GRヤリスRZハイパフォーマンス。価格/6MT 498万円/8SAT 533万円。2025年4月に発表された最新版はAT(GR-DAT)の制御とともにダンパー&EPSチューニングを最適化などを実施。G16-GTS型のスペックは304㎰/6500rpm、400Nm/3250〜4600rpm
トヨタのイメージは世代によって異なる。今年4月に改良を受け進化したGRヤリスのステアリングを握りながらそんなことを感じた。1970年代、80年代、90年代そして2000年以降と、おおよそ10年単位で区切ってみても印象はそれぞれ。多感な時期にどの時代のトヨタ車とつきあったかで、このブランドの受け止め方は違う。
何がいいたいか。GRという存在があるとないとで印象はガラリと変わるということ。GRはまさにレースを実験室としてクルマづくりを行っている。
GRヤリスはその真骨頂ともいえるモデルだ。なんといってもWRC(世界ラリー選手権)でリアルに活躍しているのだ。CS放送でWRCを観戦しているが、つねにアグレッシブな走りを見せてくれる。土煙を上げながらグラベルを駆ける姿は実にカッコいい。
進化版GRヤリスのエンジンは1.6リッター直3ターボ。最高出力は304㎰、最大トルクは400Nmを発揮する。この排気量でこのパワーは市販車としては驚きだ。またトルク曲線から読み取れるセッティングも見どころ。低回転からいきなりピークトルクをフラットに提供するのではなく、1000、2000、3000rpmオーバーと右肩上がりになる。そこにリニアな加速フィールが生まれるということだ。
試乗車、RZハイパフォーマンスのギアボックスはGR-DAT。ダイレクト・オートマチック・トランスミッションの頭文字をとった8速ATとなる。ATのソフトウェアをドライバー本位に制御したもので、アクセルの踏み方やリリースの仕方をくみ取り、必要なギア選択をする。
駆動方式はもちろんヨンク。“GR-FOUR”と呼ばれるスポーツ4WDで、路面と走行状況で最適なトルク配分を行う。イメージ的にはノーマルモードで前後60対40、グラベルモードで53対47、トラックモードで60〜30対40〜70といったところ。スポーツ走行になればなるほどリアへの駆動配分が大きくなる。
足回りも見るべきポイントは多い。リアサスはダブルウィッシュボーン式だし、フロントのブレーキが18㌅アルミ対向4ポットキャリパーというのもそう。ホイールはBBS製の鍛造、タイヤサイズは前後225/40ZR18でミシュランパイロットスポーツ4Sとなる。“本気”と書く“マジ”仕様だ。それにしてもBBSは美しい。
スタイリングは前後のバンパー形状がいかつさを醸し出す。フロントバンパー下部のハニカムの向こう側には“GR-FOUR”なんて文字もあった。目を引くのはやはりリアフェンダーの膨らみ。真後ろからの印象はスタンダードのヤリスとは別物だ。かつてのルノー5ターボを思い出す。
ちなみに、今秋以降メーカーオプションで“エアロパフォーマンスパッケージ”が追加される。ダクト付きアルミ製フード、大型の可変式リアウイングなどが装着されるからそちらも要チェックだ。
実際に乗り込んでみる。目に飛び込んでくるのはドライバーオリエンテッドなダッシュボード。スーパー耐久や全日本ラリー参戦車で得た知見を活かしたつくりとなる。サイドブレーキレバー位置を含め、目を落とさずして手の届く範囲にすべがてあるレイアウトが印象的だ。
スタータースイッチを押して走り出す。ノーマルで走っていても劇的な何かは起こらない。スターターで大きなブリッピング音がするとか、シーケンシャルギアボックスのようなメカニカル音がすることもない。Dレンジでスムーズな走りを見せる。トルクが太いのとステアリングが正確であることを感じるくらいだ。
乗り心地は思いのほかいい。入力によってはアッパーマウントからボディに伝わる振動はあるが、それもすべて一発で抑え込む。足はよく動いてバネ下でなるべく吸収しようとしているのがわかる。ただストロークがあまりないので、限界はありそうだ。とはいえ、ボディをかなり堅牢に仕上げたのだろう。コントロール性を担保しながら柔らかい足を可能にした。
ドライブモードをスポーツに切り替える。するとエンジン特性が表に出てきた。高回転型と思われるこのユニットの醍醐味は5000rpmから。そこから音が変わり気持ちよく吹き上がる。思わずニヤける瞬間だ。フィーリングも好印象。ザラっとしたメカニカルなフリクションが高出力ユニットを動かしている気分に浸れる。
ハンドリングの評価はワインディングを試していないので次回に持ち越したいと思う。きっとそこで本性を見せることだろう。それでも高速道路ICの高速コーナーではその片鱗を見せてくれた。舵角一定の安定感は基本骨格の高い精度をうかがわせる。リアのワイドトレッドの効果もありそうだ。ステアリングホイールの握りやすい径も印象的だった。通常この手のクルマは太いグリップを選びがちだが、GRヤリスはそれを回避した。路面からのフィードバックを得るためにもこのくらいの径が理想的だと思う。
GRヤリスは誕生から早5年経った。デビュー後も確実に進化し続けている。GRの動向ともども目が離せない日本の宝物の1台である。なお、GRヤリスは一時受注を停止していたが、部品の供給体制が整い、生産を再開。2025年6月現在、再び購入できるようになったという、うれしいニュースをお伝えしておこう。