フェラーリがル・マン24時間と世界耐久選手権(WEC、ル・マン24時間はWECの一戦として開催されている)のトップカテゴリーに復帰する。最新の499Pが、そのマシンである。
これまでもフェラーリは、量産車ベースのLM・GTEというクラスでWECに参戦してきた。488GTEで戦ってきたマラネロは、2021年にシリーズタイトルを獲得するとともにル・マン24時間でもクラス優勝を手に入れている。だが総合優勝を狙えるのはLMP1と呼ばれるプロトタイプカーに限られていた。
そんな様相が大きく変わったのが2021年のこと。WECのトップカテゴリーがLMP1からハイパーカー(LMH)クラスに切り替わったのである。
このハイパーカー・クラス、もともとは量産車ベースのカテゴリーとして企画されたものだったが、プロトタイプカーも出場できるように方針転換がなされた。
LMHがLMP1と決定的に異なっていたのは、量産車の面影を持つレーシングカーにも門戸を開いた点にあった。
現代のレーシングカーがエアロダイナミクスの申し子であることはご存じのとおり。ただし、空力最優先で生み出されたボディ形状は、量産車とは似ても似つかないものになる。これが自動車メーカーにとっては障壁となっていた。自社ブランドのアイデンティティを感じさせるデザインでなければ、イメージ向上には役立たないと考えられていたからだ。
そこでWECを統括するFIAとル・マン24時間の主催者であるACOは、空力性能の目標値をあえて低めに設定。こうすることで、デザインの自由度を高め、量産車に近いスタイリングでLMHクラスに参戦できるようにしたのである。 「このタイミングでトップカテゴリーへの復帰を決めたのは、ルールが改正されたからです」 フェラーリのGTレース活動を統括するアントネロ・コレッタ氏は、そうはっきりと認めた。 「私たちにとってスタイリングは非常に重要でした」と語り、「人々が最初にこのマシンを見たとき、『あ、これはフェラーリだ!』と気づいていただけることが大切だったのです」と続けた。
フェラーリらしさを実現するため、開発チームはまず風洞実験を行って理想的なエアロダイナミクスを追求。そのうえで、量産車のデザインも手がけるフェラーリ・チェントロ・スティーレの協力を仰ぎ、最新のフェラーリ・ロードカーに近い形状に仕立て直したという。
499Pの薄いフロントノーズ形状や水平に伸びたヘッドライトは、どこか296GTBを思わせるものがある。低い位置で、水平に近い角度で形作られたサイドポンツーン形状も、296GTBのサイドビューに似ているといえなくもない。
ロードカーとの共通点は、外観だけに留まらない。499Pの3リッター・V6ツインターボは、296GTB用のシリンダーブロックをベースにしているというのだ。 「エンジンレイアウトは296GTBと同じ120度V6です。ブロックも基本的にロードカーと同じものを使っています。しかし499Pではエンジンをストレスマウント(シャシーにかかる応力の一部をエンジンブロックが負担するデザイン。軽量化、高剛性化に寄与する)しているので、ブロックの剛性は強化しています」
それにしても、量産車と同じ基本設計のエンジンがル・マンカーにも積まれているとは、296オーナーにとってこのうえなくうれしい話である。
499Pはこのエンジンで後輪を駆動し、フロントにはハイブリッド・システムを搭載して前輪を駆動する。これはLMHに参戦するハイブリッドカーに義務づけられたシステム構成である。システム出力が最高680ps、ハイブリッド・システムの出力が最高272psに制限されることも、規則で定められている。
フェラーリは2023年のWECに2台のワークスマシンを投入する。LMHにはトヨタが2021年から、プジョーが2022年から参戦している。フェラーリに勝機はあるのだろうか? 「私たちはライバルをリスペクトしています」とコレッタ氏。「私たちは今年7月にマシンを完成させたばかりで、ライバルのように1年前ではありません」
マシンの熟成という面で、彼らから遅れをとっているのは間違いない。 「しかし、開発は順調に進んでいます」
そう語るコレッタ氏は、栄冠を手に入れる自信に満ちあふれたような表情を浮かべていた。
2023年以降、WECは要注目である。