AAF展で目にした「絵のような瞬間」が忘れられない/田邉光則さんの代表作・好きな作品

作品が引き寄せてくれた、「忘れがたい光景」

作品1『静謐』/画材:キャンバスに油彩/制作:2007年

*絵画から文学まで、ドライブからスポーツまで、趣味は人生を豊かにし、「生きがい」として注目されています。
■あとで述べますが、そのとおりだと思います。昨年、ワークショップを開催したら受講者が大勢集まりましたので──。時代はエコノミックからカルチャーへと移行していると感じました。

*では作品1について教えてください。
■タイトルは『静謐』です。この作品の最大のポイントは、構図と、ヘッドライトの描き込みです。丸いヘッドライトを中心に据えて、見る人をそこに引き込むような作品に仕上げたいと思いました。ボクの大学時代の恩師、上田薫先生の「こういった絵は、見る側がどうやって描いたか、わからないくらい描き込まないと評価されないんだよ」という言葉が、制作中に何度も頭に浮かびました。
 作品1には、忘れられないエピソードがあります。以前、AAF展に出品したとき、雨の中を立ち寄ってくれた教会のシスターが、この作品の前で立ち止まってジッと鑑賞していました。その瞬間は「絵のような光景」としてボクの記憶に刻まれています。

*田邉さん自身がその光景に引き込まれたのですね。ある瞬間を絵の構図のように記憶する、カメラのシャッターチャンスのようですね。
■2年前、自宅(茨城県)から横須賀へクルマで出かけたときもそんな光景に出会いました。絶好の運転日和で、湾岸線を走りながらロードムービーの主人公のような気分でした。
 横須賀は、ちょっとした縁があって、いつか訪ねてみたいと思っていました。ボクの母方の祖父は海軍の軍人で、横須賀の海軍機関学校で学んでいたと母から聞いていました。祖父は太平洋戦争中フィリピンのレイテ沖海戦で帰らぬ人となり、ボクは会うことがありませんでした。
 横須賀の海岸線を走っていると、防衛大学校の学生たちが海辺の定食屋に並んでいました。よく晴れた日で、海がとてもきれいで、祖父も若いころこんなふうに友人たちと定食屋に並んだのかなぁ……と。戦後生まれののんきな孫は感傷に浸りつつ思いを巡らせ、彼らが戦場に向かうことがないようにと願いました。

作品2『薫風自南来』/画材:イラストレーションボードにアクリル絵の具/制作:2021年

*作品2は
■タイトルは、『薫風自南来』です。昨年、「上田薫とリアルな絵画展」(2021年10月26日~12月12日、茨城県近代美術館)の会期中、ボクが講師をつとめたワークショップの課題用に描き下ろしました。
 ボクの専門は油彩ですが、油彩は乾燥に時間がかかりますので、一日では仕上がりません。午前中と午後の計4時間で仕上がるように、アクリル絵の具を使用しました。
 受講生は「リアルな絵画」に挑戦したいという先着30名で、絵画未経験者から、現役の美術の先生まで老若男女いろいろな方々がいました。
 このときは、イタリア語で「インプリミトゥーラ」と呼ばれる有色下地の技法を用いて、暗い色から明るい色へ絵の具を塗り重ねて仕上げました。日本の美術教育では明るい所から暗い所へ塗り進めていくのが一般的ですが、有色下地の技法を実践して驚くような仕上がりを見せた初心者の方もいました。ボク自身とても勉強になり、有意義な一日でした。

*最近、鑑賞した映画は
■『シンウルトラマン』(樋口真嗣監督・庵野秀明総監修)は、圧倒的な迫力と見事なエンターテインメント性をそなえた映画でした。昭和のウルトラマンを見て育った世代には、あの怪獣(禍威獣)がこんな風にリメイクされた!とか、この宇宙人(外星人)が出てきた!など、旧作へのオマージュに心が躍り、上映時間112分が一気に流れる展開です。旧作を見ていない世代も楽しめると思います。

作者プロフィール
たなべみつのり/1967年、茨城県出身。 1992年、茨城大学大学院教科教育専攻美術教育専修修了。90年、一陽展・特待賞受賞、以降毎年出品。第23、24回現代日本美術展出品。2007年、AXIS GALLERYにて個展。直近では、2022年8月1〜6日、銀座で個展を開催する。愛車はアバルト595コンペティツィオーネ。一陽展会員、AAF(オートモビル・アート連盟)会員。茨城県結城市在住

インタビュアー/山内トモコ

SNSでフォローする