーネントがユニークだ。フロントとリアに搭載する走行用モーターは、2021年のフォーミュラE参戦車両、アウディe-tron・FE07が搭載していたMGIU05を転用。発電用モーターもMGU05だ。
レース専用に開発されたモーターのため効率は高く、高い出力を引き出しながら軽量に作られている。ダカール用に小規模の改良を施すだけで開発は済んだという。前後のモーターを合わせた総合出力は最大500kWに達するが、レギュレーションにより、最高出力は288kWに制限されている。
車両ミッドに搭載する発電用エンジンは、2020年のDTM(ドイツツーリングカー選手権)を戦ったアウディRS5DTMが搭載していた2リッター直列4気筒直噴ターボである。贅沢にも、600ps以上の最高出力を発生する実力を持ったレーシングエンジンを、発電専用に使っている。9500rpmの最高回転数に合わせて設計されたエンジンではあるが、ダカールラリーでは最も効率の高い(燃料消費が少なくて済む)4500〜6000rpmの範囲で運転する。
車両中央部に配置されたリチウムイオンバッテリーの容量は52kWhで、冷却冷媒を含む総重量は約370kgだ。車両重量はレギュレーションで2000kg以上(ドライバー除く)に定められている。
フォーミュラEや量産e-tronシリーズと同様、制動時はモーターでエネルギー回生を行い、電気エネルギーをバッテリーに蓄える仕組み。具体的な数値は明かされていないが、燃料タンク容量はレギュレーションで指定されているよりも少ないという。RS・Q・e-tronのシステムが高効率であることを示す情報だ。
ハイブリッド車による世界初のル・マン24時間制覇を2012年に成し遂げたアウディは、2017/18シーズンにフォーミュラEのチームタイトルを獲得。今度はシリーズハイブリッドによる世界初のダカールラリー制覇を目指す。過酷な環境で電動化技術を鍛えるのが狙いだ。量産化を視野に入れた活動だろうか。