ポルシェ911の凄さを知ったのはいまから20余年前。空冷から水冷に切り替わったタイミングだ。自動車雑誌の編集をしていて、ポルシェ特集を企画するたびにその奥の深さを知った。RRを貫く意味やその特性、そのために行ってきたことなどをページにまとめた。当時はディープにポルシェを語る先輩モータージャーナリストが多かったので、その原稿も隅々まで読んだ。「空冷ポルシェ、乗らずに死ねるか!」ってタイトルの特集は、いまも鮮明に覚えている。
もちろん、それまでにもポルシェ911に触れる機会は多々あった。10代の頃のスーパーカーブームもそうだし、20代、30代は964オーナーが回りにいた。
でも、当時はあまり興味なかった。空冷エンジンの音はうるさいし、振動も大きくて乗り心地は悪い。それにキャビンは狭くて隣の人と肩が当たりそうなくらいだった。男同士だとむさ苦しい。
カタチもそう。カエルに例えられるスタイリングに魅力は感じなかった。丸っこくてボテっとしていて、目が飛び出ている姿はまさにカエル。街で見かけるそれは今日のような白黒シルバーではなく、緑色や黄色もあったからまんまそうだ。
それよりもボンネットが長くてシュッとしたFRスポーツカーのほうが好み。96年リリースのジャガーXKやコルベットC5/C6、フェラーリ411/412、それに550/575Mあたりだ。正直いまもこれらはかっこいいと思っている。が、現在も購入には至っていない。
ところが前述したように、ポルシェ911に関しては知れば知るほど強く関心を抱いた。
なので40歳のとき、頑張ってきた自分にご褒美として購入を決意。走行1万kmの996後期型のカレラを手に入れた。希望のバサルトブラックである。
がしかし、ポルシェの集まりに乗っていくと水冷と空冷では、オーナーたちの間の空気感が異なっていた。まだ水冷をネガティブな進化と思っていた人が多い時代だ。996型はヘッドライトの形状を含め異端児的な扱いをされていた。
被害者的妄想でいえば、「空冷を所有したことなくて911を語っても説得力ないし」みたいな。皆さんいい人だからそんなことを口にする方はいらっしゃらないけど、そう感じてしまったのは事実。だったら一度空冷に乗って、それからまた水冷に乗り換えようと考えた。
そこで、1年後996を1996年型993タルガへバトンタッチ。空冷ライフが始まった。すると「空冷オーナーってこんなにいっぱいいるんだ!」ってくらい、いろんな人と知り合う。いわゆるオタクな人たち。山ほどいらっしゃいますね〜。
そんな空冷ライフがそのまま8年続いて、その後997カレラへ乗り換え10年以上乗った。複数台所有できたので趣味的なクルマを持てたのは実にうれしい。
その間、時代は991、992へと移り、今回の992-2となった。空冷から水冷は衝撃的だったが、電動化というのも同じくセンセーショナルである。 でも今回はネガティブな受け取り方はしないだろう。
理由は、電動化はサーキットからのフィードバックであることと、非電化モデルがあること。もしかして首脳陣は水冷化のときのマーケットの反応を学習してこうしたのかもしれない。いっせいに移行するのは危険と。
そしてそれは大成功。いまはGTSの資料を読むとワクワクする。早くモーターを積んだ911を走らせてみたいもんである。
くしまたつや/モータージャーナリスト。2025-2026日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。『Car Ex』副編集長、『American SUV』編集長など自動車専門誌の他、メンズ誌、機内誌、サーフィンやゴルフメディアで編集長を経験。趣味はクラシックカーと四駆カスタム