個性派クルマの宝庫「Stellantisジャパンの今、そして未来」

ジープ、プジョー、フィアット、アルファロメオ、アバルト、DS、シトロエンと個性派ブランドで構成するメジャーメーカー、Stellantisが続々と魅力的なニューモデルを発売している。Stellantisジャパンでフレンチブランド、アメリカン/イタリアン、アルファ ロメオの各ブランドを担当する事業部の事業部長にお話をうかがった。

クルマは文化の伝導師
私たちはアメリカ、フランス、イタリアを
身近に感じていただける
クルマたちを扱っています

九島辰也さん(以下:九島) 今回の「超・個性派」特集(2025年6月号)は、日本のマジョリティを占める「コンパクトSUV」を中心とする車種ではなく、個性的なモデル、ボクは「クセ強クルマ」というワードを思いついたのですが、そんなクルマがもたらす世界を紹介しています。特集の最後に、いわばクセ強クルマの集合体ともいえる、Stellantisジャパンのブランド責任者の方々に、それぞれのブランドの魅力や、その演出法をお聞きしたいと思います。Stellantisジャパンは、「プジョー」、「シトロエン」、「DSオートモビル」というフレンチ、「フィアット」、「アバルト」、「アルファ ロメオ」というイタリアン、そして「ジープ」というアメリカン・ブランドを扱っている、まさにワールド・ブランドのインポーターですね。

九島辰也(モータージャーナリスト)
くしまたつや/個性派クルマに深い愛情を注ぐエンスージアスト。昨年、自らの還暦祝いに“赤いクルマ=往年のアルファロメオ・スパイダー”を購入。フィアット500もセカンドカーとして愛用。ジープに関する深い知識は日本トップレベル

小川隼平さん(以下:小川) クルマは文化の伝導師だと考えています。私たちはアメリカ、フランス、イタリアという国を身近に感じていただけるクルマたちを扱っています。私はプジョーとシトロエンの担当ですが、フランス車は、走り/曲がる/止まるを真摯に追求していることが持ち味です。そのドライバーズファーストの作り込みを味わうと、フランス車のほうが、日本車以上に王道なのではと感じます。トレンドに敏感な日本車と別のところに居るからクセ強に見えるけれど、決してぶれてはいません。

小川隼平 さん
Stellantisジャパン
フレンチブランド事業部 事業部長
おがわじゅんぺい/2002年に日本の自動車メーカーに入社し、5年間エンジニアとしてエンジン部品の材料開発に従事。その後、技術広報や他社とのアライアンスに携わりマーケティングへ。2年間英国でも生活。2025年より現職

九島 なるほど、フランス車の歴史は100年以上。フランスのメーカー自身が本格的にクルマを作る前から、ダイムラーやベンツなどを集めてレースを開催し、クルマの性能を高めていた国ですからね。日本の若者がフランス車に触れ、「親のクルマと違ってステアリングが小径で、こんなに反応がいいのはどうしてだろう」と思ってフランスの扉を開けると、その魅力がわかり、クルマの世界がグッと広がる。歴史がつながっていく。いまの20代ユーザーは扉を開けようとする意欲が強い人が多い気がしています。ところで、それぞれのブランドを皆さんはどのように定義されていますか?

小川 プジョー、シトロエンともセンスの良さと抜群の乗り味が明確な個性です。ステアリングを握ると元気になるクルマですね。そのうえで、プジョーは「洗練された美」を表現。シトロエンは「シンプルでポップ」を心がけています。シトロエンはブランドのCEOからも「他と同じことはするな、明確に差別化を図れ」といわれています。今後はブランドの顔を作るアクティビティをより積極的に展開する予定です。

黒川進一さん(以下:黒川) アルファ ロメオは歴史あるブランドで、クルマ好きに浸透しています。ただし若い人にとっては、残念ながらアルファ ロメオの価値があまり伝わっていない。旧車のイメージが強くなっています。改めてアルファ ロメオを通じて「クルマって楽しい!」ということを伝えていきたいと考えています。

黒川進一 さん
Stellantisジャパン
アルファ ロメオ/DS事業部 事業部長
くろかわしんいち/20年以上を日本の自動車メーカーに従事。営業/マーケティングを中心に商品企画やブランディングのプロジェクト等を担当。海外経験も豊富でイタリアは4年間在住。現在は茅ヶ崎に住む、趣味はサーフィン、料理

九島 ボクもヒストリック・アルファを持っています。DSオートモビル(以下:DS)についてはいかがですか?

黒川 DSについてはフレンチラグジュアリーという価値観を、若い人を含めて多くの人々に、どう伝えていくかが課題です。DSブランドは、1955年に登場したシトロエンDSを起源とするアバンギャルドなプレミアムです。シトロエンから派生したモデルですが、たとえばトヨタのレクサスとは感覚がまったく違います。そこが面白い。乗ると素晴らしくいいクルマです。

九島 フランスはファッションを中心にラグジュアリーコンテンツがたくさんあります。DSはそれとも親和性が高い気がします。アメリカンとイタリアンカジュアルはいかがですか?

野々尾整さん(以下:野々尾) ジープとフィアット、そしてアバルトは、人生のステートメントブランド、「私はこういう選択をする人です」という価値観を明確に表現するクルマたちだと考えています。アメリカやイタリアが持っている魅力と雰囲気、そしてバリューを存分に味わえるブランドです。各ブランドが持っている魅力を、あまりローカライズすることなく、自然なカタチで伝えていくことを心がけています。ジープは、圧倒的な走破性を誇る世界中の4WDモデルの原点ですし、フィアットはオシャレなクルマの代表です。アバルトも熱烈なファンに支持されています。たとえばアバルトの75周年記念車は、まず左ハンドルのMT車から売り切れました。

野々尾 整 さん
Stellantisジャパン
アメリカン/イタリアン事業部 事業部長
ののおひとし/京都府出身。大手百貨店を経てモーターサイクル及び自動車メーカーにて従事。2016年よりFCA(現Stellantis)ジャパン。ネットワーク開発とセールスをリードする。趣味はドライブ、モーターサイクル、ウエイトトレーニング

九島 フィアットはエンジン車の500(チンクエチェント)が終了を迎えましたね。

野々尾 2007年にデビューした三代目500は、ユーザーの約7割を女性が占める人気モデルでした。セカンドカーとして使われるケースが多かったのですが、エンジン車の生産終了を受けて、今後は500から600(セイチェント)が販売の主力となります。そのためイタリアサイドは600を「チンクエチェント for ファミリー」と位置付けたキャンペーンを展開しています。セカンドカーではなくファーストカーとしてアピールし、ターゲットとしても男性を意識しています。日本でもその方向でコミュニケーションを展開する計画です。

九島 ブランドを印象付けるには、ちょっとしたイメージ付けも大切な要素になると思います。プジョーは「スポーツ」を打ち出していかないのですか?

小川 プジョーはル・マン24時間レースなどがあるWEC(世界耐久選手権)に参戦しているので、モータースポーツのイメージを打ち出しています。

「プジョー、シトロエンともセンスのよさと
抜群の乗り味が個性です」(by 小川)

九島 ボクのいうスポーツは、モータースポーツに限りません。プジョーは、かつて「ローランギャロス」という特別仕様車が印象的でした。テニスなどのスポーツに乗っていくクルマというイメージは面白い。ゴルフもキーワードになるかもしれません。輸入ブランドの場合は、生活とクルマの紐付けが非常に重要だと思います。

小川 ゴルフに行くならプジョー408が最適ですね。荷室も後席も広く、しかも比較的コンパクト。走りは快適ですから最高です。 野々尾 ゴルフは18ホールを回ると相当に疲れますから、快適なクルマで帰りたいですよね。 九島 ゴルフの場合、行きは頭と体を覚醒させることが必要で、帰りはゆったりが基本。その意味でもプジョー408はいい選択だと思います。

黒川 アルファ ロメオは今、自転車を意識しています。トナーレに自転車を積載し、目指すポイントまで行って、ライディングを楽しむという世界観を定着させたいと考えています。さらに、この世界観を体現できるような特別仕様車も計画しています。

「アルファ ロメオは歴史あるブランド、
DSはシトロエンDSを起源とする
アバンギャルドなプレミアムです」(by 黒川)

九島 ステルヴィオ峠を自転車で攻略するというイメージですね。楽しそうだな、ジープはいかがですか?

野々尾 ジープは雪山、スキーにフォーカスしています。モーグルのオリンピック選手のサポートも行っています。最近は販売台数が増加し、従来のスキーやキャンプのアウトドアイメージにとどまらず、街でも輝くというイメージがプラスされるようになりました。新たな演出も進めていきたいと考えています。

九島 ジープは年間販売が500台ほどだった時代から7000台規模に拡大した現在までつぶさに見てきました。ジープはアクティブな憧れのブランドとしてすっかり定着しましたね。最後に直近の動きをご紹介ください。

小川 シトロエンは最新C4をリリースしました(2025年3月26日発表)。シトロエン初の48VマイルドHVモデルです。エンジニアリングそのものはStellantisグループのコンポーネンツを上手に活用していますが、乗るとすべてがシトロエン。きちんと差別化され、エンジニア自身がブランドを深く理解していることが実感できます。ぜひディーラーに足を運び、その素晴らしさを体感いただきたいと思います。

黒川 アルファ ロメオは、コンパクトSUV、ジュニアの導入が控えています(2025年6月発表予定)。そのため、アルファ ロメオの魅力を改めて整理しています。「カッコよさ」、「運転の楽しさ」に加え、日本でいうところの「色気」というのでしょうか。アルファ ロメオを所有し、走らせることで得られる「高揚感」にフォーカスした演出を検討中です。イタリアのジュニアのCMに「最後に恋に落ちたのはいつですか」というフレーズを印象的に使った作品があります。その世界観を表現したいと考えています。DSに関しては今年、フラッグシップのNo.8を導入する予定(2025年秋発表予定)です。このモデルはフランスの文化に根差し、コンフォート性能、安心感、ラグジュアリーを磨き上げています。5月に東京・お台場で開催されるフォーミュラE東京大会の「ファンビレッジ」で展示します。

野々尾 現時点で詳細は説明できませんが、フィアットもイタリアならではの強みを活かした話題を提供できるよう準備中です。ぜひ、ご期待ください。

「ジープとフィアット、そしてアバルトは、
人生のステートメントブランドです」(by 野々尾)

九島 今日は、ブランドにまつわる興味深いお話がたくさん聞けました。ありがとうございました。

SNSでフォローする