小沢コージ●クルマや時計、時に世相まで切る自動車ジャーナリスト兼TBSラジオパーソナリティ。『ベストカー』『MONOMAX』『webCG』『日刊ゲンダイDIGITAL』「カーセンサーEDGE』で自動車連載、『時計BEGIN』で時計人物連載。毎週土曜17時50分~18時TBSラジオ『小沢コージのカーグルメ』
●バッテリーEV後進国ニッポン? にてコンパクト系メルセデスEVはどう
いまや待ったなしの世界的EVシフト。
なかでもドイツ勢のEV戦略は積極的で、VWのIDシリーズはもちろん、メルセデスも一昨年のEQCを皮切りにEQブランドをスタート。バッテリーEVモデルを連発しているが、ついに日本最適モデルが上陸した。コンパクトSUVのEQAだ。
コンパクトというには1.8mを超える横幅がちょっとツラいが、全長4.4m台はなかなか扱いやすい。
ただし、日本市場に限るとEVはまだ難しい部分もある。国産EV筆頭の日産リーフでも年販2万台レベル。2020年の国内実績を見ると、ハイブリッドは多いがバッテリーEV比率は1%以下。EVは魅力的だと思っても、充電事情などで二の足を踏むユーザーが多い。
はたして期待のEQAはどうなのか? 実際乗って小沢が試してみた。
EQA最大のポイントは、骨格がガソリン車のキャリーオーバーである点。
全長×全幅×全高が4465×1835(1850AMGライン)×1625mmというボディサイズからも想像できるが、プラットフォームはコンパクトSUVのGLAがベース。丸みを帯びたボディフォルムにしろ明らかにGLA譲りだ。
●最大の要点は価格とリアシートスペース
ベースが一緒とはいえ、見た目の独自感は高い。それは凝ったディテールのお陰だろう。
GLAはヘッドライトとフロントグリルが分離しているがEQAは完全に一体化。ライト上部に鮮やかなブルーの装飾が入り、LEDラインがグリルを通じて左右繋がっている。
さらにグリルに見える部分は実際にはその役目を果たさない。空気を通さないフラットパネルでGLAとは大きく異なるのだ。
リアコンビネーションランプも同様。左右ライトがLEDライン入りのガーニッシュでつながり、フロント同様の一体感。夜になるとLEDラインが光り、一体感は一層高まる。
一方でインテリアは、ほぼGLAのまま。10.25インチ×2の超横長ディスプレイはもちろん、ジェット機のタービンをイメージさせる3連エアアウトレットも同様。
ただし、ディスプレイ内グラフィック表示は一部EQオリジナルになって、助手席前の装飾パネルも独特のハイテクメタリック調。それなりの"EV感"はある。
最大の問題はリアの居住性とラゲッジだろう。
EQAは66.5kWhという巨大リチウムイオン電池を搭載している。それを前列床下から配しているため、リアシートの床は露骨に高い。
これこそがガソリン車プラットフォームをキャリーオーバーした最大のネガで、エンジンルームは逆にスペースが余っている。
結果として、身長176cmの小沢がフロントに座り、次にリアに座ると、ヒザ前も頭回りも余裕だが、唯一両足モモ裏が浮いてしまう。シート座面が低すぎるからだ。
ラゲッジも同様で、GLAから数10L少ない340L。このあたりは少々考える余地ありだ。
一方、素晴らしいのは滑らかさと静粛性。190ps&370Nmのフロントモーターと66.5kWhの電池が生み出す走りは素晴らしい。
発進加速はメルセデスらしくゆったりとした味わい、それでいてパワフルかつコントローラブル。テスラEVのような驚異的速さはないが、研ぎ澄まされたメルセデス・ベンツの振る舞いである。
フル充電からの航続距離は422kmだが、今回初夏に乗った時点でのメーター表示は354km。
正直もうちょっと欲しい部分もあるが、EVとしては上出来。長距離を含め、普段使いに困る部分は早々ないだろう。
残る最大のネックは640万円という価格で、単純にGLAのベーシックグレードと比べると約145万円高い。
だが、66.5kWhの大容量電池を考えると逆に安いともいえる。なぜならもしもメルセデスがEV専用プラットフォームを開発していたらこの値段じゃ済まないはずだからだ。
骨格を共有しているからこそこの価格。補助金を上手く使えばもしや500万円台での購入も可能。メルセデスブランドの本気のEVと考えれば決して高くはない。
はたしてEQA、日本でどれくらい人気となるか、注目だ。