スタリオンは、三菱のトップ・オブ・スポーツとして1982年5月にデビュー。当時「フルライン・ターボ」を標榜していた三菱の代表としてG63B型・2リッター直4ターボ(145ps/22.0kgm)を搭載。983年7月にはインタークーラーを追加し最高出力を175psにアップ。翌1984年6月には200ps仕様も誕生。1989年まで生産された
スタリオンは三菱の本格派スポーツである。試乗車はGSR-Ⅱだ。ギアボックスは5速MT、価格は199万5000円(東京地区)。ターボの中では下から2番目のグレードだが、装備は十分だ。
シートはスウェード調素材を張ったフルサポートタイプで、AM/FMマルチラジオと、カセットデッキが標準。メカ的にも上級モデルとほとんど変わらない。試乗車にはオプションのアルミホイールと、ブリヂストンの高性能タイヤ、ポテンザが組み付けられていた。
欧州仕様をドイツで走らせたとき、かなり人目を集めた。ニューモデルに慣れている日本でも、スタリオンの精悍なルックスは、注目のマトだった。静かに走っているときでも、パワーエリートらしいムードがにじむのか、ハイウェイで、交差点からのスタートで、RX-7やランサーEXターボ、フェアレディZといったクルマのドライバーから、よくスピード競争を仕掛けられた。そんなときには、ほんの一瞬フル加速をし、たちまち相手をリード。スタリオンの実力の断片をはっきり見せてやった。スタリオンの強力な加速は、ほんの一瞬のバトルでも、ライバルに敬意を抱かせるに十分な実力がある。
エンジンは、シグマ/ラムダ・ターボと共通のG63B型ターボエンジンを搭載している。5速のギアボックスも同じだ。だがファイナル比は違う。シグマ/ラムダは3.545だが、スタリオンは加速力アップを狙って3.909と大きくなった。したがって、ゼロヨンのタイムもシグマ/ラムダが16.5秒、スタリオンは16.1秒と0.4秒も速い。これは定員乗車のタイムだから、1人乗りなら当然15秒台に入るはずだ。少々のライバル車が並んだとしても、まず負ける心配はない。このスタリオンに、まともに勝負を挑めるダッシュ力を持つ日本車は、ほんの数えるほどしか存在しない。
ところが、比べるライバルのいない孤独な走りでは、せっかくの速さが感じられない。ターボの効き具合がスムーズで、パワーが段階を刻まずにカーブを描いて上昇すること、1/2速の低めのギアリングが理由だろう。低いギアリングは、パワーの伸びをすぐに頭打ち状態にしてしまう。パワーがグーンとアップし、スピードが伸びていく、あのシビレるフィーリングが1/2速では体感できないのは残念だ。
ボクの考えをいえば、ファイナル比をシグマ/ラムダと同じ3.545にしたほうが、トータルとしていい結果を生むように思う。
GSR-Ⅱのステアリングはパワーアシスト付き。クルマの動きはなかなか軽快で、いかにもスポーツ車らしい。ちょっと飛ばす領域なら、ゴキゲンな気分に浸れる。ステアリング特性は一般的なスピードレンジでは弱いアンダーステアだ。軽いステアリングの手応え、高いコーナリングパワーを示すポテンザ、レスポンスのいいサスペンションの美点が最高に発揮される。足をしっかり地につけ、しなやかにロールする感触はゴキゲンだ。飛ばすのはほどほど、というユーザーは、パワーステアリングの軽めの操舵力を含めて、ハンドリング/ロードホールディングに大いに満足するに違いない。
だがホットにワインディングロードを攻める本格派になると、完全にニコニコしてはいられなくなる。限界に近いスピード領域では、パワーステアリングとサスペンション、そしてポテンザのマッチング問題が、表面化してくる。追い込むにつれてアンダーの度合いが強まるのだ。とくにタイトコーナーだと、その傾向が顕著だ。最終的にはリアは流れ出すが、そのコントロール性はややシビアである。パワーステアリングとサスペンションのセッティングを、頑張っていま一歩、煮詰めてほしい。
日本の道路環境の中のスタリオンは、スピードもキビキビした身のこなしも、よかった。新登場のスポーツカーにふさわしい実力を備えている。現在でも魅力的だが、足回りのポテンシャルをビシッと磨き上げれば、それこそ素敵なクルマになるのは間違いない。その日が一日も早く来てくれ、と願おうではないか。
※CD誌/1982年12月号掲載
【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員