欧州でHVが増える理由

電動アシストがトレンド

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▲アイシン・エィ・ダブリュが開発した1モーター2クラッチ方式のFF用8速AT DS7の2020年モデルに搭載される

 いま、EU(欧州連合)市場では〝マイクロ〟とか〝マイルド〟と呼ばれるHEV(ハイブリッド・エレクトリック・ビークル)が増えつつある。電動モーターを使い、その分エンジンの負担を減らすシステムである。背景は、①厳しさを増すEUのCO(二酸化炭素)排出規制、②新しい排出ガス燃費測定モードとして採用されたWLTC(ワールドハーモナイズド・ライトビークル・テスト・サイクル)、③実路上でさまざまな走行状態で行う初の屋外試験、RDE(リアル・ドライビング・エミッション)の実施である。HEV先進国は日本だが、EU市場でも"なんらかの電動アシストを持つクルマ"が主流になりそうなムードが漂っている。

 現在、EU内では独・コンチネンタルなどの大手サプライヤー(部品供給業者)と、オーストリアのAVLのようなエンジニアリング会社がHEVの提案を幅広く行っている。これらは〝P0〟から〝P4〟までの共通の呼称がある。最もシンプルなP0は、ベルト駆動のBSG(ベルト・スターター・ジェネレーター)またはISG(インテグレーテッド・スターター・ジェネレーター)と呼ぶ小型モーターをエンジンの前側、トランスミッションとは反対側に持ち、ベルトなどを介してモーターを接続するシステムを指す。スズキのエネチャージはP0システムである。

 P1は、ISGまたはIMA(インテグレーテッド・モーターアシスト・システム)と呼ばれるP0に比べると、やや出力の大きいモーターをエンジンとトランスミッションの間に置き、エンジン出力軸の同軸上にモーターを置くシステム。かつてのホンダIMAはP1に該当する。ここまでがマイクロHEVと呼ばれる。

 P2は、最も注目されているタイプだ。エンジンとトランスミッションの間に、エンジン出力軸と同軸上にモーターを置き、エンジンとモーターおよびモーターとトランスミッションの間にはそれぞれクラッチを置く。これによってモーターだけの走行、エンジンだけの走行、モーターとエンジンの両方を使う走行が可能。いわゆる1モーター2クラッチ方式である。

 これと似たP3は、エンジンとモーターの間にだけクラッチを置き、モーターとトランスミッションは切り離せない。つまり、エンジンのみの走行ができないシステムだ。

 そしてP4は、トランスミッションから独立したアクスル内などに電動モーターを置くシステムである。

 P2の例は、日産エクストレイル・ハイブリッドなど、すでにいくつかある。「今後、最も増えるHEVカテゴリー」ともいわれている。すでに技術が発表されている例では、アイシン・エィ・ダブリュが開発したモーター内蔵FF用8速トランスミッションがあり、これは2020年モデル(19年8月に生産開始)のDS7に採用されることが決まっている。

 P2システムについては、トランスミッションメーカーの独・ZFや米・ボルグワーナーなども開発を行っており、20年代前半には「相当数の搭載モデルがそろう」という見方がある。EUではBEV(バッテリー電気自動車)がCO排出ゼロにカウントされ、PHEV(プラグイン・ハイブリッド車)はバッテリー走行できる距離によってCO排出量を計算するうえで優遇される。一方、HEVにはなんの恩典も与えられていない。

 しかし、自動車メーカーにとってはHEV化が重要な選択肢になった。というのも、CO排出規制が厳しくなり、排出ガスと燃費をRDEの実路走行でも管理されるようになったためだ。さらに、自動車メーカーにとってはCAFE(企業別平均燃費)規制がある。車種ごとのCO排出量に販売台数を掛けて、その1年間の合計から1台平均のCO排出量を算出し、それが規制値を超えた場合は罰金を払わなければならない。

 自動車メーカー各社は「BEVとPHEVの販売台数はそう簡単には増やせない」と語る。「たとえ補助金の支給があっても一般的なエンジン車より割高」だからだ。現在のEUのCO排出規制をクリアするためには「すべての車種について地道な燃費改善努力を続けていくしかない」という判断だ。その燃費改善のための手段として、エンジンが苦手とする領域(たとえば発進加速)を電動モーターが補うP0〜P4のHEVが注目されている。

 1997年にトヨタが1stプリウスを発売したとき、欧米の自動車メーカーはトヨタの後を追ってHEVを開発するかどうかの議論を行ったが、ダイムラー/BMW/GMの3社連合が"2モード"と呼ばれるエンジン縦置きFR車用のHEVシステムを開発するにとどまった。また、トヨタが"高速巡航が苦手"なHEVシステムに改良を加え第2世代に移行したときも、欧州では「HEVは本当に必要か」という議論があった。そして欧州メーカーは、クリーンディーゼルエンジンとガソリンダウンサイジングターボの開発に経営資源を集中させた。

 現在は、欧州勢も一斉にマイルド〜マイクロのHEVを開発テーマに掲げている。同時に、RDE対策としてエンジン排気量の拡大もトレンドになった。ダウンサイジングがかえって燃費を悪化させるからだ。クルマのパワートレーンは規制によってさまざまに変わるのだ。

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