九島辰也さん(以下:九島) ポルシェは続々とニューモデルがデビューしていて、販売も絶好調と聞きます。まずは最新のポルシェについて教えてください。
黒岩真治さん(以下:黒岩) 2024年はモデル攻勢の1年でした。なにしろ911、718ボクスター&ケイマン、マカン、タイカン、パナメーラ、カイエンというポルシェ・ラインアップのうち4シリーズが新世代に移行しました。まず1月、BEVに大変身したマカンがシンガポールでワールドデビュー。フル電動化されたマカンは、あらゆる路面でEパフォーマンスを発揮するスポーツカーライクなSUVです。日本でのデリバリーも先月から本格スタートしました。タイカンも2024年2月にJ1-2と呼ぶ第2世代に移行しています。フロントとリアのデザインを刷新するとともにモーター出力をアップ。航続距離も伸ばし、ぐっと完成度を高めました。また第3世代のパナメーラの納車がスタートしたのも昨年です。
九島 クルマ好きにとっては911の刷新は大きな話題ですよね。
黒岩 そうですね、皆さんの注目を集めました。911は5月に992-2型のカレラとカレラGTSを発表。GTSは911初のT-ハイブリッドと呼ぶパフォーマンス型ハイブリッドを搭載しました。その後もラインアップの充実が続き、10月にホットモデルのGT3、同月にMT専用モデルのカレラT、そして今年の1月にはカレラSを加え、着々と911ワールドを充実させています。まずカレラから日本でのデリバリーも始まりました。
九島 992-2型は魅力的ですね。先日、そして今回の特集でステアリングを握り、改めて実感しました。ところでBEVのマカンやハイブリッドの911が登場していますが、ポルシェの電動化に対する姿勢はどんなものですか?
黒岩 電動化への移行期に、ポルシェはお客様からのさまざまなニーズに応えていけるよう、効率的なエンジン、パワフルなプラグインハイブリッドモデルをラインアップし、さらにフル電動モデルを並行して提供する計画です。2025年3月にポルシェ本社が発表した2024年決算プレスリリースでは「Eーモビリティへの移行期間が世界的に大幅に長期化していることを考慮して、ポルシェは今後数年間で製品ポートフォリオを拡大し、内燃エンジンとプラグインハイブリッドのパワートレインを搭載したモデルを追加していく予定です。」というステートメントを発表しました。
九島 最近、以前に増してポルシェを見かける機会が増えて気がします。販売状況はいかがですか?
黒岩 おかげさまで好調です。2024年にポルシェは全世界で31万718台を販売しました。中国での販売は経済状況の影響で28%ダウンでしたが、欧州、北米、その他の海外市場が伸びた結果、グローバルでは前年比マイナス3%減に留まりました。日本国内では前年比16.1%増の9292台を達成。好調の要因は、911、タイカン、パナメーラの新型車投入に加え、一昨年にモデルチェンジしたカイエンの高い人気と分析しています。ちなみに2025年1〜2月も1882台と好調を持続しています。1882台というのは、輸入車ブランドでMINIに次ぐ6位です。日本では2024年にポルシェだけでなく、フェラーリ、ランボルギーニ、アストンマーティンも過去最高を更新しています。日本のマーケットはスポーツカー・ブランドに注目が集まっているといえますね。
九島 さすがポルシェですね。ところでこの強さを支えている要因は何だとお考えですか?
黒岩 クルマの魅力と、全国の正規販売店の方々の努力の賜物と考えていますが、最近はコーポレートの視点からの活動にも尽力しています。それは派手なものではなく、日本の企業市民の一員としてポルシェジャパンができることをきちんと実践していこうという動きです。
九島 具体的にはどのような活動ですか。
黒岩 きっかけは千葉県の木更津に作った「ポルシェ・エクスペリエンスセンター東京」でした。エクスペリエンスセンターは、お客様にブランド体験をしていただくための施設です。高低差のある2.1kmのハンドリングトラックを筆頭に海外ブランドでこれだけの規模のものを用意しているのはポルシェしかありません。多大な投資を必要とするエクスペリエンスセンターは、ポルシェジャパンに、日本に根を張った責任ある企業市民として活動することが大切だと意識させるきっかけになりました。結論からいえば、日本自動車会議所と日刊自動車新聞が共催する「クルマ・社会・パートナーシップ」を掲げる『CSP大賞』で、その『第3回・地域コミュニティ活性化賞』を2023年にインポーターとして初めて受賞しました。木更津市とは2020年6月に「自然環境保全協定」を締結し、2021年には「大規模災害時の支援・協力」を約束するなど連携。さらにサステナビリティ/コミュニティ活動/若者サポートを掲げ、広範な活動を展開しています。エクスペリエンスセンターを会場とする地元ランニングイベントの支援や、ネーミングライツによる「ポルシェ通り」の命名、ふるさと納税返礼品としてのエクスペリエンスセンターの活用、地元で栽培された有機米を市内小中学校に提供する活動の支援も評価されました。
九島 それは知りませんでした。単に施設を作るのではなく積極的に木更津市との地域協業を推進されているのですね。
黒岩 社会貢献は、ポルシェが世界に展開するビジョン「夢を追い続ける人のためのブランド」という行動指針に寄り添った活動であると認識しています。2024年には、東京大学の先端科学技術研究センターとタッグを組んだプロジェクトで、同じくCSP大賞の『第4回・SDGs貢献賞』を受賞させていただきました。2年連続の受賞はCSP大賞において唯一の事例で、今回の対象は東京大学とともに1年以上の時間をかけて立ち上げた「LEARN with Porsche」というプロジェクトです。中高生を対象に10人の奨学生を公募・選定。旅やもの作りなどのさまざまな体験を通じ、高い教育機会を創出することを目的としています。ポルシェは最新モデルを自ら持ち込み移動をサポートするとともに、参加者の旅費・宿泊費などを負担。2021年からスタートし、九州、四国や北海道・礼文島などへの旅や、ポルシェ・トラクターのレストアなどを行いました。
九島 日本の最高学府である東京大学と、スポーツカーの代表であるポルシェとのタッグは興味深いですね。
黒岩 先日、このLEARN with Porscheの振り返りイベントを東京大学で行いました。参加者の活発な発言も印象的でしたが、安田講堂の前に2台の最新のポルシェが並んだ光景には感激しました。今後もスポーツカー、ポルシェの強い発信力を活用して、社会貢献活動を積極的に行っていきたいと考えています。日本最大級のスポーツイベントである東京マラソンとオフィシャルパートナーの3年契約を結び、BEVのマカンやタイカンを提供したのもその一環です。
九島 ポルシェの社会貢献活動は、実に有意義なプロジェクトだと感じました。ユーザーやファンにとっても誇らしい取り組みだと思います。今日は勉強になりました。
プロフィール
くろいわ しんじ/ポルシェジャパン広報部長。1970年米国生まれ。慶應義塾大学理工学部卒業。メルセデス・ベンツ日本、日産自動車、カッシーナ・イクスシー、リーバイ・ストラウス ジャパン、フィアットクライスラー(現Stellantis)ジャパンを経て、2018年より現職。広報では珍しい理系出身。輸入車業界の名物広報部長として知られる
くしま たつや/モータージャーナリスト。2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。「Car Ex」副編集長、「American SUV」編集長など自動車専門誌の他、メンズ誌、機内誌、サーフィンやゴルフメディアで編集長を経験。趣味はクラシックカーと四駆カスタム。黒岩氏とは前職のイタリア、アメリカ企業勤務の時代から公私ともに深く交流。