
ホンダNSX-R(E-NA1型)。NSX-Rは「ピュアスポーツ」を標榜して1992年11月に発表。カタログでは「相応のテクニックを持つ、ひと握りのドライバーのためにあつらえた究極のロードスポーツ、異端のハイパフォーマー」と表現した。レーシーな走りは徹底した軽量化と、エンジンの高精度化、そして足回りのセッティング変更で実現
NSXに刺激的なタイプRが加わった。ボディカラーは落ち着いた白だが、この色を見て「あっ、これは……」と昔を思い出す人がいたら、そうとうなレース通、F1通だ。そう、この白は1964年にホンダが初めてF1に参戦したときと同じカラーなのである
まだ日本が自動車後進国だった1960年代、日本製マシンがF1を走る、という大きな夢を実現してくれたホンダに強い思いを抱く人には、この白は大きな意味を持つ。イメージカラーを決めたホンダスタッフの心にも、そうした思いがあったことは、容易に想像できる。
そのNSX-Rは、走りに徹底的にマトを絞ったチューニングが施されている。
1230kgのウェイトは標準仕様と比較して120kgも軽い。これはパワーに換算すると27.5psの向上に値するという。エンジンもパワースペック(3リッター・V6ツインカム24V、280ps/30.0kgm)こそ変わっていないが、中身はより強化/高精度化された。軽量化とエンジンリファイン、そしてファイナルレシオが4.062から4.235へと引き下げされたことによって、0→400m加速は標準モデルの13.7秒から13.1秒(メーカー公表値)へと大きく向上している。専用スプリング&ダンパーの採用を中心に、シャシーも大幅に強化された。
ドアを開けるとNSX-Rのキャラクターはひと目でわかる。鮮やかな赤のレカロ製フルバケットシート、MOMO製本革巻きステアリング、チタン削り出しシフトノブなどが、一瞬のうちにこのクルマの熱いキャラクターを伝えてくる。
ただし、センターコンソールやドア部分に貼られたカーボンのパネル(80万のop設定)は、いかにも取ってつけた感じだ。マテリアルの質感という点でも、クルマに馴染んでいない。
しかし、そんな不満も走り出せば、一瞬のうちに消え飛んでしまう。NSX-Rは、それほど刺激的なアプローチでドライバーに迫ってくるのである。
タイトなバケットシートとMOMO製ステアリングは、触れただけで走りの期待をぐんと高める。チタン製の短いシフトレバーがもたらすダイレクトなシフト感は、このクルマのスパルタンなキャラクターを鮮明に手のひらに伝えてくる。さらに、強化されたサスペンションが小さな凹凸を忠実に拾い、強く体が揺すられることによって刺激が高まってくる。ドライバーは手綱を絞った悍馬にまたがっているような強い昂りに導かれていく。そして「こいつはロードカーなんかじゃない。レーシングカーだ」という熱い結論にたどりつく。
NSX-Rの開発コンセプトは「サーキット走行を存分に楽しめ、そのまま自宅の往復もできる」ことだという。仕上がりは、まさにコンセプトどおりだ。
NSX-Rは非常にタフなスポーツカーである。まともに走らせようとすれば、ドライバーにもタフなマインドと肉体を遠慮会釈なく要求してくる。
限界は非常に高い。安定感もある。NSX-Rの限界領域でのコントロール性は高性能なMR車として文句なく高いレベルだ。切れ味のいいピックアップを示すエンジンとタフなパワートレーンも素晴らしい。クルマと路面との関係を正確に伝えるステアリングにも拍手を送りたい。ブレーキのタッチと、タフさも折り紙付きだ。ただし、限界的なブレーキングでは、フロントの絶対荷重の軽さからくるロックポイントの早さが気になった。
NSX-Rはサーキットレベルの走りでも多くのスポーツカー・ドライバーを虜にすることは間違いない。しかし、すでに指摘したように。NSX-Rをそれらしく走らせるには、そして、大きな喜びを味わうには、テクニックだけではなくタフな肉体をもドライバーに要求することを知らなければならない。強く揺すられ続けられながら、ステアリングの強いキックバックと戦い続けるのは鈍った肉体では難しい。
このクルマを日常の足に使うことは不可能ではないが、ボクは勧めない。ましてやガールフレンドを誘ってのドライブなどはもってのほかだ。開発スタッフがいうように、NSX-Rはサーキットで走ったときにこそフルに真価を発揮する。そんなタフで贅沢なクルマである。
※CD誌/1993年1月26日号掲載
