2022年11月に行われた、ホンダの全方位安全運転支援システム「Honda SENSING 360」の次世代技術を、一足先に試験車両を用いて体感することができたので、ここでレポートする。
今回体感できた技術は以下の通り。
1.ハンズオフ機能付 高度車線内運転支援機能&ハンズオフ機能付 高度車線変更支援機能
2.ドライバーの状態と前方リスクを検知、回避支援を行う技術
3.ドライバー異常時対応システム
まずは、自らステアリングを握って体感することになった「ハンズオフ機能付 高度車線内運転支援機能」だが、高速道路での走行中、100km/hでハンズオフ可能な状態となり、カーブの曲率に応じた減速支援を行い、スムースな車線内走行を実現させるもの。
また、「ハンズオフ機能付 高度車線変更支援機能」では、周囲の状況検知をしたうえで、前方に遅いクルマがいる場合、自動で車線変更と追い抜きを行うことができる。
いずれも、以前より搭載されているデバイスであるカメラやセンサー、そして高精度地図などさまざまなデータをもとにクルマの制御を行っているのだが、もはや決められた、あるいは想定されるパターンの中では自然に動かすことができるレベルにあるといえる仕上がりになっていた。これを使いこなすことによって、ドライバーの身体的、あるいは心理的負荷は間違いなく下げられることだろう。
次に、「ドライバーの状態と前方リスクを検知、回避支援を行う技術」を同乗試乗の形で体験した。大前提として、ドライバーは自らの健康状態を保ち、運転に支障のない状態であることは言わずもがなであるものの、もしものときにあるのがこういった技術である。
すでに実装が進んでいる車線維持、車間調整といった機能でも、ドライバーがうまく活用することによって、事故率の低減には大きく寄与することができる。ただ、意図的に活用できているときは良いが、事故とはそういったときでない、突発的に起こるのが世の常というもの。この技術は、そういったことを念頭に、普段の運転中にクルマがつねに周囲あるいはドライバーの状態を検知しており、必要と思われるタイミングで自動的に制御を介入することによって、事故を回避する助けになるためのものだ。
実際に体験したのは、追い越しをかけようとするとき、側方目視をしている間に思わず前方車両に近すぎてしまったとき、あるいはカーブに入ったときに適切な速度へと調整する減速支援。速度差があって回避行動に出たときの操舵支援だ。いずれも同乗する側からすれば、ただただ運転が行われているのを感じるだけなのだが、運転手としてはアクセルを踏んでいたつもりなのにブレーキがかかる、だとか、ステアリング操舵にも思わぬ制御がかかる、といったことをしっかりと自覚することができる。さらに事前に警告音なども含めて余裕を持って知らせるようにしているため、ドライバーが「適切な対処をしやすくする」ために、クルマが常に見張ってくれているようなイメージを持つとわかりやすいだろう。
最後に体験したのは「ドライバー異常時対応システム」。これは、ドライバーが突如意識を失うなどして、運転が困難な状態に陥った際、車両を安全に停車させる、あるいは事故の衝撃を低減させるための制御システムだ。
一般道であれ高速道路であれ、ドライバーの表情をみて運転不能だと判断された場合、車内では大きな警告音、車外周囲に対してはハザードランプやクラクションといった装置を使って、異常を知らせながら、車速を落として完全停止させるもの。自動でアクティベートさせるだけでなく、SOSボタンで手動起動もできるとのことなので、意識がもうろうとしそうになったら押す、ということを覚えておけば、より早い段階で制御を介入させることもできるとのことだ。
ホンダはかつて国産車初のエアバッグ搭載など、車体における安全技術には積極的に取り組んできた実績がある。本誌『CAR and DRIVER(カー・アンド・ドライバー)』2023年2月号でも述べたように、車体だけでなくデータ活用における実績もある。つまりは技術開発と実装・活用については積極的であるのは間違いない。
事実、すでに2022年での「Honda SENSING」搭載車の販売比率は日米では99%、グローバルでみても86%という状況。2030年にはホンダ車(二輪・四輪)が関与する交通事故死者を半減、そして2050年にはゼロを目指すという目標を掲げており、そこにむけて着々と進めていることである。ぜひ「未来の安心」に期待し、注視していきたいと感じた。
安全技術のレベル向上に明るい未来を感じる一方、不安を感じるところもある。それはメーカーの努力を水泡に帰すことになりかねない、ドライバーの運転に対する意識低下とスキル低下については加速しかねないのではないかということだ。
実際、筆者は普段からクルマ移動を行っていて、比較的安全運転支援システムを活用しているほうだと思う。かつてはその制御の荒さや勝手なイメージや奢りもあって、怖いという理由からほぼほぼ使えなかったのだが、ここ数年で乗ってきたクルマで体感した技術の進歩に感動してからは、いまでは日常では欠かせないと思うほど、すっかりお世話になりっぱなしである。だからこそ、あらためて違う意味で「怖い」とも思うようになっているのが最近だ。
商品としての「クルマ」が、ドライバーあるいは交通参加者を守るための機能が増え、技術が高まることは歓迎する以外にないし、製造者責任をもったメーカーがそこに取り組むことについては、並々ならぬ覚悟と努力が求められる、大変ありがたいことだと思う。
一方、ドライバーとしての「人」がその恩恵を自然に受け、もっといえば意識すらしなくなることになりかねないのは、自戒の念を持っておくことの必要性もお伝えしておきたい。そう、ドライバー自身の意識と運転(操作)技術はどんな時代でも、高めておくことが大事だと筆者は思う。なぜならば、最後はドライバー自身に責任があることは(少なくとも現代においては)避けようのないことなのだから。