BMWアルピナB3 GT 価格:8SAT 1650万円。B3 GTは従来のB3の熟成版。GTの呼称はアルピナにとって最も理想的なモデルであることを示す。2025年をもってブランド商標権をBMWに譲渡するアルピナの最終生産モデルである
「真のグランツーリズモ。ブッフローエ生まれ、ブッフローエ育ち」。これは今回ステアリングを握ったBMWアルピナB3 GTのホームページに載るキャッチフレーズである。2025年2月ニコル・オートモビルズが日本でアンベールしたモデルだ。ブッフローエはアルピナが生産拠点を置くドイツの小さな街。BMWと同じバイエルン州で、ミュンヘンの西に位置する。
ニコルがブッフローエを強調するのは、B3 GTがそこで生産される最後のモデルだから。ご存じのように、2026年からアルピナ・ブランドはボーフェンジーペン家の手を離れ、BMWグループ入りすることが決まっている。来るべくEV時代を鑑みての結論だ。長年内燃機関のみを手掛けてきた小規模メーカーにとって熟考の末の結論だったに違いない。アルピナ社の創設は1965年だから今年がちょうど60年目となる。
個人的にもアルピナは憧れのブランドだ。出会いは1996年だった。当時所属していた自動車雑誌で取材したのがきっかけ。E36ベースのB3の時代だ。アルピナB8 4.6リムジンという衝撃的なモデルでこのブランドへの尊敬の念が生まれた。E36に4.6リッター・V8エンジンを積んだモンスターマシンである。それを箱根の峠道をアンダーステアを出さずにスイスイ走るのだから感動しないわけがない。それまでのフロントヘビーのクルマの概念を覆す完成度だった。それ以降ずっと憧れ続けているブランドだけに今回の試乗は思い入れの強いものとなった。
B3 GTの概要を説明しておこう。エンジンは3リッター直6ツインターボとなる。最高出力は529ps、最大トルク730Nmの持ち主。最高速度は308km/h、0→100km/h加速は3.4秒を叩き出す。これはアルピナエンジニアリングによるもので、独自のエンジンマッピングを導入するなどして完成している。彼らの理想とする走りを具現化するパワーの出方をする。
エンジンの出力が上がれば、ブレーキが強化されるのは当然の話。ブレーキパッドまで専用開発したブレーキシステムが理想のストッピングパワーを発揮する。ダンパーもそう。アルピナらしい走りを表現するダンピングプログラムに書き換えられている。オリジナルの20インチ鍛造ホイールとともに絶妙に足回りを支えるのはいわずもがなだ。レートを高めたリアスタビライザーはロールのコントロールに役立つ。
では実際に走らせた印象だが、スタートからアルピナらしさが健在だった。500psオーバーのスペックの持ち主とは思えないスッとジェントルに走り出し、アクセルワークで自在にコントロールできる。これはどういう意味かというと、派手な演出はないということだ。
通常このくらいのハイパワーモデルであれば発進時から太いトルクが発生しグイッとボディを前へ押し出す感覚が強い。だがB3 GTにはそれがない。というか、実際はそう動くのだが、不自然さが皆無なのだ。中間加速も同じ。アクセルを踏み増したときのラグはなく、アクセル開度に対して精緻に加速をコントロールできる。
「アルピナらしさ」とはまさにこのこと。自在にリニアに操れるのが、ブランドの醍醐味である。
最初に「アルピナらしさ」に感動したのは、初めてそれに触れたときのプライベートカーがBMW Mだったからだと思う。Z3のボディに3.2リッター・直6を詰め込んだMロードスターを普段の足に使っていた。エンジンをかけた瞬間から響く低音のエグゾーストノート、体をシートに押し付ける加速をデフォルトとする直球勝負のスポーツカーだった。で、当時そうした走りをイメージして乗ったアルピナはまったく違う乗り物だった。
スペックはレーシーなのに、なぜこんなにジェントルにスムーズに走るのかと首を傾げたくなる走りを見せた。これが噂の「アルピナマジック」である。
今回のドライブフィールもまさにそう。最近の足のセッティングは昔よりも少々硬めだが、ロールの抑え込みに不自然さはなくスムーズライドが提供される。ステアリングフィールもつぶさに伝える。右へ左へ切り、それにボディが追従する一部始終が気持ちいい。それでいて、追い越し加速でアクセルを踏み込むとレーシーな顔をにわかに現す。このまま踏んでいけばかなりスポーティに走るのを感じさせる瞬間だ。
というのがB3 GTを走らせた印象。今回もアルピナらしさは炸裂していた。少数生産メーカーだからなせる技だろう。いつもながら1台1台の作り込みの深さを感じる。これまでもクルマを何十台も乗り継いできた友人にアルピナを勧めてきたが、B3 GTも自信を持って勧められる。
} ファイナルモデルにふさわしい極上の仕上がりは期待どおり。感無量である。
(写真)