マツダ・アンフィニRX-7(FD3S型)。3代目RX-7は、マツダ787Bがル・マン24時間レースを制した1991年に登場。当初は当時の販売ブランドの「アンフィニRX-7」、1997年からは「マツダRX-7」を名乗った。開発コンセプトは「THE SPORTS CAR」。低重心化と徹底した軽量設計、そして何より13B型2ローター・ロータリーターボのポテンシャルアップで、圧倒的なパフォーマンスを実現。速さはまさに圧巻で、見事なフットワークともに、多くのマニアを魅了した
「リアルスポーツカーRX-7」に磨きがかかり、いよいよ本物になった。「金持ちは3代目で本物の金持ちになる」とよくいわれる。RX-7にも、そんなたとえが当てはまる。そう、3代目にしてついに、RX-7は押しも押されもしない実力派スポーツカーへと成長を遂げたのである。
地を這うように低く幅広いスタイリングは、スポーツカーだけに与えられた特権だ。新型RX-7は、その特権を見事に生かしきっている。ひと目姿を見ただけで、誰もが「走りへの熱い期待」を抱くに違いない。
アンフィニRX-7はカッコいい。ダイナミックだし、個性的だし、存在感も強い。もう誰も「ポルシェみたい」とはいわないだろう。「プアマンズ・ポルシェ」という表現は死語になった。
コクピットは魅力的な仕上がりだ。かなりタイトなコクピットだが、ドライバーとクルマの一体感はいや応なしに高まる。そしてウィンドウを通して目の前には、キックアップした左右のフェンダーの峰が見える。これが車両感覚をつかむための絶好のポイントになることは、少し経験のあるドライバーなら、直感的にわかるはずだ。このフェンダーデザインのおかげで、1765mmの車幅は少しも苦にならない。ワインディングロードをホットに攻めるときでも、イン側の溝にタイヤ半分を落として走る、といった表現が使えるような、ギリギリのコーナリングに容易にトライできるのである。これはリアルスポーツにとって、大きな魅力ポイントになる。
コクピットのデザインや仕上げもいい。ダッシュボードにしても、センターコンソールにしても、あるいは左右のドアトリムにしても、右ハンドル用と左ハンドル用がそれぞれ専用の設計となっているのは贅沢だ。シートはリクライニングとスライドの調整ができるだけだが、ボクにはそれだけで十分だった。激しい走りにも姿勢の崩れは少ない。長時間のドライブでもお尻が痛くなったりしない。腰椎のサポート性はいまひとつだが、そこがクリアできれば文句ナシのシートになるだろう。
エンジンはツインローターの13B型で、シーケンシャルターボを組み合わせ、255ps/6500rpmの最高出力と、30.0kgm/5000rpmの最大トルクを引き出している。
いまや280psが珍しくない日本の高性能車のなかにあって、255psというパワースペックはとくに刺激的とはいえない。目立つレベルでもない。ただし、そのパワーに組み合わせるウェイトが1260kg(タイプR)だと知れば、印象がガラリと変わるはずだ。新型RX-7は非常に軽く仕上がっている。そして、それが素晴らしい走りを実現した最大のポイントになった。タイプRのパワーウェイトレシオは、4.9kg/psにすぎない。これはポルシェ911カレラ2を軽く凌ぎ、ほんのわずかだがフェラーリ348tbをも凌いでいるのである。
イエローラインが始まるのは、7500rpmからである。フルスロットルでスタートすると、1速/2速ギアでは文字どおり「アッという間に」7500rpmに達し、警告音が鳴り出す。その間のシフト操作は実にあわただしいが、軽くしかも確実なギアボックスは強引なほど速い操作をしても、ついてきてくれるだけの能力を十分に持っている。
それにしても、とにかく速い。レシプロ大排気量エンジンのような強引な加速という感じではなく、より洗練された軽快な加速感だ。切れ味も鋭い。とりわけ2段目のロケットに点火する5000rpmからの加速には、凄みさえ感じる。山岳ワインディングロードでも、5000rpm以上をキープしていれば、上り勾配を平坦路に感じるくらいに速い。とくに3速までならなおさらだ。
新型RX-7は速く走るだけが取り柄のクルマではない。日常領域の走りも決して不得手ではない。ロータリーエンジンというと、低速域でギクシャクしたり、低速トルク不足で頻繁なシフト操作を強要されたり、といった経験を思い浮かべる人は少なくないだろう。
確かに、過去のロータリーエンジンには、そんな印象を持たれてもやむを得ないところがあった。新型RX-7からはそんな悪癖は姿を消している。エンジンは低回転域でも滑らかに回り続けるし、少なくとも1500rpmに達すればトルクに不足はない。パワートレーンの躾はいい。だから、低速でも、まるで具合のいいNAレシプロ車のように滑らかに走る。
街をゆったり流すのに何の苦もないし、音楽を聴いたり、助手席のパートナーとの楽しいおしゃべりを邪魔される心配もない。「せわしないロータリードライビング」は、もう過去のものになった。
シャシー能力の報告に移ろう。シャシーの能力というと、すぐにサスペンション形式がどうのこうのといった話になりがちだ。新型RX-7の場合は車重が軽いこと、トレッドが広く重心が低いこと、バネ下重量が軽いこと、そしてボディ前端部に近いパーツほど徹底して軽量化したことなど、優れた運動性能を得るために必要な、物理的な基本をしっかり押さえている点に注目したい。
RX-7でワインディングロードを攻めた。ここでもまず「速い!」という印象が強烈な体験としてボクの意識にインプットされた。前述のように、タイトなコクピットはクルマとの一体感を強くしてくれるし、フェンダーの峰はタイヤの位置を確実に教えてくれる。だから、ドライビングのリズムが作りやすい。コーナーへのアプローチにも自信が持てる。
基本的な回頭性のよさと、素直なハンドリングキャラクターは、労せずしてイメージしたラインにクルマを乗せてくれる。ステアリングゲインが不必要に高くないのも好印象だ。このあたりはRX-7が大人のスポーツカーになった証拠だろう。とにかくポテンシャルの70〜80%までのコーナリングなら、ドライバーは何もしなくていい。ただステアリングをイメージしたとおりに操作するだけだ。それでも半端なライバルなどまったくついてこられないくらいに速い。
通常領域の新型RX-7には、とくに注文をつけるところはない。よくできている。しかし、パワーのすべてを使い切って、限界域に挑戦しようとなると、いくつか難点が頭をもたげてくる。
まずタイヤだ。タイプRの標準タイヤはウォーミングアップをすればとてもいい性能を発揮してくれる。だが、十分に温まっていない状態では印象が変わる。グリップレベルは物足りないし、限界での滑りの挙動などもやや唐突。ギクシャクした感じになりがちだ。
リア側のロールも少し深めという印象がある。これはトラクションとの兼ね合いからきているものだろう。トラクション面での不足を少しロールを深めることでカバーしようとしているのではないか。限界域まで追い込んでいくと、バンプストッパーのチューニングとも相まって、旋回挙動にリニアリティを欠く結果になっている。
また高速コーナーを追い込んでいくと、あるところから平行ロールが強く感じられるようになる。同時に強めに切り込んでいくような挙動が出る。高速コーナーでのこうした挙動は、当然不安要素になる。将来のリファインを望みたい。
タックインはきっちり抑え込まれている。これは腕の未熟なドライバーにとっては朗報である。しかし、リアルスポーツカーとしては、抑え込みすぎではないか。腕の立つドライバーが、アクセルコントロールをきっかけにしていろいろなテクニックを使う範囲というか、楽しみというか、そんな部分をかなり制限してしまっている。
急激すぎるタックインはもちろん論外だが、限界域でアクセルを軽く抜いたとき、滑らかにしかもわずかにテールが流れるといったたぐいのタックインなら、テクニックをより幅広く使える。絶対的に速いか遅いかは別として、コーナーのコントロール範囲が広がる分だけ、クルマを操る楽しさも増す。
少なくとも「走りのタイプRグレード」だけでも、こうした方向のチューニングを与えてほしい。そう、タイプRには旧型のアンフィニ仕様的なキャラクターをボクは望みたいのだ。
ボディ剛性は旧型に比べると大きく上がっているが、絶対レベルで見るともうワンランク引き上げたいところだ。乗り心地は固めではあるが、決して不快ではない。ブレーキは、かなり激しく使ってもなんとか耐えてくれた。
いくつか注文もつけたが、新型RX-7にはスポーツカーとして、素晴らしい資質と性能が与えられている。課題として指摘したポイントは、将来への期待ゆえと思ってもらいたい。
※CD誌/1992年1月10日号掲載