先代フォレスターSTI Sportを愛車にして2年半が経過した。1.8リッターターボエンジンによる力強い加速感と、STI専用セッティングが生み出す上質な乗り味は、日々の移動からロングドライブまで幅広く対応。信頼できる相棒だった。ただひとつ、どうしても「惜しい」と感じていたのが、燃費性能である。市街地でストップ&ゴーが多いと、8〜9km/リッター前後。ガソリン価格の高騰もあり、燃料代は無視できないものになっていた。納車からの走行距離が6万8000kmを超えたのも乗り換えを考えたきっかけだった。
次の選択肢の答えが見えたのが、新型フォレスターの登場。従来の1.8リッターターボに加え、新たにストロングハイブリッド(S:HEV)モデルがラインアップされた。同じシステムのクロストレックに試乗していたこともあり、そのスムーズで力強い走行フィールと、実用域での燃費向上を実感していた。フォレスターのS:HEVは、大いに魅力的に感じた。まさに「次に選ぶ理由」として十分な説得力があった。
注文したのは、アクティブ志向のX-BREAK。現在STI Sportに乗っているのだから、少し意外な選択と思われるかもしれない。けれど、スキーやサーフィンといったアウトドア趣味の比重が高まる中で、生活に寄り添い、日々の行動範囲を広げてくれるグレードとして、X-BREAKはごく自然なチョイスだった。
今回、メインで試乗したのは、私が所有している先代STI Sportと同じ1.8リッターターボ(CB18型)を搭載するSPORTだ。搭載ユニットは共通だが、新型はどのように進化したのか。そう期待しながらハンドルを握った。
走り出してすぐに、そのフィーリングに確かな違いを感じた。加速時のトルク感はしっかりと維持されつつ、アクセル操作に対する反応がより滑らかで、車両全体の動きもいっそう自然に仕上がっている。加えて注目したいのは燃費性能。車両重量が先代比で80kg増しているにもかかわらず、WLTCモードでのカタログ燃費値は13.6km/リッターと、ほぼ変わらない。これはすなわち、より効率よくエネルギーを使えるようになった証拠だろう。実質的に「低燃費化」が図られたといっていい。パワー感を損なうことなく、確実に効率性を高めてきたあたりに、スバルの技術的な積み重ねを感じた。
エクステリアは、全体により洗練され、垢抜けた印象へと進化を遂げた。スタイルもお気に入りポイントである。SPORTグレードは、各所にブロンズ塗装の加飾が施され、上質なアクセントとして効いている。都会的で洗練された雰囲気をまとっており、日常に自然と溶け込むバランス感覚が際立つ。フェンダーには立体的なキャラクターラインが加えられ、SUVらしい力強さも忘れていない。過度にアグレッシブに振ることなく、抑制の効いたスタイリングは全体の完成度を高めていると感じる。
インテリアにもSPORT専用のブロンズカラーがあしらわれている。シフトレバーやステアリング、ステッチ、サイドパネルなどに効果的に配されており、そのバランス感が心地いい。空間に彩りを添えている。加えて、新型で大きく進化を遂げたのが、11.6インチの縦型センターインフォメーションディスプレイだ。表示面積が広く視認性に優れるだけでなく、情報の整理がしやすくなった。インターフェース全体が刷新されて、使い勝手は大きく向上している。
視界設計の工夫もうれしいポイントである。新型はダッシュボード上面がフラット化されており、運転席から自然とボンネットの稜線が目に入る。とくに左前方など、車両前端の位置が把握しやすい。初めからすんなりと感覚をつかむことができた。通常時ワイパーが見えなくなったのもスッキリとした印象を高めている。
そして、個人的に最も安心感を覚えた装備が、スペアタイヤの搭載である。昨今は省略される仕様が増えたが、SPORTグレードにはいまなお標準装備されている。一方、ハイブリッドモデルの場合はバッテリーやモーターのレイアウト上、スペアタイヤの搭載は見送られ、パンク修理キットのみとなる。
筆者は、雪山で車中泊をした翌朝、タイヤのサイドウォールが裂けていた経験がある。スペアタイヤがあったおかげで、慌てずに現地で対応できた。あのときの安心感は忘れられない。スペアタイヤがある――ただそれだけのことが、いざというときにこれほど心強いものなのかと、身をもって知った経験だった。
筆者自身は、最終的にX-BREAKを注文することにした。とはいえ、SPORTに試乗して心が揺れたのもまた事実である。試乗を終えてクルマを降りたとき、軽快な加速感と走りの気持ちよさについては「やはりSPORTに分がある」と感じた。
SPORTとX-BREAKは、目指す方向は異なるが、それぞれに明確な魅力があり、どちらを選んでも満足度の高い1台になるに違いない。SPORTは、フォレスターの「走り」という文脈を大切にしながら、実用性や快適性を高次元で融合させた、バランスのよい選択肢である。いま、SUVに求められる多くの要素が、確かな完成度で一台に収まっている――そんな印象を強く受けた。
プロフィール
くろきみじゅ/1996年生まれのクルマ系YouTuber、自動車ライター、自動車インフルエンサー。幼少期からクルマに親しみ、Super GT観戦や祖母のホンダS2000でのドライブを楽しむ。洗車YouTubeチャンネルを立ち上げ、車中泊95日連泊の日本一周旅やメーカー試乗会での新車紹介動画を制作。クルマの能力だけでなく、作り手の想いも伝えるジャーナリストを目指す。