ホンダ・シティ・ターボは1982年9月にスポーティモデルのターボが登場。1.2リッターながら100psを発揮する強心臓と超軽量ボディの組み合わせでクラスレスの速さを実現した。トップスピードは175km/hに到達
シティ・ターボはまったく速い。これほど痛快に走る、刺激的な国産車に出会うのは本当に久しぶりだ。
シティがデビューして、やっとホンダらしいクルマが誕生したと思ったが、シティ・ターボは、輪をかけてホンダらしい。ホンダS600がデビューしたとき、初めてステアリングを握ってボクは熱くなった。同じ感激を、このシティ・ターボに感じることができた。「ホンダはこうでなくちゃいけない」と思うのである。
シティ・ターボの素晴らしい実力を見よう。まず、ノンターボに対するパワーアップ率が、なんと50%である。国産ターボ車のパワーアップ率は、だいたい20〜30%前後だから、驚異的なターボ効果だ。
そのハイパワーを生み出す過給器は0.75㎏/㎤。これは無鉛ガソリン仕様車としては、世界最高の過給圧だ。しかも、ノッキング問題もうまく処理している。ホンダ技術陣の頑張りは、シティ・ターボの100㎰/5500rpmの最高出力と、14.0㎏m/3000rpmの最大トルクに現れている。リッター当たり出力はエンジンの高性能ぶりを示す基準のひとつだが、シティ・ターボは実に81.2㎰/ℓである。
この驚くべきエンジンとコンビを組むのが、わずか690㎏のウエイトだ、パワーウェイトレシオは6.9㎏/㎰にすぎない。
0→100㎞/h加速は8.6秒。0→400mは16.3秒(2人乗り)、トップスピードは175㎞/h。これがシティ・ターボのパフォーマンスデータだ。スポーツ派のユーザーでも、これなら不満はないだろう。その速さは、自分の手でステアリングを握れば、たちまち体験できる。フルスロットルでスタートを切るときの加速ぶり、とくに1速、2速での凄みに、しびれるに違いない。
スタートダッシュを誌上再現しよう。フル加速の場合は、4000〜4200rpmあたりでクラッチをミートするのが、いちばんいい。それ以上だと前輪が激しいホイールスピンを起こし、タイムロスの可能性がある。4000rpmプラス。クラッチをやや滑らせぎみにしてミートしてやる。とたんにシティ・ターボはノーズを上げ、ダッシュ開始。フロントタイヤから、かすかな悲鳴が上がる。その悲鳴が止むと同時に、グンとフロアまでアクセルを踏みつける。ターボインジケーターの液晶表示の色が、パッと広がった。過給圧の急上昇を告げる光の流れ。まるで夜空に咲く打ち上げ花火だ。回転計も速度計もまた、一気に上昇する。一瞬のうちに回転計はレッドゾーンの6000rpmを超え、6500rpmに達してしまった。ここで燃料カットが作動する。
1速では加速を味わっているヒマなんかない。すぐに2速にシフトアップだ。2速の加速も凄い。あっという間もなくまたマキシマムに達してしまう。すでにスピードは85㎞/hをオーバーした。素早く3速へ。ようやくホッとひと息つき、全身で加速感にひたる楽しさを味わう。「すごかったな……」とニンマリする余裕が出てきた。
足のポテンシャルも報告しておこう。試乗する前には、さぞガチガチに固められているだろうと心配していた。だが意外にも、自然吸気のシティRよりずっとしなやかだ。乗り心地も快適である。
シートの座り心地が大幅に改善されたことも、ロングツーリングの疲れを最小限に抑えてくれる理由のひとつだ。フロントシートは、サーキットなどでの高速走行でも不満のないサポート性と、日常走行での快適な落ち着きのよさを実現している。シティターボの乗り心地/静粛性を含めた高い快適性は、わずか690㎏の軽量小型車として、文句なしの一級品だ。他のシティとは格が違う。
ハンドリングもよくまとまっている。乗り心地重視のため、セッティングには、やや甘いかなと感じるところもあるが、ドライビングは実に楽しい。サーキットなら筑波はあまり得意ではないが、鈴鹿や富士ではかなり高い戦闘力を発揮するといった感じだ。
シティ・ターボはコンパクトスポーツの基準を変えた。キミたちもぜひこのフィーリングを体感してほしい。
※CD誌/1982年12月号掲載(表紙)
【プロフィール】
おかざき こうじ/モータージャーナリスト、1940年、東京都生まれ。日本大学芸術学部在学中から国内ラリーに参戦し、卒業後、雑誌編集者を経てフリーランスに。本誌では創刊時からメインライターとして活躍。その的確な評価とドライビングスキルには定評がある。AJAJ(日本自動車ジャーナリスト協会)会員