トヨタアライアンス5社の通信技術共同開発が市場に与えるインパクト

▲コネクテッドカーの普及に伴うデータ処理の共有化は提携するメーカーにとって重要な意味を持つ
▲コネクテッドカーの普及に伴うデータ処理の共有化は提携するメーカーにとって重要な意味を持つ

 いま、自動車ではコネクテッド(外部ネットワークとの接続)機能の標準装備化が進んでいる。従来からのV2I(ヴィークル・トゥ・インフラストラクチャー=路車間)だけでなくV2V(ヴィークル・トゥ・ヴィークル=車車間)機能も実用化され、さまざまな運転支援や緊急時の安全確保といった用途に使われている。今後、コネクテッド機能は商品性を大きく左右するといわれる。

 そんな技術背景がある中、4月27日、トヨタ、ダイハツ、スバル、マツダ、スズキの5社が次世代の車載通信機器の技術仕様共同開発および通信システムの共通化について合意した。「より安全で快適なコネクテッドサービスの早期提供を目指す」という。トヨタを中心としたこの5社は、いずれもトヨタと資本関係にあり、トヨタの完全子会社ダイハツを除く3社は、いずれもトヨタと互いに株を持ち合う関係にある。国内販売における5社の合計シェアは64%(2020年実績)を占めており、この5社が連携する意義は大きい。

 トヨタなど5社が共同開発するのは次世代の車載通信機器で、その技術仕様を統一する。実際の通信サービスについては各社がそれぞれの方法とネットワークで実施する。つまり、実際のサービスやアプリケーションについては各社の自社領域であり、ここには競争が生まれる。

 協調領域はあくまでも、通信機器とV2Iの接続仕様にとどめる。言い換えれば、クラウド機能部分と、車両とクラウド間の通信プロトコルを共通化することになる。

 ベースになるのはトヨタが開発した車載通信技術で、ここに4社の技術を盛り込み、クルマからネットワーク、車載通信機センターまでの接続仕様を共通化した次世代のコネクテッドカー向けのシステムを構築する予定だ。

 そのメリットは「車両と車載通信機センター間の通信品質がこれまで以上に安定し、ユーザーとオペレーター間の通話がよりクリアになり、接続スピードもより速くなる」ことだと、5社は共同で説明している。

 5社の協力となれば、開発プロセスが大幅に削減でき、開発スピードも速くなる。ハードウェア面では、仕様を統一した機器とすることで大量発注によるコスト低減が見込める。また、こうした通信機能に関してユーザー数が多いという利用状況は、さまざまなメリットを生む。たとえば地点間の旅行時間データや渋滞情報の収集は、確実にユーザー数がモノをいう。システムのバグがあった場合も、利用者が多いほど発見までの時間が短縮できる。

 日本国内でいえば、この5社連合は最大勢力であり、残る乗用車国内3社(ホンダ、日産、三菱)の方針にも何らかの影響をおよぼす可能性がある。たとえば、次世代の通信機器について国内8社が同じ仕様の導入で協調する可能性もある。その点で、今回の5社連携の今後の展開には注目すべきだ。

▲テンセント・キーン・セキュリティは「2017年のレクサスNS300のAVナビシステムに脆弱性があった」と指摘 これに基づいてトヨタは対策を済ませた
▲テンセント・キーン・セキュリティは「2017年のレクサスNS300のAVナビシステムに脆弱性があった」と指摘 これに基づいてトヨタは対策を済ませた

 一方、V2IおよびV2V通信の将来動向は、現在よりもはるかに範囲が広がると予想される。5G(第5世代)ネットワークの整備によって通信速度が速くなり、扱えるデータ量が増える。これを考えると、たとえば、現在のADAS(高度運転支援)システムと併用した場合、高速道路での合流・分岐などでV2V通信を使った「相互安全確認」が可能になる。インフラの助けを借りなくてもレベル3(高速道路など限定的な場所と条件での)自動運転の精度を高めることができるといわれる。

 半面、外部ネットワークとの接続はハッキングの危険性がつきまとう。昨年、中国のテンセント(騰訊)グループのサイバーセキュリティ部門、テンセント・キーン・セキュリティ(TKS)は、トヨタ車のシステムに脆弱性があることをトヨタに報告し、この情報をもとにトヨタは対策を行った。

▲テンセント・キーン・セキュリティは「レクサス」の不具合を昨年3月30日付けでレポートした TKSのホームページから
▲テンセント・キーン・セキュリティは「レクサス」の不具合を昨年3月30日付けでレポートした TKSのホームページから

 TKSによると「ブルートゥース製品を使ってハリアーの一部の機能を遠隔操作できることが確認された」という。トヨタは昨年3月30日にシステムの脆弱性をなくす対応を終了したことを発表した。

 これ以外にも、外部からの不正アクセスで車両のプログラムに侵入できる可能性が確認された例はいくつもある。その多くは「ブルートゥース機器を使って、近距離で一定時間以上の通信を行う必要がある」という程度の脆弱性であり、トヨタの例でも「走る・曲がる・止まるという基本的な車両制御には介入できない」ことが確認された。

 TKSはサイバーセキュリティ分野でのコンサルティングを行っており、さまざまな製品についてハッキングを試行している。いわゆるホワイトハッカー(悪意のないハッキング行為を行うこと)であり、自動車分野でもホワイトハッカーが脆弱性を発見する例が増えてきた。クルマのコネクテッド機能を拡充するに当たっては、外部からの不正アクセスへの対策は必須である。

 一方、コネクテッドがもたらす効果としては、車載プログラムの自動アップデートが挙げられる。プログラムの修正だけで対応可能な不具合対策や、燃費および安全性を向上させるプログラムの更新など、整備工場へ持ち込まずに完結するアップデート作業にV2I通信を使うというアイデアだ。

 すでに技術的には実用レベルにあり、5G通信を使って更新プログラムを路上ビーコン下を通過した車両に送り、次の始動時にプログラム更新が行われるという方法は確立されている。ただし、この場合にも不正アクセスへの対応と、プログラム誤作動をどう保障するかという問題が残る。

 不正アクセスへの対応も含め、コネクテッド技術の開発は、ますますコストと時間がかかるようになってきた。

 数社が共同で開発費を負担し合い、基本的な技術を共有するメリットは大きい。その意味でも、トヨタを含めた5社の連携は大きなニュースといえる。

SNSでフォローする