ベントレーのコンティニュエーションシリーズ「スピードシックス」が世界初公開

ベントレーが1930年開催のル・マン24時間レースで優勝した「6 1/2リッター スピードシックス」のワークスレースカー仕様を復刻させたコンティニュエーションシリーズ「スピードシックス」を発表。生産台数は12台

 英国ベントレーは2023年7月13日(現地時間)、グッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード2023において、1930年開催のル・マン24時間レースで優勝した「6 1/2リッター スピードシックス(Bentley 6 1/2 litre Speed Six)」のワークスレースカー仕様を復刻させたコンティニュエーション(継続、持続の意)シリーズ「スピードシックス(Speed Six)」を初公開した。ユーザー向けのスピードシックスは12台の限定生産となるが、すでに完売している。

▲ベントレーが1930年開催のル・マン24時間レースで優勝した「6 1/2リッター スピードシックス」のワークスレースカー仕様を復刻させたコンティニュエーションシリーズ「スピードシックス」を初公開

▲ベントレーが1930年開催のル・マン24時間レースで優勝した「6 1/2リッター スピードシックス」のワークスレースカー仕様を復刻させたコンティニュエーションシリーズ「スピードシックス」を初公開

 

 ベントレーは先に同社の歴史的なアイコンである1929年製「ベントレー 4 1/2 リットル“チーム・ブロワー”(Bentley 4 1/2 litre“Team Blower”)」を復刻させたコンティニュエーションシリーズ「ブロワー(Blower)」を発表しているが、今回のスピードシックスはそのブロワーに続く2作目に位置する。

▲ユーザー向けのシピードシックスは12台の限定生産となるが、すでに完売。今回公開したスピードシックス「カーゼロ(Car Zero)」はパーソンズネーピアグリーンの外装色を纏う

▲ユーザー向けのスピードシックスは12台の限定生産となるが、すでに完売。今回公開したスピードシックス「カーゼロ(Car Zero)」はパーソンズネーピアグリーンの外装色を纏う

 

 改めて6 1/2リッタースピードシックスとはどういうクルマだったのかを紹介しよう。

1919年に「ベントレー モーターズ」を設立したウォルター・オーエン(W.0.)ベントレーは、早々に3リットル(2994cc)直列4気筒OHCエンジンを完成させ、この新ユニットを搭載したベントレー1号車をオリンピアで催された英国モーターショーに出展する。以後、テストと改良を重ねた同車は、「ベントレー 3リットル(Bentley 3 litre)」として1921年に発売された。ベントレー 3リットルは、そのオーナーとなった英国紳士たちのドライブによって数々のレースで活躍。1923年開催の第1回ル・マン24時間レースでは、ベントレーのファクトリーチームから参戦したジョン・ダフ/フランク・クレモン組の駆るベントレー 3リットルが堂々の4位入賞を果たし、さらに翌年のル・マンでは同選手組が見事に優勝を飾った。

 一方で開発現場では、より高性能で高級なクルマのプロジェクトに着手。新エンジンとして6.5リットル(6597cc)直列6気筒OHCエンジンを製作し、このエンジンを搭載した「ベントレー 6 1/2 リットル(Bentley 6 1/2 litre)」を1926年に市場に放つ。スミス5ジェットキャブレターにツイン・マグネトーを組み込み、圧縮比を4.4:1とした6 1/2リットルエンジンは最高出力147bphを発生した。さらに、スピードシャシーを採用した6 1/2 リットルの高性能バージョンとなるスピードシックスを1928年に設定。6 1/2リットルエンジンはツインSUキャブレターとハイカムシャフトを組み込むとともに圧縮比を5.1:1まで高め、最高出力は180bhpを絞り出す。また、スピードシックスのシャシーはホイールベース138インチ(3505mm)、140.5インチ(3569mm)、152.5インチ(3874mm)から選択可能で、このなかでショートシャシーが最も人気が高かった。結果的にスピードシックスは1928年から1930年にかけてリリースされ、生産台数は182台を数えた。

 さらに、ベントレーはスピードシックスのファクトリー・レーシングカーも開発。6 1/2リットルエンジンは専用セッティングのツインキャブレターに二重点火システムなどを組み合わせ、同時に圧縮比を6.1:1まで高めて、最高出力を200bhpへと引き上げる。また、シャシーフレームは134インチ(3327mm)とショート化して運動性能を高めた。そして、ベントレー車を駆ってレースで活躍した、いわゆる“ベントレーボーイズ”のドライブによって、数々のレースで活躍。とくにル・マン24時間レースでは、1929年大会でヘンリー・ラルフ・スタンレー“ティム”バーキン卿/ウルフ・バーナート組の1号車のスピードシックスが総合優勝し、後にジャック・ダンフィー/グレン・キッドストンの9号車、Dr.ダドリー・ベンジャフィールド/アンドレ・ド・エアランガー組の10号車、フランク・クレメント/ジャン・シャサーニュ組の8号車のベントレー 4 1/2 リットルが第2位~4位で続く。さらに、1930年大会ではウルフ・バーナート/グレン・キッドストン組の4号車のスピードシックスが総合優勝を果たし、続く第2位にはフランク・クレメント/リチャード・ワトニー組の2号車が入った。

▲スピードシックスを復刻するに当たり、ベントレーのオーダーメイドおよびコーチビルド部門であるマリナーはプロジェクトチームを組み、オリジナルのスピードシックスを徹底分析してデジタルモデルを作成し、その後はオリジナルと同じ設計、同じ工程で製造する。ベントレーのウイングバッジのB周囲はオリジナルと同様に緑で彩る

▲スピードシックスを復刻するに当たり、ベントレーのオーダーメイドおよびコーチビルド部門であるマリナーはプロジェクトチームを組み、オリジナルのスピードシックスを徹底分析してデジタルモデルを作成し、その後はオリジナルと同じ設計、同じ工程で製造する。ベントレーのウイングバッジのB周囲はオリジナルと同様に緑で彩る

 スピードシックスを復刻するに当たり、ベントレーのオーダーメイドおよびコーチビルド部門であるマリナーはプロジェクトチームを組み、オリジナルのスピードシックスを徹底分析してデジタルモデルを作成し、その後はオリジナルと同じ設計、同じ工程で製造する。また、スピードシックスの仕様が正確かつ正統であることを保証するため、とくに1930年のル・マン24時間レースに出場したファクトリー・レーシングカーの仕様とセットアップに焦点を当て、広範な調査を実施。可能な限り多くのオリジナル図面を使用し、その80%はW.0.ベントレー・メモリアルファウンデーションを通じて入手する。図面にはベントレーヘリテージコレクションに収蔵されている1930年のスピードシックスや、オールドナンバー3として知られる1930年のル・マン出場車両から入手したデータとともに、1929年と1930年のレースの変更点を詳細に記したオリジナルのメカニックノートも反映させた。

▲カーゼロのインテリアはタンレザーで仕上げる。ドアトリムには製造を担った“Mulliner(マリナー)”のネームを刻印したプレートを配備

▲カーゼロのインテリアはタンレザーで仕上げる。ドアトリムには製造を担った“Mulliner(マリナー)”のネームを刻印したプレートを配備

 

 6 1/2リットルエンジンは600を超える新しい部品を使いながら組み立てられ、最初のダイノテストでは最高出力が205bhpと、1930年にレースチューニングされたオリジナルエンジンの記録に対して5bhpの誤差に抑える。さらに、内外装に使用する素材およびパーツはオリジナルを忠実に再現。当時のパーソンズの5色の外装色を再現するために、マリナーのスタッフはハンプシャー州ボーリューの国立自動車博物館のアーカイブを訪問して分析した。今回公開したスピードシックス「カーゼロ(Car Zero)」はパーソンズネーピアグリーンの外装色を纏い、インテリアはタンレザーで仕上げる。また、顧客向け車両には装着されない、さらなる計器類を装備。これはテストプロセスをサポートし、今後6カ月間に渡り様々なデータを収集・記録するために追加したものである。ちなみに、実使用での耐久性テストプログラムは8000kmのサーキット走行を含む3万5000kmの実走行をシミュレートできるようにプランニングしているという。

▲6 1/2リットルエンジンは600を超える新しい部品を使いながら組み立てられ、最初のダイノテストでは最高出力が205bhpと、1930年にレースチューニングされたオリジナルエンジンの記録に対して5bhpの誤差に抑える

▲6 1/2リットルエンジンは600を超える新しい部品を使いながら組み立てられ、最初のダイノテストでは最高出力が205bhpと、1930年にレースチューニングされたオリジナルエンジンの記録に対して5bhpの誤差に抑える

 

 なお、今回公開されたスピードシックス「カーゼロ」は、実際の使用条件での耐久性とサーキットでのテストからなる開発プログラムに使用された後、すでに販売済みとなっている12台の顧客向け車両の製造に先立って、ベントレー本社が保有する予定である。

 

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