【岡崎宏司カーズCARS/CD名車100選】これぞロックな走り! 痛快、常識破り。世界初3気筒1リッターディーゼルを搭載した1983年「ダイハツ・シャレード」の驚き

1983年式ダイハツ・シャレード(G30型)。シャレードはダイハツの独自技術を傾注したリッターカー。2代目は、世界最小の1リッター直3ディーゼル(38ps/6.3kg・m)をラインアップし、1983年1月に登場した

1983年式ダイハツ・シャレード(G30型)。シャレードはダイハツの独自技術を傾注したリッターカー。2代目は、世界最小の1リッター直3ディーゼル(38ps/6.3kg・m)をラインアップし、1983年1月に登場した

1000ccディーゼルが生むホットで力強い走りに感動。これはクールだ!

 いや、驚いた。1000ccしかない小さなディーゼル車が、これほどガンガン走るとは思わなかった。メーカーが「Rock’n Diesel」と名付けるくらいだから、多少はこれまでの常識レベルを上回る性能を引き出せたのだろうと考えていたが、出来は予想以上だった。

 ダイハツは1気筒当たり330㏄の3気筒・1リッターという。世界最小の乗用車用ディーゼルを立派に完成させた。しかも並の出来じゃない。パワー、静粛性、燃費、すべてがゴキゲンなレベルに仕上がっている。ニュー・シャレードは新しい「常識」を打ち立てたのだ。

 小排気量ディーゼル車には、シグナルGPではいつもどん尻グループ、ハイウェイに入れば全開また全開でやっと流れについていく……そんなイメージがつきまとう。予想はまさに大外れ。うれしかった。シャレード・ディーゼルは元気に、抜群に活発に走り回る。

 ゼロヨンにトライすれば、ゴルフ・ディーゼルといい勝負ではないか。ジェミニ・ディーゼルが相手でも、僅差だろう。とにかく速い。

カタログ01

「これ、1000㏄ディーゼルなの? 本当に?」と、エンジンをのぞきたくなる。しかもこのディーゼルは、ガソリンエンジンみたいによく回る、38psのマキシマムパワーは4800rpmで発揮する。タコメーターのレッドゾーンは5000rpmからだが、ローやセカンドでフルに引っ張ると5500rpmあたりまで楽に到達する。むろんパワーは落ち込むから、そこまで引っ張る意味はない。それでも、そこまでスンナリ回ること自体がディーゼルエンジンとして驚異的だ。

 シャレード・ディーゼルは、混雑する市街地でとりわけ生き生きと走る。活発な出足と小柄なサイズのメリットだ。2000rpm以下のトルクは太くないので、市街走行では3速ギアを多めに使うが、そのくらいはガマンすべきだろう。マメな操作をするだけで、2倍も3倍も燃料を喰うクルマと、実用的にはひけをとらない走りをするのだ。

 ハイウェイでも、加速車線をフルに使わなくても、らくに本線の流れに流入できる。100km/hのクルージングは、たっぷり余力を残している。平坦路でアクセル全開にすれば、130km/hあたりまで楽に達する。わずかでも下りになれば、メーターはさらにグングン伸び、一度は150km/hをマークした。

 登りはどうだろう。ハイウェイの登り勾配は、通常3〜4%くらいまでだが、むろん4速にシフトダウンすれば、OKである。乗員2名までなら、ハイウェイの登り坂で流れに遅れる心配は、ほとんどない。

エンジン

 次に静粛性を報告しよう。こちらもシャレード・ディーゼルは合格だ。しかも、かなり高い点がつけられる。アイドル時のディーゼルノック音は、早朝や深夜の住宅地などでは、やはりそれなりに響く。だが音質で救われる。不快なキンキン音は見事にカットされ、音量のわりにうるささを感じない。振動は、3気筒ということもあり少し目立つが、音のほうは慣れてしまえば平気だろう。

 試乗前と試乗後で、うれしい誤算だったことがもうひとつある。「1時間も乗れば、疲れるだろう」という事前の予想が完全に外れたのだ。長時間、運転しても全然疲れない。こもり音を抑えたのがプラスに作用しているのかもしれない。

 実力のシャレード、この小さなディーゼルは平凡ではなかった。走りでも快適性でも、「ディーゼル車の常識」をひっくり返してしまった。

 当然、燃費はまったくゴキゲン。箱根、富士五湖周辺をフルスロットルで走りまくって、東京へ帰って燃費を測ってみたところ、なんと19.8km/リッターをマークした。同じコースを同じように走ったガソリンは16.6km/リッターだった。こちらもいい数値だが、ディーゼルはずば抜けている。淡々と流せば、燃費はさらにアップするのは間違いなしだ。

 シャレード・ディーゼルの走り、快適性、経済性のバランスの高さは大したものだ。ハイパワーのガソリンターボ車でブッ飛ばすのもいいが、こんなクルマを乗りこなすのも粋だし、浮いたお金を他に回して心豊かに生きる……そんな時代ではないか。
※CD誌/1983年4月号掲載

室内

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表紙

【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員

 

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