
Porsche 911 Carrera Coupe Reimagined by Singerはアメリカ西海岸に本拠を置くラグジュアリースペシャリスト、シンガーの最新作。代表のロブ・ディキンソン氏は「1980年代のワイドボディモデルをオマージュし、その時代を称えながら21世紀のために再構築した究極の自然吸気モデルの提案」と説明する
長年自動車メディアに携わっていると「カーガイ」に出会う機会が多々ある。オーナー取材はもちろん、開発者インタビューもそうだ。出会うたびに彼らの情熱に圧倒される。今回、2025年10月に富士スピードウェイで行われた「CORNES DAY(コーンズデイ)」でもそんな人物に出会った。シンガー(Singer)の創業者兼代表取締役会長のロブ・ディキンソン氏である。ニューモデルの発表時に行われたトークショーで、彼はクルマに対する熱い想いを語った。
その内容を要約すると、自身は「カーガイ(Car guy)」ではなく「カーボーイ(Car Boy)」だったという。つまり、幼い頃からの父親の影響でクルマが大好きになった。彼がポルシェに魅了されるようになったのは5歳のとき。家族で南仏をドライブしていた際に、ある1台のクルマ―グリーンの1970年式911Sタルガ―、を目にしたのがきっかけだった。その対象がポルシェ911というからすべてがつながる。今日のシンガーの存在はそんな幼少期の想いが根底にあるのだろう。ポルシェ911への深い愛情とリスペクトが礎になっている。
そんな彼が「CORNES DAY」でジャパンデビューさせたのが、Porsche911 Carrera Coupe Reimagined by Singerである。世界初披露は今年のグッドウッド・フェスティバル・オブ・スピード。
ベースになったのはもちろんタイプ964で、それを分解するところからすべてが始まる。タイプ964に最新の技術とパーツを積み込み、そのポテンシャルを最大限に引き出し、ファンな走りをオーナーに提供する。シンガーはディキンソン氏のタイプ964への深い思い入れからそのオマージュとして制作している。
Porsche911 Carrera Coupe Reimagined by Singerの詳細を見ていこう。エンジンは4リッターフラット6を搭載する。1気筒あたり4バルブで、可変バルブタイミング、水冷シリンダーヘッド、空冷シリンダー、電動ファンを備えて生まれ変わった。このエンジンの設計・開発はコスワース(Cosworth)との共同プロジェクトであり、可変バルブタイミングや燃焼室の設計、吸排気経路の最適化といった分野で彼らの経験が活かされている。結果、最高出力は420psというから恐れ入る。しかも、8000rpm超の高回転を許容する。そもそも当時の自然吸気ユニットは高回転型ではないのはご承知のとおりである。ギアボックスは6速MT。新開発のチタン製エキゾーストシステムが、フラットシックス本来の伸びやかな吹き上がりとシンガーらしい官能的なサウンドを提供してくれるそうだ。
シャシーはレッドブル・アドバンスド・テクノロジーズ(Red Bull Advanced Technologies)の協力のもと強化。世界トップレベルのシミュレーション技術と構造分析能力が用いられた。タイプ964のモノコックボディを核に、最適な補強が行われ高い剛性を生み出している。それにより、鋭いハンドリングや効率的なストッピングパワーを生み出している。ブレーキには、DLS(Dynamics and Light-weighting Study)プログラムを通じて開発されたカーボンセラミックブレーキをオプション設定。それが18㌅センターロックホイールの背後に収まる。この他では、ボッシュ(Bosch)と共同開発した最新世代のABS、トラクションコントロール、スタビリティコントロールを搭載するなど、電子デバイスもふんだんに装備する。サスペンションには電子制御の減衰圧調整機能を備えた4ウェイ・リモート調整式ダンパーが採用され、精緻なスポーツハンドリングを実現する。
インテリアも忘れてはならない。レザーにはステッチ&バーニッシュ仕上げの縫い目が施されており、高級感を醸し出す。これは職人が手作業で、1台仕上げるのに約400時間も費やすというからすごい。ダッシュボードやトリムはもちろん、レーシーなバケットシートにもこうした技術が使われている。これは一例で、所有者は個人の好みに合わせて内装をカスタマイズできる。要するにすべてがビスポーク。ドライビングポジションはギアシフターの仕組みと合わせて理想的な位置に配置されるし、計器類は馴染みのあるレイアウトをリイマジンし、手作りの計器が高級時計のような雰囲気を表現する。
というのが、今回ジャパンデビューした、Porsche911 Carrera Coupe Reimagined by Singerの概要。ポルシェ911リイマジンドバイシンガーは1台1台がカスタマイズしたビスポークなので、多くを語ることはできないが、確実にいえるのはこれまでとは異なる体験ができるということ。今回シンガーがレストアした2台のクルマに試乗させてもらったが、まさにそんな体験をした。走りは、これがシンガーなのかと思わず口にしたほど鮮烈。スーパーカーを含めこれまで数々のクルマを走らせてきたが、この感覚はまったく持って新しく感じられた。
Porsche911 Carrera Coupe Reimagined by Singerを日本初披露した「CORNES DAY 2025」についても簡単に紹介しておこう。「CORNES DAY」は、フェラーリ、ランボルギーニ、ロールス・ロイス、ベントレーなど世界のトップブランドを扱うコーンズ・モータース&C.P.S.(ポルシェセンター浜田山)がプロデュースする年に一度の祭典。2025年は10月19日に富士スピードウェイで開催され、全国から多数のコーンズ・ファミリーが参集した。プログラムはパレードラン、スポーツ走行、CORNES Dynamic Rideモビリタ試乗会など盛りだくさん。話題のフェラーリ812テスタロッサやランボルギーニ・テメラリオの展示も注目を集めた。会場には2025 SRO Japan Cupのチャンピオンマシン(上写真・左)とGT World Challenge Asiaに参戦する266GTSやF40など往年のスーパースポーツも展示。本格的レーシングシミュレーターも体験可能だった。
