【モータースポーツ特集2025】SUPER FORMULA/SUPER GT/スーパー耐久。国内トップレースの楽しみ方

速さ、レベル、そして観客動員ともに国内最⾼峰の2⼤シリーズ
“推し”ドライバーやチームを応援するファンたちにも注⽬

 いま、日本で最も人気のあるレースカテゴリーといえばスーパーGTだろう。1994年に全日本GT選手権として開催以降、観客/参戦車種/参戦チームが増加。

 2005年からはFIA公認の国際シリーズとなり、スーパーGTと呼ばれるようになった。

各チームに華やかな彩りを添えるレースアテンダント。フォトジェニックなコスチュームで写真家の撮影意欲をかき立てる。カラフルなマシン/精悍な表情のドライバーとのコントラストの妙も写真映えする

 1つのレースにGT500/GT300という性能の異なる2つのクラスのマシンが混走するためレース序盤から混戦となり、GT500のドライバーはGT300を上手に交わしながら、GT300のドライバーはGT500に上手に抜かれながらと、お互いを邪魔せずにタイムロスを抑えてバトルする高いスキルが求められるレースだ。

今年6月に開催された第3戦(鈴鹿)の300クラスで優勝したD'station Racing。チームの総監督はNPB・MLBで活躍した佐々木主浩さん。サーキットは想定外の有名人に会えるチャンスがいっぱい

 GT500クラスは現在、トヨタ/日産/ホンダの3社が参戦。いわゆる“ワークス”の戦いだ。かつては量産車ベースだったが、2014年からは開発コストを抑えるためにシャシー周りの主要部品の多くを共通化。エンジンは独自開発の直列4気筒2ℓターボ(スーパーフォーミュラと共通)だ。外観は市販車に近いが、中身は完全に別物。

2023年は8月の第4戦(富士スピードウェイ)で室屋義秀選手がフライトパフォーマンスを披露。メインストレート上空を“3次元のモータースポーツ”が世界水準のフライトテクニックで観客を魅了した

 GT300クラスは車種バリエーションが多い点が特徴で、その中でも日本独自のJAF-GT規定(改造範囲が広い)と、世界共通のFIA-GT3規定(コストが抑えられる)のマシンに分類される。どちらにも持ち味があるが、性能差を抑えるため出力制限や重量調整が行われている。ちなみにFIA-GT3車両は市販モデルに近いスペックだが、JAF-GTは市販車の面影はあるが中身は別物も多い。

ランボルギーニGTは300クラスに分類される

 タイヤは世界の主要レースカテゴリーでは珍しいマルチメイク。その開発はマシン以上に熾烈かつシビアといわれている。

 レースは300/350㎞、もしくは3時間とそれほど長くはないが、主催者(GTアソシエーション)は「独り勝ちではなく、接近したバトルを見てほしい」という考えから、上位入賞マシンにはサクセスウェイトと呼ばれるウェイトを積まなければならない(GT500は50㎏を超えると燃料流量リストリクター径の調整も併用)。

 そのため、純粋な速さがわかりにくいが、それも踏まえたセットアップやレースマネージメントが求められるため、勝つためにはドライバーの技量に加えてチーム力が重要。“速さ”よりも“強い”チームが勝つというわけだ。そういう意味では、ドライバーもチームも主役だ。

 規則は複雑だが、ドライバーやチーム監督、レースアテンダントは日本トップレベルが集まるので、とにかく華やか。個人的にはレース全体を俯瞰して見るよりも“推しのチーム”や“推しの選手”を見つけて、全力で応援するのが一番の楽しみ方だと思っている。

ピュアに最速ドライバーを決める世界、スーパーフォーミュラ

 日本で最高峰かつ最速のフォーミュラレースシリーズ(SF)。1973年のF2000選手権、1978年からのF2選手権、1987年からのF3000選手権、1995年のフォーミュラニッポンを経て、2013年よりスーパーフォーミュラと呼ぶ。

昨年7月、サッカーJ1リーグの川崎フロンターレは“川崎市制記念試合Fサーキット”を開催。スーパーフォーミュラとコラボし、等々力陸上競技場でフォーミュラマシンを走らせてファンを圧倒

 シャシー(ダラーラSF23)やカーボンニュートラルタイヤ(ヨコハマ製)は共通。エンジンはトヨタ/ホンダが供給するが性能は同一。

 つまり、イコールコンディションのため、ドライバーの実力が勝敗に直結する。要するに「国内トップの21人のドライバーの中で誰が一番速いのかを決める」という単純明快なレースといっていい。その速さはF1に次ぐといわれ、世界の舞台で活躍するトップドライバーを輩出している。

スーパーフォーミュラはキッザニアとコラボして“アウトオブ・キッザニア・イン・スーパーフォーミュラ”を開催。子供たちにサーキット内で行われているさまざまな仕事の体験チャンスを提供している(有料)

 ただ、その実力とは裏腹に観客にはその面白さがまったく伝わっておらず、人気は低迷していたのも事実だった。筆者も別件でサーキットに行った際に、観客があまりにまばらなので、「これはフリー走行かな?」と思っていたら、何と決勝だったことも……。

体験できる仕事はエンジンスタートコーラー/チームマネージャー/レーシングタイヤサービス/グリッドボードホルダー/場内アナウンサー(写真)など多岐にわたる©KCJ GROUP

「このままではレースがなくなってしまう」

 そんなSFを主催するJRP(日本レースプロモーション)の危機感から生まれたのが、2021年に「スーパーフォーミュラNEXT50」だった。カーボンニュートラル実現に向けた実験やエアロダイナミクスなど未来に向けた取り組みに加えて、レースの新しい楽しみ方の提案も実施。その一つが新デジタルプラットフォーム「SFgo」である。 SFはドライバーが主役であるにも関わらず、これまでそのストーリーが伝わっていないかった。テレビ放送はトップ争いのみで推しの選手がそこに絡んでいないとその状況はわからない。ドライバーファーストなレースなのに、ドライバーに光が当たっていなかったのだ。

Juju(野田樹潤)選手は幼少期にカートを始め、着実にステップアップ。2023年はF2000トロフィー(イタリア)で14戦8勝、女性初のシリーズチャンピオンに輝いた。今季からスーパーフォーミュラに参戦

 そこを根本から変えるSFgoはレース全体の視聴はもちろん、お気に入りのドライバーのオンボード映像やテレメトリー情報を好きな時に切り替えて視聴が可能。これまで聞くことが困難だったチーム無線まで聞けるのだ。ドライバーがいま何をしようとしているのか、どんな気持ちなのか……をリアルタイムで共有できるのだ。逆をいえばチーム側も情報がバレてしまうが、それも面白い。

 そんな大改革も相まって、2023年の入場者数は前年比165%(10万人→17万人)と大きく増加している。現在JRPの会長はマッチこと近藤真彦氏が務めるが、「自治体の首長や省庁のトップも興味を持ち始めてくれている。まだまだやることはたくさんあるが、確実に前進できたという手ごたえはある」と語る。

 昨年SFを戦った平川亮選手は現在F1マクラーレンのリザーブドライバーを務める。今年SFに参戦する岩佐歩夢選手は、F1日本GPのプラクティス1にRBのマシンをドライブした。SFから次世代のF1ドライバーが生まれる、それを見届けられるシリーズだ。

スーパー耐久(S耐)シリーズの富士24時間レースは花火大会を楽しむ場としてレース観戦に出向くのも一興

市販⾞ベースのレース⾞両が競い合う迫⼒を前に
不思議とゆっくり流れる時間を楽しめるイベント

 一般的にモータースポーツ観戦は他のスポーツ観戦と比べると取っ付きにくいと思われがちだが、実際は多くの人がモータースポーツ観戦をさまざまな方法で楽しんでいる。自宅でTV/ネット中継などを見て楽しむのもありだが、リアルはもっと楽しい。

トヨタ/ホンダ/日産/SUBARU/マツダの5メーカーはスーパー耐久参戦を通じてカーボンニュートラルの実現に向けて協調して技術開発を進める“共挑”の決意を明らかにした

 そこで今回、日本をはじめ世界のモータースポーツ取材を続けててきた筆者が、モータースポーツ観戦の初心者にお勧めしたいカテゴリーとして、スーパー耐久シリーズ(通称:S耐)を紹介する。

マツダの55号車はバイオ燃料を使ったマツダ3。ドライバーの前田育男選手はマツダのデザインを率いる取締役

 その名のとおり3~4名のドライバーによって長距離(時間)を走る耐久レースで、短いレースでも3~5時間、最長は24時間戦う。そのため、マシンは絶対的な速さだけでなく、信頼/耐久性、ピット作業や戦略を含めた総合力が勝敗の重要なカギとなる。

トヨタ自動車の豊田章男会長はMORIZO名義でST-Qクラスの32号車・GRカローラH2コンセプトで出場。近藤真彦・日本レースプロモーション会長もこのチームに参加している

 マシンはエンジン/車体共に大幅な改造が認められているスーパーGTに対して、出場クラスで改造範囲に差はあるものの、基本的には“量産車”をベースにレーシングカーに仕立てたマシンで争う。

61号車のSUBARU・BRZはCNFを使っている。スーパーGTなどに参戦する井口卓人選手らを擁して出場。ホンダ・シビック・タイプRはCNFを使っている。いずれのマシンも参戦の狙いは、レースを通じてCN技術開発のスピードアップを図ることにある

61号車のSUBARU・BRZはCNFを使っている。スーパーGTなどに参戦する井口卓人選手らを擁して出場。ホンダ・シビック・タイプRはCNFを使っている。いずれのマシンも参戦の狙いは、レースを通じてCN技術開発のスピードアップを図ることにある

 クラス分けの多さと豊富な車種バリエーションもS耐の特徴で、排気量/駆動方式などで区分されるST1~ST5に加えて、FIA-GT3車両が対象のST-X、FIA-GT4車両が争うST-Z、世界ツーリングカー選手権(WTCC)の発展形となるTCR車両によって争われるST-TCRなど、国際規格に準じたマシンも参戦可能だ。

日産フェアレディZ、ホンダ・シビックともに多数のカテゴリーに出場してきたキャリアを持つ。レース活動を通じて市販車にフィードバックされる技術や開発アプローチは多い

 注目は2021年から自動車メーカーの開発車両が参戦可能なST-Qである。このクラスには現在、トヨタ/スバル/マツダ/日産(NISMO)/ホンダ(HRC)と主要自動車メーカーが参戦。水素エンジンを搭載したGRカローラ・スポーツを筆頭に、カーボンニュートラル燃料を使うGR86/スバルBRZ/日産フェアレディZ/ホンダシビックタイプR、バイオディーゼル燃料を使うマツダ3などが参戦。カーボンニュートラル時代に向けた“走る実験室”としても活用される。

24時間を戦い切ればドライバーもチームスタッフも大きな感動が味わえる。総合優勝は773周のラップを刻んだ中升ROOKIE AMG GT3(ST-Xクラス)が獲得。写真の7号車はST-2クラス6位

 ちなみにS耐のサイトには、「スーパー耐久の理念」が記載されているが、抜粋するとこのような内容である。

・環境に配慮しながらモータースポーツ社会の発展
・培ってきた知識・技術を自動車産業、モータースポーツマーケットに繋げる
・モータースポーツを次の時代に繋げる

 発足当初はかなり高い目標だったと思うが、現在はこの理念に沿ったS耐になりつつある。2024年には、S耐の伝統を守りつつも、“未来”と“世界”に通ずるレースカテゴリーにするために新組織、STMO(スーパー耐久未来機構)が発足。理事長はモリゾウこと豊田章男氏が就任する。

マツダの12号車はCNFを使うロードスター。CNF燃料は「現時点ではガソリンほど燃費がよくない」開発状況にあるようだ

 そんなS耐は、これまで“参加して楽しむレース”として人気があったが、近年は“見て楽しむレース”にも力が入っている。

イベント広場の特設ステージでアイドルがライブを展開。もちろん推し活メンバーによる熱血応援パフォーマンスも標準装備。抑揚の効いたヲタ芸はサーキットの広場にもよく似合っていた

 サーキットに行くとリアルにレースが観戦できる一方で、レース状況は実況頼みで……という難点があった。

 このあたりはデジタル技術をフル活用。各レースを無料でライブ中継するSuper Taikyu TVやSNS(Twitter/Facebookなど)を用いた発信、S耐のサイトにはレース中のラップタイムや順位が確認できるタイミングモニターや各クラスのマシン/乗車中のドライバーなどが簡単に検索できるS耐カードなどを用意。どれも無料という点がしい。

スーパー耐久の24時間レースはレースを観戦する楽しみに加えて富士スピードウェイのイベント広場で開催される数々のイベントやキッチンカー・グルメを味わう楽しみがある。サーキットはお祭りだ!

「レース観戦は高額」というイメージがあるかもしれないが、それもS耐は心配なし。サーキットによって若干異なるものの、観戦券(自由席)なら5000円前後で購入可能。前売りだとペア割引やファミリー割引などもあるので、リーズナブルに観戦できる。パドックパスやピットウォークパス、グリッドウォークパスも他のレースと比べるとかなり手ごろな設定だ。

マクドナルドとトヨタのコラボで誕生したドリフトツインズの実車を展示(2024年)。ゴールドに輝くGRカローラ(左)とGR86は独特の存在感を放っていた。ハッピーセットでGRカローラをゲットしたも多いのでは

 ドライバーは国内外で活躍するプロドライバーからワンメイクレースからのステップアップ組、ジェントルマンドライバーまで多士済済。プロドライバーは他のカテゴリー出場時に比べてピリピリしていないので、サインや写真をお願いしやすい。金曜日の練習走行時は、いろいろな場所でフラッと会うチャンスも多いだろう。

ドライバーのサインをもらったり握手をしてもらったりする体験はサーキット観戦時の大きな楽しみ。出走前の貴重な時間でもドライバーたちは丁寧に対応してくれるので、応援に力が入る

「レースだけでは飽きる」と心配するファミリー層もいると思うが、それも大丈夫。S耐はレース以外のイベントも充実しており、車両展示(ニューモデル、競技車両・働くクルマなど)や物販(地元名産品/グッズ)、キッチンカーの出展、ステージイベント(ライブ&トークショー)などを実施。未来を知ることができるカーボンニュートラル科学館やRCカー体験など、大人から子供まで楽しめる内容だ。

カーボンニュートラルを推進する日本の自動車メーカーがスーパー耐久参戦で歩調を合わせているだけあって、イベント展示や体験コーナーは水素関連が多かった。水素足湯は水素ファインバブルの湯を提供

 S耐最大級の1戦、富士24時間耐久レースでは、サーキットのさまざまな場所でキャンプ(事前予約可能な場所もあるが、基本は予約なしで自由)やBBQが楽しめる。夜間の時間帯には打ち上げ花火も上がるなど、レースを中心とした祭典といっていい。

トヨタは水素燃料でエンジンを動かす32号車とカーボンニュートラル燃料(CNF)を使う28号車を投入。カーボンニュートラルの追求方法もマルチで進めている姿勢がわかる

 実はこれが、レース観戦初心者にとって大事な点だ。レースをキッカケに各々のスタイルに合わせたアクティビティを楽しむのである。レースを真剣に見るときもある、でもそれ以外を楽しむときもある。言葉を濁さずにいえば「レースを楽しむには、レースを一生懸命見ない」ほうがいい。筆者はそのような楽しみ方ができる人が増えることこそが、モータースポーツが文化になる秘訣だと信じている。

PHOTO/YOKOTA KOUJIROU+GTA+JRA+TOYOTA GAZOO Racing+FUJI SPEEDWAY

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