【日本車黄金時代】日産スカイラインGT-R(R32型)はサーキットで鍛えたスーパーマシン。その速さはまさにパーフェクトだった

R32型スカイラインGT-Rは16年の空白期間を経て1989年5月に復活(発売は8月)。カタログ冒頭で「生まれながらにして伝説的な存在になることを運命づけられたクルマである。」と語りかけ、特別な1台であることを印象づけた。パフォーマンスは鮮烈そのもの。高性能RB26DETT型エンジン(280ps/36.0kgm)と電子制御4WD(アテーサE-TS)がタッグを組み、新たな「GT-R神話」を瞬く間に確立した

R32型スカイラインGT-Rは16年の空白期間を経て1989年5月に復活(発売は8月)。カタログ冒頭で「生まれながらにして伝説的な存在になることを運命づけられたクルマである。」と語りかけ、特別な1台であることを印象づけた。パフォーマンスは鮮烈そのもの。高性能RB26DETT型エンジン(280ps/36.0kgm)と電子制御4WD(アテーサE-TS)がタッグを組み、新たな「GT-R神話」を瞬く間に確立した

絶対的な速さだけでなく、走りの奥行きが素晴らしい

 スカイラインGT-Rには、ずいぶんいろいろなシチュエーションで乗った。日本のサーキットはもちろんのこと。あのニュルブルクリンク・サーキットも走ったし、アウトバーンを文字どおり全開で飛ばしたこともある。

 GT-Rの凄さは、ただ速いとかパワフルだとかいうだけではない。奥行きの深さにある。ケタ外れのスタビリティ、路面を選ばないワイドレンジな戦闘力、ドライバーとマシンの高い一体感……そのすべてが触れる者に凄みを抱かせる理由になっている。

 ツインターボで武装した2.6リッターのエンジンは280ps/6800rpmの最高出力と36.0kgm/4400rpmの最大トルクを発生する。十分にエキサイトできるスペックだ。レーシングチューンするのを前提に開発したエンジンだけに、ポテンシャル的にたっぷり余裕が残っているのはいうまでもない。

エンジン

 GT-Rのユニットは単にパワフルという表現では足りない。全体にとてもフィールがいい。各部の剛性レベルがきちっと仕上げられているためだろう。その回転感の質のよさ、透明度の高い音にはほれぼれする。とくに高回転域でのハイピッチなサウンドは、官能的とさえいえる。4000rpm前後からのパワーの盛り上がりも見事だ。ドライバーの気持ちを高揚に誘う明確なステップを刻む、しかもジャジャ馬と感じさせない、リニアさをキープしているのがいい。ハイチューンのターボエンジンながら、むろん日常性能もしっかりと確保している。つまり、街をゆったりと流すときもとくに気を使うような必要はない。

 GT-Rのいちばんの魅力、それはいうまでもなく「速い」という事実だ。とにかくGT-Rは速い。いろいろなシチュエーションでGT-Rは前述のようにボクをエキサイトさせ、快感のウズにボクを引き込んだ。GT-Rはどこでも速いスーパーマシンなのである。

 もちろんケタ外れの速さの理由はエンジンにあるが、それよりも注目しなければならないのは卓越したシャシー性能だ。最新の技術と最高の磨き込みで仕立て上げたシャシーは、かつて体験したことのない「異次元感覚」を生んでいる。中でも驚異的とさえいえるのが、スタビリティの高さだ。

横走り

 アウトバーンをガンガン飛ばしながら、緊急回避的レーンチェンジにトライしてもGT-Rはビクともしない。たとえ230km/hでタイヤが大きな悲鳴を上げるくらいの急なレーンチェンジにトライしたとしても、GT-Rはその無謀な操縦に難なく追従してくれる。この「鬼のような高速スタビリティ」は文句なく世界一だ。

 スタビリティの高さはアウトバーンのような超高速域だけでなく、ツイスティな山岳路やサーキット走行でも真価をフルに発揮する。だから誰もが想像以上に速く走れてしまうのである。

 GT-Rは、電子制御4WDシステム(アテーサE-TS)を組み込む。ハイテクでコントロールするシステムと、人間の手と感性で仕上げたベース部分との高度な融合は、4WD車にかつてなかった新次元の走りとコントロール性をもたらした。

 基本的にはFRで走り、必要に応じて適正なトルクを前輪に送り込むという考え方だが、そうすることによって、FR車の操縦の楽しさと自由度の高さを確保しながら、4WD車のトラクションも獲得するという目標を見事に達成している。

リアイメージ

 280psというと「ボクの腕で大丈夫かなあ……」といった不安が胸をかすめる人は少なくないだろう、だが、GT-Rが相手だと、ものの30分も走るか走らないかのうちに「もう少しパワーがあってもいいなあ」などと思い始める人が出てくるはずである。

 ここまで報告すれば、GT-Rのシャシーのポテンシャルの高さを、イメージとして把握してもらえたのではないか。しかし、だからといって油断は禁物だ。

 GT-Rの異常なまでの乗りやすさ、安心感の高さには、多くのドライバーを「かつて経験のできなかったすごいスピード域に平然と踏み込ませる」という危険が潜んでいる。そういう意味ではGT-Rのドライバーには、少々のドライビングテクニックよりもセルフコントロールができる人間か否か、といった資質のほうが、より要求されるように思う。
※CD誌/1992年1月26日号掲載

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