夢はF1ドライバー!中学生カーター・北村碧くんが父とともに挑む戦いへの思い【インタビュー】

中学生カーター、北村碧くんと父がともに挑む世界への戦い

文/鈴木ケンイチ 写真:Club Racing(小瀬広明)/北村・父

「2025もてぎKART耐久フェスティバル“K-TAI”」にて、クラブレーシングの95号車に助っ人ドライバーとして参加したのが、プロドライバーを目指してカートで戦う北村親子だ。その二人のこれまでの戦いと、これからの夢を紹介しよう。

カー・アンド・ドライバー統括編集長からのお誘い

 2011年3月生まれの中学3年生、北村碧(きたむらあおい)くん。2021年9歳からカートのシリーズ戦に参戦を続けるカートドライバーだ。そんな本格派のドライバーが、今年はじめて「2025もてぎKART耐久フェスティバル“K-TAI”」に参戦した。とある御縁もあって、CAR and DRIVER(以下、本誌)統括編集長・山本氏の誘いで、碧くんのメカニックとして帯同している父親と共にメディア主体のチーム「クラブレーシング」に加わることになったのだ。

 ちなみにこの「クラブレーシング」というチームは、その名に「クラブ」とあるように、「勝利至上」ではなく「レース愛好家チーム」という側面が強い。特に近年は、「自動車メディアの若者にレース経験を体験させること」を目的のひとつとしている。つまり、勝利を目指し、そして「夢はF1ドライバー」を願う北村親子とは、目的が異なる集まりだ。

本誌山本とともにマシンやコースの状況を共有し合う様子

 それでも「7時間耐久というフォーマットは初めての経験であり、普段のスプリントとは異なる、今後のレース活動のために学ぶところが多い貴重な体験だと考えました」(北村・父)と参戦を決めたという。ただし、エンジョイ派であることは予想外だったようだが、「それはそれで競争心が燃えました。私たちのノウハウで、どれだけ速くできるのか試そうと思いました」というのだ。

オープニングラップから快走をみせた北村碧くん

 実際に、北村親子の努力により、本誌山本や碧くんの駆る95号車は、練習走行から本番にかけてマシンセッティングを最適化し、1周あたり8秒ものタイムアップを果たすことができた。同じドライバー、同じエンジンのままでのタイム向上幅としては、驚くべきものだ。また、レース本番では、スタートドライバーを務めた碧くんが、スタート時の47番手から、わずか8周で総合12位まで順位を上げている。ドライバー個人だけで言えば、まさにベスト10入り直前までのポテンシャルを見せてくれたのだ。

苦戦続きをへて、今年の連勝につながる

 今年のK-TAIにおいて、抜きんでた速さを見せつけた碧くん。今期の参戦するシリーズ戦(SLカートミーティング 秋ヶ瀬 CAカートレース)では5戦5勝でランキング1位を獲得し、10月の全国大会への出場も決まっている。

小学生のころの北村碧くん(写真提供:北村・父)

 とはいえ、その碧くんの辿った道程は、常に光り輝いていたわけではないという。碧くんが最初にカートのハンドルを握ったのは小学4年の夏、8歳のとき。父の友人の誘いで体験走行に臨んだ。もともと「日産GT-R」が好きだというクルマ好きではあったけれど、カートの走りは、また格別なものであったという。

「ジェットコースターは自分で操れませんけど、カートは自分でやりたいようにできます。そういう自由な感じがすごく楽しかったんです」と碧くんは振り返る。そして、翌年の小学5年の夏から、自身のマシンを手に入れ本腰を入れてシリーズ戦で戦うようになったのだ。

着々と実力を伸ばし続けてきた北村碧くん(写真提供:北村・父)

 しかし、勝利は難しく、ましてや年間チャンピオンは遠かった。最初に挑戦したコマ―クラスでは、最初に3位に入賞したものの、その後は表彰台に縁がなかった。中学生になって移ったカデットクラスも同様だ。しかし、昨年から挑戦したSSジュニアクラスで徐々に順位を上げ、そして今年になって、一気に連勝できるようになったという。

「お父さん」がメカニックになった日

 この成績アップの理由のひとつが、お父さんの存在がある。もともと「お父さん」はクルマ好きではあったけれど、モータースポーツ経験者であったわけではない。それでもお父さんは碧くんの夢に対して、「やりたいことをやるのは良いんじゃないか」と応援することになったという。

碧くんに常に寄り添い気にかけている親子ならではの密なパートナーシップ

 それでも、最初からお父さんがメカニックをしたわけではない。事実、それまでにメカニックとしてのレース経験があったわけではなかった。「これまで、私のサポートも3つのフェーズがありました」とお父さんは言う。最初のフェーズが「チームに任せきりで、乗るだけ。終わったら、そのまま帰りました。結果はなかなかでません」。次に「専属メカニックをつけてもらいました。成績は良くなりましたけど、1位が取れません。コミュニケーションが足りなかったんでしょう」。そして最後のフェーズとして「専属メカニックの方から教えてもらって、僕がメカニックを直接担当するようになりました」。ここで成績が一気に向上したというのだ。

 

「負けると、息子が泣いているんですね。それを見て、自分も悔しくなる。その一方で、僕自身も燃えるんです。どうせやるなら、ちゃんとやろう!」とお父さん。「絶対に負けない」という強い気持ちで、セッティングを学び、速いマシンを用意できるようになったというのだ。まさに父と息子の二人三脚の努力が勝利を呼び寄せたということだ。

K-TAIに向けて体力アップとイメージトレーニングを重ねる

 そんなお父さんの努力に負けず、息子である碧くんもK-TAIに向けて努力を重ねていた。体力アップのために、走り込みと筋トレを行っていたのだ。「最初は、すぐに辛くなりましたけど、だんだん、楽に走れるようになりました」と碧くん。

2025年は開幕から勝利を重ねて絶好調の碧くん(写真提供:北村・父)

 また、K-TAIは公式練習が2回しかない。モビリティリゾートのレーシングコースをカートで走れる機会は、他にはないため、ぶっつけ本番になりがちだ。そのため、碧くんはユーチューブで過去のK-TAI参戦者の動画を探した。その走行動画をコース図片手に、アクセルやブレーキのタイミングを覚えたという。毎日、数時間をかけて動画を見て、エンジン音を聞き、イメージトレーニングを重ねたというのだ。その結果が、いきなり乗った初めてのカートと初めてのコースでも、速いタイムを安定して出すことができたというのだ。

将来はF1ドライバーになりたい!

 そんな碧くんの夢は「F1ドライバー」だ。「将来は何になりたいの?」と問いかけに、驚くほど真っすぐな答えがすぐに返ってきた。もちろん、その道の難しさは、本人も理解しているだろう。さらに言えば、お父さんは「大人になると、現実を見てしまうところは正直あるでしょう」と、あくまでも冷静だ。

K-TAI2025でクラブレーシング・アン(95号車)を駆る北村碧くん

「でも、本人がドライバーとしてやっていきたいというのであれば、彼の夢を応援していきたいと思います」とも言う。F1ドライバーになれなくとも、プロのドライバーの道は存在しているからだろう。夢は100か0という極端なものではない。目指すべき努力を重ねれば、最初の目的地とは違った場所になるかもしれないが、きっと納得ゆくゴールにはたどり着けるからだ。カートの自由さに魅了され、走り始めた碧くん。そのゴールもまた、自由であってよいはずだ。どんなゴールにたどり着くのかに注目したい。

K-TAIのグリッド決めはくじ引きで、47番手を引いた碧くん

筆者プロフィール

すずきけんいち/モータージャーナリスト。國學院大学経済学部卒業後、雑誌編集者を経て独立。自動車専門誌を中心に一般誌やインターネット媒体などで執筆活動を行う。モータースポーツは自身が楽しむ“遊び”として、ナンバー付きや耐久など草レースを中心に積極的に参加。新技術や環境関係技術に強く、見えにくいエンジニアリングやコンセプト、魅力などの説明を得意とする

雑誌『CAR and DRIVER』連動記事

本誌モータースポーツ企画内でレースレポートも掲載!

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