ピニン・ファリーナが手がけた華麗なクーペ/大内誠さんの代表作・好きな作品

ピニン・ファリーナがデザインした華麗な2ドアクーペ

 このクルマを知ったのは、1971年『Pinin Farina作品集』(二玄社刊)の1枚の美しい写真でした。そのとき「いつかは絵にしたいクルマだ」と思いつつも描く自信がなく。四半世紀も記憶の、頭の片隅に残っていました。

 ついに挑戦したのは、1997年の年賀状用としてです。

 このクルマ、1961年式キャデラック・スペチアーレは、当時のアメリカ合衆国のファーストレディ、ジャクリーヌ・ケネディのイメージをピニンファリーナがスタイリングした「ジャクリーヌ」という2シータークーペです。そう、気品あふれる「レッドカーペットの貴婦人」です。

 技術的に、透視画などのテクニカルな作品はガッシュ(不透明水彩絵の具)を使用しますが、この作品のように背景を描くときは、絵の具の特性が生きるリキテックス(水性アクリル絵の具)で描きます。マットな風合いのガッシュでは、なかなかカラリと仕上がらないので……。

 制作方法は、まず丁寧に資料をトレースしてボードに描き込み、着色します。この作品の場合は、背景の建物を先に描きました。クルマはボディカラーの描写が難しく、リキテックスのパーチメント色(イエロー系ホワイト)を使った記憶があります。カーペットの赤い色がボディに反射して、さまざまな部分にコントラストを与えていたので。

作品のハイライトはボンネットの映り込み

 大きなフロントガラスに映り込んでいる建築物の天井は、鉄骨とガラス張りのドーム型屋根で、この描写が作品のハイライトです。

 写真のスケールから判断して、小さく見える4灯のライトが、実車のサイズ(ホイールベース約3290mm、エンジンは6.4L・V8)を物語っています。

 結果は偶然、うまく描けて、お気に入りの1枚になりました。それは、無意識だったとしても、つねに長い間、構想を練っていたからかもしれません。

 ところで、背景の建物が何であるかは、まったくわからない状況でしたが、2010年、パリでグループ展を開催した際、見学者から「この場所は当時のパリサロンの会場、グラン・パレだ」と聞き、訪ねてみました。

   セーヌ河沿にあるそのグラン・パレは、1900年のパリ万博のために建てられた大規模展示場であり、美術館でした。足を踏み入れたとたん、作品の背景とシンクロしました。

「あっ、ここだったのか」と、感慨深かったことを思い出します。

 

おおうち・まこと/1949年、茨城県生まれ。法政大学工学部卒業後、モータージャーナリスト・星島浩氏に師事する。1979年にドイツ・ミュンヘン在住のイラストレーター、H.シュレンツイッヒ氏のもとで透視図(テクニカルイラスト)の描き方を学ぶ。1年半にわたるイラスト留学を終えて帰国。以降、自動車メーカーや雑誌に多くの作品を提供している。正確で緻密な表現に定評がある。AAF会員

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