ジョーハン製キャデラックの魅力/畔蒜幸雄さんの好きな作品・代表作(2025年9月号)

モータリゼーション発展途上に日本人が憧れた。1960年代キャデラックの流麗なスタイルと輝きを再現

 日本を代表するプロモデラーのひとり、畔蒜幸雄さん。今回の作品は、1950年〜60年代、空前の好景気に沸いていたアメリカ黄金期の象徴ともいえるキャデラックです。60年代当時、超高級輸入車のキャデラックの日本販売価格は650〜730万円だったそうです。ちなみに、同時期の大卒初任給は2万円前後でした。日本人が憧れた豪華なアメリカ車を、畔蒜さんのモデルで鑑賞してはいかがですか。

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 アメリカのキャデラックはボクの好きなクルマのひとつです。とくに、1960年代の流麗なスタイルは魅力的です。当時、プラモデルキットは、ジョーハン(Johan)というメーカーから販売されていました。もともと実車の販売促進用に作られた完成スケールモデルから組み立てキットにしたもので、1960年から1970年までは毎年実車の販売と同時にリリースされていました。毎年コレクションできて、年式によるディテールの違いが手に取るようにわかります。これを知ったときにはすでに絶版になっていましたが、国内外の絶版ショップやオークションサイトから入手して、キャデラックのラインアップはほぼ集めることができました。

作品①『1961年式キャデラック・フリートウッド(1961 Cadillac Fleetwood )』プラモデルキットメーカー:ジョーハン(Johan)1961年製 スケール:25分の1 製作:2012年 製作期間:約1カ月

 1962年までのジョーハンのキットはとてもシンプルなパーツ構成で、エンジンは付属せず、ボディとシャシーはそれぞれ1ピース成形でした。1963年からエンジンが付属して、フードが別パーツになりました。一時的に前輪がステアする仕様になりましたが、基本的にモーター走行ギミックなどは装備していないディスプレイモデルで、これがアメリカにおけるプラスチックモデルのスタンダードなフォーマットになったようです。

 今回ご紹介する2台はとても貴重なプラモデルで(25分の1スケール)、さすがにキットフォームでは見つからず、塗装済みの完成モデルを入手しました。完成品ながらパーツの損傷はなく、オリジナルのパーツはほぼ揃っていました。それを分解して塗装をすべて剝離し、プラスチック素材に戻してから再塗装して、組み立てました。前後のバンパーやホイールなどの傷んだメッキパーツは、メッキを剝がして再度蒸着メッキ加工を施しました。ご覧のように、とてもシャープで流麗なディテールを再現しているのがジョーハンのプラモデルの素晴らしい特徴です。

 作品①ブラックの『1961年式キャデラック・フリートウッド』は、前年の60年式からモデルチェンジされ、それまでの特徴だった高いテールフィンが少し低くなって、全体に直線的なデザインに変わったモデルです。テールフィンだけでなく、下向きにも小さなフィンがあるのも特徴です。ウィンドシールドがラップラウンドしているのは50年代の名残です。

 ブラックのボディカラーにしたのは、当時のカタログを眺めていて、4ドア・ハードトップにはやはり黒がキャデラックのイメージにぴったりだったから。使用したブラックはいわゆる漆黒で、濃く深い色合いです。そしてホワイトウォールのタイヤが足元を引き締めます。

作品②『1962年式キャデラック・フリートウッド(1962 Cadillac Fleetwood)』プラモデルキットメーカー:ジョーハン(Johan)1962年製 スケール:25分の1 製作:2019年 製作期間:約1カ月

 作品②グリーンの『1962年式キャデラック・フリートウッド』は、映画『グリーンブック』(2018年作品。第91回アカデミー賞作品賞受賞)に登場した1962年式キャデラックのイメージで製作しました。『グリーンブック』は、黒人ピアニストとイタリア系用心棒が、アメリカ南部を演奏旅行した実話をもとにしたロードムービーです。

 劇中のクルマは1962年式シリーズ62デ・ヴィルの4ウィンドウ・セダンと思われ、映画のタイトルからグリーンに塗られたようです。プラモデルは同じ年式ですが、ボディ形状は厳密には劇中車と異なり、後部ドアにクォーターウィンドウが存在する6ウィンドウという形式です。ボディカラーは、1962年式キャデラックの純正色Turquoise Metallic(カラーコード29)を実際のカラーチップに合わせて調色しました。実は、映画のクルマのグリーンは、この色より鮮やかなイメージでした。

 こうして2台並べてみると、落ち着いたブラックと華やかなグリーンの違いで、こんなにもイメージが変わり、前後のグリルやテールランプなどわずかなディテールの違いが浮かび上がる興味深いモデルになりました。  実は、ボクの好きなキャデラックは、この61、62年式です。コレクションした1958年から1970年までのキャデラックのラインアップを完成させて、心ゆくまで鑑賞したいと思っています。

 ボクが好きなデザインはシンプルで流れるようなイメージ。日本車ではマツダ車のデザインが好きです。アメリカ車ではシボレー・コルベットのデザインが気に入っています。1960年代が好みですが、先代のC7型もいいと思います。期待していたミッドシップのC8型は複雑なキャラクターラインが多く、シンプルで流れるようなイメージから遠ざかった感じがします。キャラクターラインが多いのは、時流(流行?)でしょうか。

 ボディカラーは、黒系/白系のモノトーンが多いなかで、軽自動車に使われるグレーやベージュ系で淡くやや濁った感じのカラーが気になります。

 そんなボクも一時、淡いグリーンの日産ルークスに乗っていました。買い換えるときに、「ヤワな色は嫌だ!」という妻のひと言で、メタリック・オレンジのデイズになりました。それにしても日産の軽自動車はよくできていると思います。買物などの普段使いはもっぱら軽自動車、たまにマニュアルのNDロードスターで気分転換しています。

あびるゆきお/1957年、東京都生まれ。プロモデラー。学生時代から模型雑誌の作例製作や執筆を始める。1990年に独立、自動車メーカーやミニカーショップの作品などを製作した。最近は分冊百科のミニカーや組み立ての監修を手がけている。AAF オートモビル・アート連盟会員。千葉県在住

インタビュアー/山内トモコ

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